第54回:採用のセオリーをぶっ壊す⑤-入社早々、辞表!? これから育てようと思っていたのに・・・-

人事のレガシー54「社会人としての基礎を教え、職場の上司や先輩のOJTに任せる」

レガシーを破る視点「エンプロイージャーニーマップで配属に納得させ、指導は伝え方を若手から学ぶ」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

「自社色に染める」アプローチは新人には逆効果

学生から社会人に意識を切り替え、その基本を身に付けるために新入社員研修を充実させる。新入社員の受け入れもスムーズにいくようにOJTリーダーとなる先輩や上司に新人指導のノウハウを研修等で事前にしっかり行い、「新入社員の皆さん、安心して入社してください」と言う。こうしたアプローチで効果が出るのは、過去のこととなりました。

この「一から教え、我社色に染めるアプローチ」は、終身雇用など、長期雇用で転職する選択肢がない時代であれば、新入社員は他に選択肢がないので「しかたなく」受け入れてくれたかも知れませんが、今は違います。

就活の時から就活サイトやSNS等の口コミや情報交換等、ネットの活用が多かった延長線上で、入社とともに、なんの抵抗もなく転職サイトに登録して求人情報を見てみるなどの動きは自然な流れで行われており、転職に対する抵抗も薄く、就職に失敗したと思ったら「退職代行」を使い、何もなかったように次の会社に移ることも厭わなくなったので、従来の自社色に染めるパターンはウザがられることも多くあり、通用しなくなったのが実際です。

新入社員が辞める理由は昔と変わらない

では、どうすればいいのか。最初に新入社員が辞める理由を把握しましょう。

新人が入社早々辞表を持ってくるのは、配属のミスマッチか職場の人間関係の悪化のどちらかが原因です。入社した後は、「配属は会社の都合による」「新人は職場のやり方に合わせ、早く慣れること」という企業の論理は今の新人には受け入れてもらえません。今の新人はピュアな傾向があり、建前と本音の割り切りが要領よくできません。面接時に「企画の仕事をやりたい」と言い、「もちろん企画の仕事にもつけるようにするよ」と言われたのに営業配属となった場合は裏切られた感覚を持ちます。「聞いていない、騙された」と即刻退職しかねません。「配属は会社都合による」と事前に聞いていても、「やっぱり地方には行きたくないので」と、退職の決断に躊躇がありません。転職に何のためらいもなく、労働力不足の蔓延というマーケット事情もあって、第二新卒がキャリア形成の不利にはならない事情もあります。

労働観も上の世代とは異なります。不合理・理不尽な昭和のやり方に合わせる必要などないと新人は考えているので、今の管理職は自分が教わった頃とのジェネレーションギャップの大きさに頭を抱えるのです。

配属の理由は説得ではなく納得させ、響く指導方法は新人に近い世代から学ぶ

打ち手は2つあります。

1つは、配属やキャリアについての説明と納得です。「朱に交われば赤くなる」にしても、なぜ朱に交わる必要があるのか説明が求められる時代です。

配属・異動などで「嘘」をついてはいけませんが、すべての希望をかなえることは現実的ではありません。物理的にポストが足りないうえ、誰もがその仕事に向いているわけでもありません。「自らモチベートし、持続していける」という仕事に取り組む意義を、新人自ら見出せるように引き出すことが要諦です。具体的には入社から退職まで、どんな経験を積んでいけるかを整理した「エンプロイージャーニーマップ」を示し、新人がやりたい仕事に就く前に、どんな経験を積んだらよいか、どんな経験を積んだらキャリアの選択肢が増えるかを示して新人たちが納得できるように導きます。

もう1つは、OJT等の指導の工夫・改善です。上の世代が教わったことや自ら得たノウハウ自体は今も通じる重要なものが多いので、その伝え方をアップデートすればいいのです。

エンプロイージャーニーマップは「流れ」ではなく「攻略本」として仕上げる

キャリアや配属の納得感を得るための「エンプロイージャーニーマップ」は、人事が過去作成してきた昇進昇格の「標準モデル」や「キャリアパス」とどう違うのかを説明します。「標準モデル」は、標準的な人材は入社からどんな評価を積み重ね「何歳でこの役職につき、その時の報酬額がいくらになるかを示したものです。優秀でいい評価を取る最速モデル、逆に評価が低い最遅モデルも設定し、「最速で何歳で部長になり、どう年収が上がっていくか」「評価が低くても、どの程度まで昇格し、年収はどの程度になるか」を定義したものです。

活用方法は、格付管理の判断基準や報酬の市場水準とのベンチマーク、求人票に乗せるモデル賃金、報酬制度設計で不利益変更がないかのチェック、ベアや待遇改善に向けた労使交渉等の場面で活用されてきました。キャリアパスは、昇格や異動を通してどんなキャリアを描けるか、パス(道筋・流れ)を描いたものです。

一方、エンプロイージャーニーマップは、入社からオンボーディング・配属・評価・昇進昇格・退職まで、どんな経験をどんな流れで積んでいけるか、その結果、どんなキャリアの選択肢が増えていくかを示したものです。ただ単にキャリアをパターン分けしているのではなく、入社後に突き当たる壁、そのときの心理状態、その壁を越えるための会社・上司の支援といった、成長ステージに沿ってどうクリアしていくかを描いたものです。

昇進昇格のモデルでは、右肩上がりの進み方しかなく、キャリアパスを示されても、どうすれば次の職位につけるかまでは分かりません。目指す職位に誰かが座っていれば、キャリアの道がふさがれた印象を持ち、挫折や退職につながりかねません。このようなデメリットを解決するのが「エンプロイージャーニーマップ」です。

エンプロイージャーニーマップを描く要諦は、ペルソナを具体化し、世代に合わせた特徴でグルーピングすることです。「オーナー社長が好きで入社し、いわば子分としてついてきた第一世代」「会社が成長し、経験を積んだ方々が中途即戦力で入った第二世代」「新卒採用が始まったZ世代」など、世代別の特徴を擬人化することも有効です。なぜなら、新人たちは職場の方々の思考行動特性が分からず、エンプロイージャーニーに書かれた中身と現実が違うと見て「綺麗ごとだ」「嘘だ」と見切ってしまうからです。

世代別の特徴を出すと「社長のために、お前は○○できるのか」といったパワハラを言うのは第一世代(社長の子分だから)。そういうキャラだと分かれば、新人も割り切ることができます。

新人はデジタルネイティブで子供の頃からゲームに触れてきています。エンプロイージャーニーというゲームを進めるとき、どんなキャラが登場し、どんな特徴があり、味方のつけ方や対処方法が分かれば、職場に溶け込みやすくなります。

今の新入社員はわからないことを都度相談することを嫌がります。ちゃんと調べ、きちんと納得したいので、ある意味真面目であり真っ当と言えます。ゆえに、「正解に一番近い」ことがどこにあるのかを知りたいのです。ゆえに、エンプロイージャーニーはオンボーディングする時の流れややる事等をマニュアルのようにまとめた作業帳ではなく、「組織の攻略本」の視点でまとめ上げることで、新人は自ら納得し、学び、モチベーションをあげて職場に臨むことが可能になるのです。

指導方法は「おじさん先生」からではなく「新人に近い層」から正解を学ぶ

新人指導や伝え方のポイントについて解説します。

一番のポイントは、正解に一番近い人に聞くことです。要は、新人や入社年次が若い方々に「上司や先輩からこう言われたことが嫌だった(過去の正解)」「逆にこう言ってくれたら素直に聞けた(今の正解)」という問答集を人事と一緒に作ることです。

実際の上司や先輩の一言だけでなく、「こう言って欲しかった」という本音やYouTube、インターネットからの引用でも構いません。人事がアシストしながら、伝え方の○×対応表を作り、研修等のコンテンツに落とし込みましょう。ビジネス書やコミュニケーション指導の研修講師は管理職以上の世代が大半なため、おじさん世代のノウハウが残っている場合があるからです。おじさん世代はおじさん世代のノウハウに共感しますが、今の若い人に響くかどうかは別です。

誤解があってはいけないのですが、先人達の仕事のノウハウ自体は基本今でも正解です。だから、今まで組織が発展し、業績も上げて来れたのです。

アップデートが必要なのは、そのノウハウの伝え方ですが、おじさん世代は自分達でやってきた、教わったやり方以外は「インプットされていないのでわからない」のが実際です。

なので、おじさん世代の仕事のコツまで全否定をするのではなく、ノウハウは尊重した上で、仕事のコツや伝え方(今までのやり方)を×、若手がこう言ってくれたら響くやり方を〇、として対比して示してあげれば、おじさん世代も「なんだ、こう言えばよかったのか!もっと前に教えてよ」と素直に学びます。どんなセリフで言えばいいかわかるくらい具体的な文言で伝えれば、即暗記でき、今日から職場で実践してくれるようになります。結果、指導方法は簡単にリスキリングが終わるのでお勧めします。

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