第42回:リーダーシップのセオリーをぶっ壊す③-リーダーシップを発揮しやすい環境を整えても魅力的なリーダーは育たない-

人事のレガシー42「権限や処遇を与えて自覚を促し、リーダーシップを発揮しやすい環境を整える」

レガシーを破る視点「リーダーシップとマネジメントを同時にできるようにする」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

リーダーが活躍しやすい環境を整えてもリーダーは現れない

組織をより良くしていくにはリーダーの強化が必要ですが、残念なことにリーダーになりたがる人材がどんどん減ってきているのが実情です。その理由を聞いてみると、「リーダーになる魅力や意味を感じない」との声が圧倒的です。

理由はあなたにもわかるでしょう。管理職になると残業代も出ないので、手取りの給料額面は残業の多い部下のほうが高くなる。上からのプレッシャー、下からの突き上げをくらい、板挟みになる。プレイングマネジャーとして自分の仕事も膨大。学級委員程度の権限しかないので根回しや調整であちこちの顔色うかがいに走り回りヘトヘト。これでは、「リーダーになることは罰ゲーム」と若手が揶揄するのも当たり前です。

そこで、リーダーの処遇を改善し、権限を渡して、リーダーとして活躍できる環境を整えてあげれば、改善するだろうと考えても、現実はそんなに甘くありません。

「私がリーダーなので言うことを聞きなさい!」と暴君になる人が続出することもあれば、今までどおりプレイヤーの仕事しかしない人もいるなど、かえって組織がおかしくなることが多いのです。

権限や処遇といった環境を整えても、期待通りにリーダーシップが発揮できないのは、逆に「組織で認められた」という点に起因します。理由は2つあります。

1つはマインド面です。リーダーは「役割」でしかないのですが、処遇や権限を与えられると「自分は偉くなった」と勘違いしてしまうか、「偉くなったのでちゃんと認められなくてはいけない。部下に舐められてはいけない」と焦るかのどちらかです。結果、驕り焦りから、「私は偉いのだから言うことを聞きなさい!」と暴君化してしまうのです。

もう1つは、スキル面です。プレイヤーの立場でリーダーシップを発揮することと、組織やチームを束ねるリーダーシップは別物です。しかし、きちんとその切り替えやスキル習得を事前に行わず、「リーダーになったので、後は頑張れ」となると非常に苦労するのです。不幸なのはお手本となる先輩リーダーの不在です。代々の先輩たちのリーダーシップや言動で、今の組織文化や行動は醸成されています。

しかし、そのお手本となる先輩のやり方が必ずしも今の時代に合っているとは限りません。時代に合った有効なお手本不在のなかでどうしていいか分からず、結果「私の言うことを聞きなさい!」という暴君化が加速するのです。

リーダーシップを発揮するには「マネジメント」が必要

「リーダーシップ」と「マネジメント」は学術的には別物ですが、現場では両方をセットにしないと回らないのでややこしくなります。リーダーシップの取り方は、第40回で解説した「リーダーシップの3段階」で身につければ良いのですが、リーダーシップの活用と同時にマネジメントもできるようにする必要があります。

高い処遇や強い権限を得たからこそ、リーダーとしての自覚が目覚めると同時に、周りからの期待も高まります。すぐに会社や現場が期待するリーダーとして脱皮できないと、周りからの風当たりが強くなるので即効性も必要です。たくさんあるリーダーシップやマネジメントの知識やスキルを時間かけて学ぶ余裕はないので、即効果が出るスキルを割り切って身につけさせていきましょう。

 

<ポイント>

リーダーになったばかりの人は「弱みを見せたらリーダー失格と見なされる」とおびえています。このような人に言えないリーダーの本音をおさえたアプローチが求められます。まずリーダーの本音を5つ示します。

①メンバーたちは、一人前のビジネスパーソンとしての言動を心がけてほしい。

②メンバーたちは、主体的に自立して仕事を進めてほしい。

③リーダーである私に「報連相」をして、進捗や状況を知らせ、安心させてほしい。

④意識の向上や能力開発は、各メンバーが自主的に行ってほしい。

⑤メンバーは、リーダーである私を尊敬し、私の言うことを聞いてほしい。

 

マネジメント上、ややこしくなるのは、②③⑤になります。ここを最短にクリアするコツを2つ解説します。これらのアプローチは即効性があり、リーダーが持つ切り札を増やすことにつながります。また、リーダーも部下も、お互いの本音を知ることで心の距離が近くなり、打てば響く「打ち手」になるのでお勧めです。

リーダーの本音を最短でクリアするコツ1:「自分と同じキャラ」以外の人がいることを知る

プレイヤーとして評価され、リーダーになった人は、自らのプレイヤーとしての仕事の進め方や価値観を前提に部下をマネジメントしようとします。自分が経験したやり方しか分からないからです。実際は、十人十色。それぞれキャラが異なります。しかし、切り札が一枚しかないと、どんな場面でもその1枚で乗り切るしかなく、それでうまくいかないと、ゴリ押しするしか選択肢がなくなってしまいます。

では、どうすれば良いか。答えは簡単です。メンバーのキャラに応じた強みの活かし方や育て方のコツを人事が可視化し、リーダーに教えてあげれば良いのです。格闘技ゲームでも力・技・速など、それぞれの属性によって使える技も武器も違うことと一緒です。社員のキャラも「おとなしくて真面目」「盛り上げて気が利く」「アイデアマン」など、いくつかのキャラで大きく区分できます。

そのキャラに応じて、「どんな価値観を大事にしているか」「強みと弱み」「どう言われるとやる気が出るか」など、特徴を整理していけば、キャラの個性が可視化されます。そのキャラに応じてどんなアプローチをしたら響くのかを、現場を交え、キャラ別に行うと共通項が見えてきます。そのキャラ別の特徴を研修の場でリーダーに伝えると、リーダーは安心します。「どんなに伝えても響かなかったのは、私の責任ではなくキャラ違いだったからだ」と、客観視して受け入れることができます。仕事を前に進めるステップや勘所は共通であり、リーダーは自身の経験で把握しているので、それを部下のキャラに合わせた伝え方と活かし方を知ればできるようになります。

どうしてもキャラが合わず苦手であれば、その部下と同じキャラを持つリーダーからコツを教えてもらってもいいし、同じ属性の部下がいれば間に入ってもらって翻訳等のつなぎ役をしてもらうのも一考です。

このキャラの定義は、いわば各社独自の人材像であり、人材要件です。どんなキャラの人材(質)がどれだけの数(量)いるかを把握し、整理すれば人材ポートフォリオにもなり、採用や育成といったタレントマネジメントに活用でき、人的資本の開示にも役立つでしょう。

リーダーの本音を最短でクリアするコツ2:アシミレーションを行う

マネジメントに不安を覚えるリーダーはガラスのハートです。本音を部下に見せることができず、内心では怯えつつ、部下には虚勢を張ることが多いのですが、上司の頭の中は、意外と部下からは丸見えです。そして、「リーダーの頑張っている姿」に対しては、好意的に捉えているものなのです。

リーダーが聞けない部下の本音を短時間で可視化し、チームの絆を強くする組織開発のアプローチの1つに「アシミレーション」があります。GEをはじめ欧米の大企業から広まりましたが、中小企業こそ即活用して効果が出る手法ですので、以下にご紹介します。

 

【アシミレーションの進め方】

アシミレーションは5つのステップで進めます。

所要時間は、テーマの重さやメンバーの数などにもよりますが、基本90分前後が多いようです。
[STEP 1]関係者(上司・メンバー・ファシリテーター)全員が一堂に集まる
[STEP 2]ファシリテーターが趣旨を説明し、上司は離席する
[STEP 3](60分)ファシリテーターがメンバーから本音を引き出し、書き出す

  • 「知っていること」「知らないこと」「こういうことは止めてほしい」「こういうことをしてほしい」ということを具体的な行動で洗い出し、紙に書き出す。
  • メンバーの誰が何を言ったか分からないように注意を払い、発言を書き出す人はファシリテーター1人に絞る。

[STEP 4](15分)メンバーと上司が入れ替わり、書き出された発言内容や、ファシリテーターからのフィードバックを受ける
[STEP 5](15分)メンバーが入室し、上司がコメントする

アシミレーションの特徴と効果

アシミレーションの特徴は、「部下のみ」を集め、その本音を本人たちではなく、ファシリテーター(人事担当者)がホワイトボードやポストイットに書き出し、上司には誰が何を言ったのか分からなくすることにあります。

誰が何を言ったのか上司が分からないので、忖度なく本音の意見を吸い上げられますし、上司も「あいつ、こんなこと言いやがって」といったバイアスがかからないため、素直に受け止めやすくなります。

アシミレーションの最大のポイントは、ファシリテーター(人事担当者)が中立の立場で介入することで、部下の本音を引き出せることです。部下は上司に対して要望や期待があっても、本人を目の前にしては伝えにくいものです。一方、マネジメントを行う上司は、日頃より部下の考えがいまいち分からないという悩みを抱えつつも、日常のマネジメントの場面ではなかなか本音を聞き出せないでいます。ですから、アシミレーションでは、相互理解を深めるファシリテーター(人事担当者)の存在が重要になるのです。また、人事は数多くのアシミレーションの現場に立ち会うことで、自社のリーダーの共通課題がリアルに把握できます。

アシミレーションを実践することで、

  • 円滑なコミュニケーションが実現し、チームの生産性が向上する
  • チーム内の考え方のミスマッチを解消でき、ムダなストレスや行き違いがなくなる
  • チームに一体感が生まれ、活性化する
  • 心理的安全性が高い職場環境が作られる

という効果を生み出すことができます。

アシミレーションを成功させるためには、「部下たちの意見は匿名として伏せておく」ことがキーになります。この点を遵守できないと、人事への信頼がなくなるうえ、職場の人間関係が悪化することを肝に銘じておきましょう。

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