ウェブ企業説明会はなぜ飽きられるのか? 動画と採用

常見 陽平

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長

一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士) リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師、2019年より現職。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。平成29年参議院国民生活・経済に関する調査会参考人、平成30年参議院経済産業委員会参考人、厚生労働省「多様な選考・採用機会の拡大に向けた検討会」参考人、第56回関西財界セミナー問題提起者などを務め、政策に関する提言も行っている。

ウェブ企業説明会に学生がすっかり飽きている件

「もう飽きた・・・」

この春、学生からよく聞いた声である。何のことかというと、ウェブ企業説明会の件だ。新型コロナウイルスの影響で、リアルな場での合同企業説明会、 各社の企業説明会が中止や延期になる一方で、ウェブ上での説明会を行う企業が増えている。方法は様々だが、リアルな場での説明会同様、参加人数に制限があるものもある。しかし、予約がとれたところで、中身が有益ではなく、どこも画一的で、しかも話がつまらないというのだ。

「諦めたらそこで試合終了ですよ」

『週刊少年ジャンプ』に連載されていたバスケットボール漫画『SLAM DUNK』の名セリフである。同作品が終了してから来年で四半世紀となるが、未だに色褪せない。連載終了後に生まれた現役学生たちも、だいたい4分の1くらいの人はこの名セリフを知っている。ビジネスパーソンの中には、この言葉を座右の銘にしている人もいることだろう。この困難な状況の前で、この言葉で自分や部下を鼓舞している方もいることだろう。

ただ、私はこう言いたい。「飽きられたら、そこで採用活動終了だよ」と。

なお、オンラインの企業説明会は別に新型コロナウイルスの影響だけで広がったわけではない。ここ数年、オンラインの企業説明会は広がってきた。YouTubeが動画配信のインフラとして定着した上、若者にはいまや、最も活用されているネット上のインフラの一つとなり、その利活用に取り組む企業も目立ってきた。

私はこのたび、YouTube作家という、YouTuberの支援をする方に取材する貴重な機会を得た。私自身、約10年にわたり、ニコニコ生放送、Abema TVなどウェブ上の番組に出演し、地上波のテレビなどとは異なるその流儀を学んできた。採用活動における動画の活用について、ポイントをお伝えしたい。

YouTubeネイティブ世代の学生たち

いまどきの学生たちはYouTubeネイティブ世代であることを、まずおさえておきたい。コンテンツに対する接し方、考え方がそもそも違うのだ。

YouTubeは2005年に誕生した。2006年にはGoogleが買収した。現在の大学生たちは、2000年前後に生まれているので、物心がついた頃からYouTubeは存在していることになる。

いまの学生たちは、初めて持った携帯電話がスマートフォンという世代でもある。学生たちにとって「チャンネル」とはTVではなくYouTubeのものを指す。「画面」とはテレビではなく、スマホのことだ。そして「映像」ではなく「動画」と呼ぶ。

よく「若者のテレビ離れ」と言うが、必ずしもテレビを見ていないわけではないものの、YouTubeの存在感が大きいということになる。なお、「お笑いビッグ4」と呼ばれるビートたけし、明石家さんま、タモリ、松本人志を若者は必ずしも知らないし、熱心なファンにはなっていない。それよりも、自分の好きなYouTuberに夢中になっている。

YouTubeにおいて大切なのは「距離感」である。そもそも、テレビとスマホでは物理的に距離が違うし、没入感も違う。それだけでなく何よりもコミュニケーションの距離感を意識するべきである。

さらには「熱量」が必要だ。「無駄に熱い」は褒め言葉だ。トークにしろ、演奏やダンスにしろ、そこに「熱量」があるかどうかが問われる。熱量があれば、その分野に興味がある人、詳しい人以外にも届くのだ。

YouTuberたちは、見ているファンに語りかける。コメント欄やソーシャルメディアでの反応も熟読するし、一部は個別に返信する。

なお、YouTuberに対する批判でよくあるものは「テレビっぽくなった」というものである。どういう意味か。それは、あまりに作り込まれた、予定調和的で、出演者との距離を感じるコンテンツになってしまったということだ。台本どおりにこなしている、行儀のよい発言しかしないものだ。「今日の動画、ちょっと変じゃない?」「なんかテレビの編集っぽくていやだ」というコメントが入ることがある。別にゆるくても構わない。ただ、いかにも作り込まれた行儀のよいコンテンツは嫌われるのである。

やや精神論に聞こえるかもしれないが「やる気」も重要な要素だ。距離が近いがゆえに、やる気、熱量がダイレクトに伝わってしまう。

再生回数が下がっていくYouTuberはやる気がない。なぜ、やる気がなくなるのか?それは、お金を手にしてしまい「あがり!」と思ってしまうからだ。YouTubeを稼ぐ手段と捉えていることが原因だ。逆に日本トップクラスのYouTuberは、やる気が違う。国内外の様々な動画を観て研究を重ねている。そもそも、YouTubeで活動し始めた頃には、稼ぐ手段にはなりえていなかったがゆえに、金を目的としていない。成功するのは、動画をつくるのがとにかく好きな人なのだ。

これが、YouTubeと、YouTube世代の現実である。まず、この前提を認識すべきだろう。

学生不在のウェブ企業説明会になっていないか

さて、冒頭で問題提起した「ウェブ企業説明会に飽きた」問題の件だ。ここまでの記事を読んで青ざめた人もいるのではないだろうか。そう、今、行われているウェブ企業説明会は、今どきの学生のニーズからずれているのだ。

言うまでもなく、単にウェブ配信したからと言ってウェブ企業説明会とはならない。「距離感」を意識したコンテンツになっているかどうかを問いたい。

新型コロナウイルスショックにより、ウェブの活用がさらに進んでいる。企業説明会だけでなく、選考もウェブで行う企業が増えている。経営者、人事担当者なら、テレワークの推進(と、それに対する不平不満への対応)も今、そこにある課題だろう。

ただ、この際にはウェブ特有の取り組み事項もあるが、そもそもの説明会や選考が問いなおされる。テレワークに関しても、「テレ」であるだけでなく「ワーク」そのものが問われるのだ。そもそも、社内外へのアリバイ作りのための説明会になっていないか。学生が知りたいことに応えるものになっているか。そもそも説明会の位置づけは明確か。やらされ感がにじみ出る社員が、型にはまった説明をしているものは学生にとって飽きて当然である。そこに熱量はあるか。この学生の「飽きた」という正直な声に向き合わなくてはならない。

YouTubeを事例にあげたので、誤解を招いたかもしれないが、別に私は「ゆるい」ことや「悪ふざけ」を推奨しているわけではない。ただ、学生不在のもの、距離を感じてしまうものは罪であるということだ。

日本の就活の歴史は、新メディア・ツール活用の歴史だった。そして、学生と企業が対等の立場で双方向のコミュニケーションをすることを模索し続けてきた。リクナビ、ソー活(ソーシャルメディアを活用した就活)、オファー型採用などもそうだった。私達は模索を繰り返してきたのだ。

今回のウェブ企業説明会でも、このツールの活用もそうだが、学生と対等の立場で、双方向の対話ができるか。ここが問われている。

ウェブ上で話す機会が多い、私のノウハウ

最後にややおまけではあるが、約10年間、ウェブ上の番組に出演し続けてきた私が、こだわっていることをお伝えしよう。すぐ使えることを中心にお伝えする。

・大勢に対して話さない。ある個人をイメージしつつ話す。

→「学生の皆さん」と言いつつ、参加者のうちの具体的な個人をイメージして話す。他の多くの人に響かなくても「大分出身でフォークギターの弾き語りが趣味の明治学院大学の釘崎くん」に語りかけるイメージで。

・アクションは大きめに

→スマホの画面でも伝わるように、アクションは大きめにする。このあたりは、様々な動画をみて研究する。私にとっては、2000年頃に先輩に誘われ、東京ドームのかなり奥の席でBON JOVIを見たとき、ボーカルのジョン・ボン・ジョヴィの手のひらが、モニターなしでもキレイに見えた(と感じた)ことが原体験だ。伝わりやすいムーブというものがあるのだ。

・シェアされることを意識する

→自分の発言がどのようにシェアされるかを意識する。「○○社の説明会、面白かったよ。人事の○○さんが◎◎と言っていて、めちゃ響いた」の◎◎を必至に考える。伝わる言葉、エピソードを考える。

・すれすれ感、ギリギリ感

→別にうけを狙うわけではない。ここだけの話をしてくれていると感じてもらうことが必要。「地上波ではできない」「他では見れない」と思ってもらうことが大事。

・音が割れないように注意

→ウェブ動画配信で気になるのは、映像よりも音。音が割れていたり、聞こえないとストレスがたまる。このテストは入念に。

・声を取り上げる

→視聴者の発言をなんらかの形で吸い上げることができるなら、可能であれば名指しで取り上げる。「お寿司大好き寺澤さんという方のコメントがありました」というように。声が取り上げられなかった人も、参加に対して前のめりになる。

・リアクションをデザインする

→どんな人に、どんな反応をしてもらいたいかをデザインする。終了後のアンケートで書いてもらいたい言葉をイメージしつつ発信する。

リアルでもウェブでも人前で話す基本は変わらない。今一度、立ち止まって学生から支持される説明会とは何かを考えよう。

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