第41回:リーダーシップのセオリーをぶっ壊す②-リーダーシップを管理型から支援型にシフトすると上司は舐められる-

人事のレガシー41「寄り添い、意見を引き出し、サポートすることで部下の自主性を引き出す」

レガシーを破る視点「トップダウンとボトムアップを使い分ける」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

支援型リーダーシップは「使えない学級委員」になり下がる

支援型リーダーシップは確かに今の時代に合っていますが、そこには落し穴があります。すべてのことを部下が考える通りに進めようとすると現場が混乱します。XさんとYさんが取りたいアプローチの方向性が違った場合、どちらも是として支援すると、チーム内の行動に矛盾が生じ、指示や動きが錯綜し、チームがバラバラになります。そこで、やり方は任せたけれど途中で変えるよう指示すると、「それなら最初から言ってよ!」と上司に対する不信感が芽生え、上司・管理職として失格と認知され、マネジメントが上手くいかなくなります。

また、部下が取りたいアプローチは必ずしも正解とは限りません。部下が今まで経験したことの延長線の発想になるからです。結果、部下は一生懸命頑張っているけど、期待したほどの成長や結果が出ないという悪循環に陥りかねません。部下のやりたいようにやってもらうことが正解とは限らないケースは多々あり、部下自身がそのことに気づき、新しい正解を学びたいと思うまで任せ続けられるほど、現場に余裕はありません。上司は、ジレンマに挟まれます。

それが重なると、上司は使えない学級委員のように「ウザい」存在になるか、「パシリ」化します。上司は、部下がそれぞれやれるように調整やお願いに回る存在になり、部下から信頼されず、組織やチームの生産性が落ちてしまい、誰も幸せにならない、というリスクが生まれてしまうのです。

支援型リーダーシップを機能させる2つのポイント

支援型リーダーシップといっても、部下がやりたいようにやらせるだけでは機能しません。ポイントは2つあります。

1つは、「方針とゴールはトップダウン、やり方はボトムアップ」にすることです。方針をきちんと伝え、決めてもらわないと、部下はどこに向かえばいいのか、なぜ、その方向なのかが分からないので、どんな行動をすれば良いか迷い、混乱するのです。ビシッと分かりやすく、部下が納得できるように方針を示すことで、部下はどんな行動をとるべきかズレなくイメージできます。そのうえで、どう進めるか、やり方はボトムアップで部下と対話しながら、部下の意見を尊重してサポートすれば、組織やチーム全体が自律的に正しい方向に動けるようになります。

2つ目は、支援型リーダーシップが成り立つ前提をおさえておくこと。支援型リーダーシップは全てを凌駕する万能ツールではないからです。

支援型が成り立つ前提は、部下が一人前以上のスキルや経験を持ち、自律的に動ける成熟度があることです。部下が解決や成果に繋がる「やり方」を知らなければ、「キミはどうしたいのか?」と聞いても、上司が「OK」と言える案は出てこないのは当たり前です。そもそも知らないのですから。人は過去経験した失敗を避け、成功を繰り返そうとするので、過去の延長線上のやり方を「もっと頑張る」という発想しかできないのです。また、一人前以上の自己肯定感がないと、素直に「教えてください」と言えません。自己肯定感が低いと、「馬鹿にされたらどうしよう」と恐怖を感じ、心理的な防衛機制が働いてしまうからです。ですから、上司は、コーチング(部下の仕事の成熟度や自信のレベルに合わせて力を引き出すこと)と、ティーチング(知らないことを教えること)の両方を使い分ければいいのです。

支援型リーダーシップは「納得感」と「できる感」を持たせることで正しく動く

では、具体的に支援型リーダーシップを機能させるコツを3つ、解説しましょう。

① トップダウンとボトムアップを使いこなす

支援型リーダーシップが機能する根幹は「納得感」です。どこに向かうのか迷わないようにゴールや方針を示し、「これをやるぞ」と決めても、部下が納得しなければ「総論賛成、各論スルー」になり誰もついてこず、空回りします。

トップダウンで示すゴールや方針に納得を得るために、分かりやすく何度も説明することは逆効果です。

なぜなら、部下は「説得されている」気分になるからです。熱くゴールを語っても、「本気でそう思っていないな」「上から言われたことを役割として部下に伝えているだけだな」と、部下は受け取ってしまいます。納得してもらうコツは、「これを達成することはあなたにとってどんな価値がある?」「どんなにスゴイこと?」「何に対して褒められる?」というように、取り組むべきメリットを部下本人に考えさせる「問い」を投げかけることです。心理学的に、人は自分のことにしか興味がわきにくいので、「あなたにとって」と問うことで、自分ごと化するのです。

仕事に対する捉え方や価値観、状況は、人それぞれで違うことが当たり前です。ゴールや方針に納得してもらうためには、それぞれの意義を具体化し、共有し合うことで、当事者意識を芽生えさせる必要があります。そうすることで、取り組む意義はそれぞれ違っても、1つの方向にまとまるのです。

この「自分ごと化」が共有されると、ボトムアップもスムーズです。目指すゴールや方向性に沿って、それぞれが納得しており、心理的安全性が醸成された状態なので、みんなで建設的な議論が可能になります。それぞれの取り組む意義も共有できているため、「この打ち手なら私も協力できる」と、協力体制が自然に生まれやすくなるでしょう。

 

② 指示は「やるべきこと」ではなく「コツ」を教える

「あなたはどうしたら良いと思う?」と部下の考えを引き出そうにも、部下がやり方を知らない場合は「引き出し」がないので、「精神的に責められた」「追い込まれた」と認識されてしまいます。そのとき、上司はきちんとやり方を教えてあげることが必要です。その際に、注意点があります。

よかれと思い、指示を細かく出すと、部下はその指示を覚えきれず失敗するか、ただ覚えた指示通りに動くことしかしなくなります。「アポを3~4件取れればいいから、午前中、この100件のリストをもとに電話して」という指示では、部下は100件のリストに対して、ただ電話することだけに集中してしまいます。結果、「アポが取れなければ、リストの数を増やすか、繰り返し電話する」といった「もっと頑張る」発想に陥ります。作業するだけではPDCAが回らないし、そもそも、作業指示だけではやる気が上がりません。

では、どうすればいいか。「うまくいくためのコツを教えてあげること」ですが、伝え方が重要です。どんなに正しいコツを教えても、「自慢された」「マウンティングされた」「自分のやり方を否定された」と部下が感じたらアウトだからです。

そう思われないためには、伝え方に2つの工夫をすれば大丈夫です。

1つは、部下本人にとって「取り組む意味」や「価値」を教えてあげることです。「100件電話しても大半は断られるが、それでいい。100件電話すれば、困っている担当者は3~ 4名いる。やみくもにアプローチするより、その困っている3~4名にアプローチするほうが効率がいいし、お客様にも喜んでもらえる。今日の午前中は担当者が席にいる可能性が高いから、ここに集中してみよう」と伝えれば、電話する作業ではなく、困った担当者を見つけ、喜んでもらえるようにする「価値ある行動」になり、モチベーションは高く継続されます。

もう1つは、「What(何をする):作業」だけでなく、「How(どうすればいいか):コツ」をセットで伝えることです。考えてみれば分かりますが、その仕事が初めて、という部下は、「どうすれば結果が出るか」というコツを知らなくて当然です。ただ、指導するほうは全体像が見えているので、「作業手順」に意識が行きがちになってしまうのです。一歩引いて、「コツはこれだよ」と最初に伝え、そのうえで作業を指示すると、部下は指導内容の暗記ではなく、「こうすればうまくいく」と考えるように変わります。

 

③ 質問で気づきを与える

「支援型」を機能させるには上司の「質問力」が重要ですが、「質問で引き出す」「コツを指導する」だけでは物足りません。質問することで、「気づき」を与えることが肝要です。

やり方が最適でないと感じたときは、「その正解を知っているよね?」と聞いてあげると簡単です。

例えば、「午後、その3件のアポ先には電車で行くんだよね。電車よりバスのほうがラクだし効率的だよ」と直球でアドバイスすると、よかれと思っても指示命令された気になります。よかれと思っても、「マウンティングされた」と受け取られたら、もったいないです。

「午後、その3件のアポ先には電車で行くんだよね。直線距離だと近いのに、電車だとグルッと回るから時間かかるよね。この直線距離、バスが通っているの知ってる?」と、伝えたいことを質問してあげると、素直に受け取ってくれやすくなります。

他にも例はあります。「このままだと終わらないよ」と言われたら、相手は「うるさい」など、ネガティブにしか受け取れませんが、「このままだと、どうなるだろう?」と聞くと、相手は目の前に追われていた自分から一歩引いて考えられるようになり、作業の見直しを冷静に考えたり、アドバイスも素直に受け取りやすくなります。

質問で気づきを与えるコツや具体的な例は、書籍や教材、研修で多々あるので、人事で研修してインプットしてあげるのも効果があり、現場で喜ばれるのでお勧めします。

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