第29回:「評価運用」の壁をぶっ壊す②-評価結果がひっくり返ったら根拠を示す-

人事のレガシー29「最終評価に至った根拠を一次評価者がきちんとおさえて被評価者にフィードバックする」
レガシーを破る視点 「最終評価は通達と割り切り、どうすれば次のステップに進めるかに論点を絞ってフィードバックする」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

二次評価や評価会議で評価結果がひっくり返ることはある

部下が自己評価、上司が一次評価を行い、人事へ提出。評価会議で最終評価と昇進昇格を決めたものの、評価会議の話し合いや調整の結果、一次評価者の評価とは違う結果になってしまうこともあります。評価会議で評価が上がった場合、不満はでないが、評価が下がった場合、一次評価者は自分の評価と違う結果なので、部下に最終評価を納得させられずに困ってしまいます。当然、部下から自己評価を受け取り、事実関係を確認しての一次評価なので、部下は「上司と事実確認して納得しているはず」という前提なので、下がる評価は納得できないのが普通です。「評価会議で調整した結果、残念ながら・・」と事実を伝えたら、頼りない上司だと部下からの信頼はゼロになります。

なぜ、このようなことが起こるのか。具体的なメカニズムから解説しましょう。

 

人事は評価基準とプロセスで納得性を担保しようと考える

人事は評価の納得感をあげるため、評価決定で3つのプロセスを設けることがセオリーとされています。

プロセス1)

部下に自己評価させ、自分の頑張りや成果を上司にPRする場を設けて、その事実確認を上司が行う。部下は上司が勝手に評価するのではなく、自分が評価して欲しい事実を伝え、話し合うことで納得感をあげることができる。

プロセス2)

評価会議で最終評価が一次評価と変わった、あるいは、部下を昇進昇格対象として推薦したけどダメだった、など、一次評価と最終評価に差異が生じた時は、評価会議に参加した二次評価者が、なぜ、その最終評価になったのかを一次評価者に伝える。

プロセス3)

最終評価に対して、部下が納得出来るような材料を一次評価者から部下に説明することで、最終評価の納得感をあげる。

というものです。

確かに理屈ではそうですが、現実はこうなりません。評価会議は相対評価です。評価が高い順に並べ、部署別の高低のバランスを相対的に調整し、次にBかCか、そのボーダーライン前後の人の相対評価を行い、個別の最終評価を決めます。ですので、二次評価は評価会議で相対化した時の議論内容しか、事実として持ち合わせません。当然、一つ一つの評価項目の中身を見るのではなく、「Aさん、Bさんのどちらが上か」といった、人物を相対比較しての並びかえや、今回のA評価はここまで、というボーダーラインを引くので、相互比較による漠然とした、曖昧な議論内容しか持ち合わせないのです。

にもかかわらず、それを一次評価者に伝え、「後はよろしく。揉めたら同席するよ(同席させる事態にならないように収めないとあなたの管理能力がマイナス評価になるよ)」と無茶ぶりされるのが現実です。したがって、一次評価者は、「なぜ、この結果になったのか?」「何をどうすれば/できるようになれば評価が上がるのか、昇進昇格できるのか」が説明できず、板挟みになり苦しむのです。

最終評価は「通達」と割り切る

取り繕うとしても、部下に全て見透かされます。最終評価は、相対評価で決まるので、一次評価者に無理やり作文させてフィードバックさせるより、「通達」で割り切るようにしましょう。「なぜ、最終評価が下がったのか」は部下の一番の関心事ですが、会社で決めた結果はひっくり返りません。過ぎてしまった過去の議論をしてもムダですし、部下の一次評価者への信頼が無駄に薄くなるだけで、現場のマネジメントに悪影響を与えます。

ここは割り切り、会社で決めたことは会社で引き取り、一次評価者は現場のマネジメントの向上や部下育成に集中してもらうのが現実的な回答です。

どうすれば「評価」があがるのかにフォーカスする

最終評価の通達・異議申し立てと、一次評価者の行うフィードバックのポイントをそれぞれ解説します。

 

<最終評価の通達・異議申し立て>

「最終評価」は通達し、異議申し立ては人事と二次評価者で個別対応することで、部下に「最終評価は会社で決めるもの」という認識を強く与えましょう。部下も身近で日々接する一次評価にはいろんな想いでぶつかれますが、相手が二次評価者や人事となるとそうはなりません。ただし、異議申し立ての場で上から目線の通達は禁物です。異議申し立てをするのは勇気がいることなので、そこで通達やダメ出しをされると、会社への信頼がなくなり、モチベーションが低いまま居残るか、転職されてしまうリスクがあるからです。

二次評価者や人事は部下の現場をリアルにみているわけではないので、部下の言い分をしっかり受け止めた上で、一つ一つの評価項目やダメな点を指摘するのではなく、経営や全社目線からの何を評価し、何をクリアすればいいかについて、フィードバックすると想定以上に納得してもらえます。部下の頭に「会社はこう見て評価を判断しているのだ」ということが伝わるからです。

 

<一次評価者のフィードバック>

一次評価者は、期中の確認した事実を評価項目に照らし合わせて一つ一つフィードバックし、全体を通した評価結果を伝えることまではマニュアル通りで大丈夫です。

次に、「この点をクリアしたらリカバリーできる」「次のステージへ進める」という啓発ポイントを指摘するとともに、「どうすれば、それができるようになるか」のノウハウをしっかりフィードバックするのです。評価フィードバックの現場を見てみると、評価項目に応じた評価結果を伝え、啓発点までフィードバックをするまでは良いものの、次に繋げるための、「どうすれば出来るようになるか」については、ほとんど触れられていません。ここが盲点です。これでは部下は、啓発点だけダメ出しされ、「後は自律的に頑張れよ!」と見放された感情を、声に出さずとも覚えるものです。「ダメ出しだけなら、誰でもできるよ」と、上司に対する信頼が崩れることも多々あります。評価結果を伝えるだけで、それがネガティブな評価であれば、それだけ上司は精神的に負担を覚えます。加えて、部下も評価結果を聞いた段階で、頭の中を様々なことがぐるぐると駆け巡るので、一番大事な「どうすれば出来るようになるか」まで考える余裕がなくなり、ついうっかり忘れてしまうのです。

コツは、評価項目に沿って、「啓発点」を伝えることです。評価項目に則らずに「これが出来るようになるといいよ」では、実際にどの評価項目に影響するかがハッキリしません。「先見性が上がれば次のステージに進めるよ」と言われても、先見性の評価ウェイトが3%しかなければ、部下は「上司が適当に言っているのだな。本当に先見性をあげても、評価があがるか信用できないな」と、疑心暗鬼の芽を生むことになります。

評価項目は、「仕事を前に進める時のチェックポイント」です。評価項目のどこが出来るようになれば評価結果がきちんと上がるのか、というロジックが見えて、初めて納得できるのです。

次に指導の内容ですが、多くの場合、「先見性を身につけるには、先々を想定して仮説を立てるといいよ」と、評価項目の内容を解説しているだけか、「一つ上の視点で考えるといいよ」と、具体的にどうしたら出来るようになるか、分かるようで分からない内容が多いものです。能力・行動評価の項目は「先見性は、ソラ・アメ・カサのアメの認識が、上司との先見性の視点の違いなので、アメを上司と確認すると、「一つ上の視点が手に入るよ」といったように、評価項目に沿って具体的ノウハウに落とし込んでおくといいでしょう。評価項目の解説があるマニュアルはよくありますが、評価が出来るようになるコツを書いたマニュアルはあまり見ないので、人事で用意してあげることに一考の余地があります。

業績評価は、どうすればその目標達成ができるようになるか、その「コツ」を伝えるようにすることです。少し考えればわかりますが、目標達成できないのは、頑張りが足りないより、コツを押さえていないことが9割だからです。

関連キーワード

[レガシーの壁を超える人事の取り組み]のバックナンバー

関連する記事一覧

メディア掲載実績

共同調査 受付中。お気軽にご相談ください。

共同調査の詳細はこちら 共同調査のお問合わせ その他のお問合わせ