第51回:採用のセオリーをぶっ壊す②-IT / DX・経営人材などの専門人材の人材要件のスペックを具体的に設定する-
人事のレガシー51「IT / DX・経営人材などの専門人材の人材要件のスペックを具体的に設定する」
レガシーを破る視点「「専門性」より「機能を満たす人材」を要件にして「原石」を見つける」
松本 利明
HRストラテジー 代表
外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。
ハイスペックな求人に人材要件の具体化が求められる理由
IT/DX等のエンジニア系の職種は職種/役職名や仕事の概要、専門性、チーム、レポートラインを含め、具体的なスペックを人材要件に具体的に示すことが重要視されています。
目的は2つ。1つは、エンジニアは自分の専門性を活かし、成長でき、かつ、働きやすい環境を好む傾向があるため、募集要項には具体的な記述があるほうが採用に有利にはたらくからです。人事制度自体をジョブ型に変更し、入社後の処遇やキャリア、働き方まで具体的に提示することも少なくありません。これは経営人材も同様で、タレントマネジメントが進む中、経営人材像も一つだけではなく、複数の人材像を用意するようになりました。
2つ目は、採用ミスマッチを防ぐことです。
確かに、IT/DX等のエンジニア系の職種は専門性等、具体的にスペックを書いておかないと見向きもされませんし、経営人材の場合もミスマッチが発生したら会社の屋台骨が傾いてしまい取り返しがつかなくなります。従って、人材要件を具体的に絞り、ミスマッチを防ごうという考えは分かりますが、これが通用するのは、大手や有名企業、成長著しく注目を集めている企業のみです。確かに欲しい専門人材は高スペックにほかならないでしょうが、そのような専門人材は転職マーケットには出てきません。
そもそも、そのような人材は世の中に数えるほどしかいません。退職する前に次の企業・ポジションは決まっているものなのです。ゆえに、在籍時からコラボする関係等で、引き抜きやすいコネクションが築かれるなど、青田買いが前提です。中小企業では同じ土俵に立てず見向きもされないのが実情です。
一方で、中小企業の場合は採用数も多くなく、 1人採用を失敗すると、組織がガタガタになるくらいのダメージを負うことになるので、なおさらスペックは譲りたくないという心理が働くのも否めません。
欲しい人材はどこも欲しいので「原石」を見つけ磨く
欲しい専門人材のスペックを「高く固める」のではなく、転職マーケットで該当する人材から、近しい求職者を採用できるように、「置き換え可能な状態を設定する」ことが得策です。専門性は土地勘さえあれば、後でも吸収できるので、求める機能を満たす視点で「ポータブルなスキル・経験」に落とし込むことで、転職マーケットにいる原石を見つけ、磨くことが正解です。
進め方をステップで解説します。
【Step.1 】入社して欲しいポジションの「役割」をマネジメント面と機能面に分け、機能面を業務の流れに沿って洗い出す
人材要件を役割で考えると、人や組織管理に関する面(マネジメント面)と事業や業務に沿って成果を出す面(機能)がごっちゃになることが多いので、この2つを分けます。そうすると、マネジメント面の専門性や経験を持つ人材は転職マーケットから多数発見できます。問題は、機能面です。ポジションが高ければ高いほど、その機能を経験して成果を再現できる人材は極少数となり、転職マーケットにはいないものです。従って、この機能面の要件から「アナロジー」を行い(=類推し)、対応できる人材を転職マーケットで探すのです。そのためには、まず、機能面を業務の流れに沿って洗い出すことから始めます。
【Step.2 】業務の流れに沿って、その機能で成果を出すキーを可視化する
業務の流れに沿って、その機能で求める成果を出すキーとなるポイント(箇所)やコツを可視化し、業務の横に記載していきます。業務の流れだけだと、どうしても専門性や自社特殊性に意識が向きますが、キー部分をみると、そのタガが外れ、要点が浮き出てきます。この要点をクリアできる経験を積んだ人材に「異業種転職」「越境転職」をしてもらうことを想定して人材要件を設定します。
【Step.3 】機能面の業務の流れと成果を出すキーポイントが似ていて、転職マーケットにいる人材をベンチマークして要件を整理する
転職マーケットの求人情報を持っているのは転職エージェントです。転職エージェントに声をかけ、異業種からこの要点をクリアできそうな候補者がいるか「アナロジー(類推)」をして探してもらいます。採用におけるアナロジーとは、機能を満たす要点をもとに、異業種でも似たプロセスや要点を押さえて、成果を出した人材を求人データーベースから探してもらい、転職マーケットで採用可能な人材要件に落とし込んでもらうことです。
結果、機能面とマネジメント面の両方から転職マーケットで見つけられる人材要件に落とし込めます。このアナロジーをもとに人材要件を設定するノウハウは、紹介だけでなくヘッドハンティングを行っている転職エージェントが有しているので、相談してみると良いでしょう。
【Step.4 】短期での成長・アップデートできる資質を人材要件に加えて最終化し、転職エージェントに候補者を紹介してもらう
この人材要件はドンピシャではないので、入社後、短期間で専門性や求めるスキルを身に着けてもらわなくてはいけません。従って「短期での成長・アップデート」ができるかどかも人材要件に加え、実際に採用活動に移りましょう。
【Step.5 】短期で成長・アップデートできる環境を整え、実際に採用する
応募するほうも、越境転職となるため、「なぜ、私が?」と不安を抱えます。多くの場合、求職者は今までの経験をベースにした転職を考えるからです。家庭がある等、転職リスクを取りたがらないケースも大半です。ゆえに、人材要件で設定した「異業種だけど要点を満たしている」ことに加え、成長・アップデートできる環境がどのように整備され、サポートできるかをきちんと説明し、求職者に安心してもらう必要があります。実際の採用場面でも、再現・応用できそうか、コンピテンシーインタビューを行ったり、面接だけでなく、ケースを解いてもらったりして、培った知見を応用して我が社で対応できるかどうかを本人に判断してもらうプロセスを取り入れるといいでしょう。
例えば、学習塾の経営と教材作成を行っていた方の例があります。企業向けの人事コンサルティング会社の面接を受け、業務内容を確認すると、教える中身は違っても、研修プログラムやテキストの作成ステップと勘所はほぼ一緒だと分かり、また、講師の経験もあるのでプレゼンがうまく、入社後のフォローを約束することで採用を決め、その後は大いに活躍されています。幹部職でなくても、一度このパターンで人材要件とフォローの環境を作ってしまえば、転職エージェントを通さなくても、越境採用は可能になります。
このように、転職マーケットで欲しい人材がいない、仮にいたとしても、自社の待遇では選んでもらえる可能性が低い場合は、安易に妥協せず、アナロジーの手法によって原石人材を見つけ出すことができます。転職マーケットがブルーオーシャン化することも多々あるのでお勧めします。
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