第27回:「女性活躍」の壁をぶっ壊す③-経営陣が1人の女性候補に高く期待する-

人事のレガシー27:「経営陣が1 人の女性候補に高く期待する」
レガシーを破る視点「数名の候補者が楽しく仕事をしているうちに、周りから選ばれるよう仕掛ける」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

期待のかけ方を間違えると失敗する

「期待しているよ」と経営陣から声をかけてもらうと、女性だけではなく、男性社員でも本音では嬉しく思うはずです。幹部登用の有力候補として選ばれるのは光栄であり、本人も頑張ってくれるだろうと男性経営陣は考えるでしょうが、ここに罠があります。

「出世する・しない」という価値判断は男性には効くかもしれませんが、女性の場合はプレッシャーでつぶれてしまうか、後輩たちから「ああはなりくたいない」と思われてしまう存在になるか、いずれかのケースが多いのです。

そもそも「私が経営幹部なんて・・・」と、そこまで出世したい欲がなく、逆に「女性幹部の候補を押し付けられた」と受け取られてしまうリスクもあります。経営のコミットは重要ですが、力の入れ所を間違えると逆効果になります。

一人に集中ではなく、沢山育てる方が速く成長する

女性管理職やその候補は、1名ではなく2名以上を育てていくのが得策です。女性は、学生時代にはトイレにもみんなで行くなど、高い共感性と仲間性が根本にあります。1人だけ指名されると仲間から切り離されたと受け止め、プレッシャーも男性以上に強く感じるのです。2人以上いればお互い助け合い、つぶれるリスクも、エコヒイキだと攻撃を受けるリスクも減ります。男性であればお互いをライバル視する傾向がありますが、女性の場合は共に伸びていく仲間として絆が深まっていくのです。

ライバルを戦わせるのではなく、持ち味を伸ばす

ライバル意識を刺激し、候補者を比較するようなマネジメントは止めましょう。「ちゃんと自分を見

てくれていて、認めてくれている相性のいい上司」の下でないと伸びてこない傾向は、先に述べた通りです。褒めるとき、認めるときも男性・女性の比較ではなく、「自分らしく、自分がいいと思うやり方でいいよ」と自分らしさを認め、支えてあげるアプローチが経営陣や上司には必要です。

肩に力を入れるのではなく、抜けるように支援する

部下や他の男性の管理職にもナメられてはいけないと気構えてしまうと、本来の持ち味が出なくなります。男性の管理職でも完璧な人はめったにいません。しかし、女性の管理職やその候補は真面目な方が多く、完璧を目指そうとして、気づかない間に自分で勝手に多大なプレッシャーをかけてしまう傾向にあります。

人は自分の資質を自分らしく発揮できているときこそ、一番パフォーマンスが上がり成長します。男性は「勝ち負け」の感覚があり、相手より上に見せようとしますが、女性はフラットで「共感」が強いので、いい意味で「お願い」を活用して、弱いところはうまく周りに補ってもらうマネジメントのやり方でいいことを伝えてあげてください。数字や論理的なところが苦手なら、そこは強いメンバーに頼っていいのです。メンバーと一緒に考えたり、自分の苦手なところを周囲にお願いして、みんなの力を借りてチームを運営するといった、周囲から力を借りて結果を出すことで、結果みんながやる気になって目標達成に向かっていくマネジメントが今日的ですし、実は女性のほうが得意だったりするのです。

上から引っ張るだけがリーダーシップでないことを伝えてあげると、女性管理職やその候補は気が楽になり、持ち味を発揮しやすくなります。期待は重荷になることがあるので、「自分らしく」がキーワードです。

キャリアについてはどう乗り越えてきたかを話す

女性の場合、20代後半から30代はプライベートで予測できない大きな転機が起きると、前回の【第26回:「女性活躍」の壁をぶっ壊す②】で述べました。

従って、男性のように正社員として長く働き続ける前提で5〜10年後のキャリアを考えさせるのはあまり意味がありません。キャリアについては経営陣が対象者を見守り、社内あるいは、社内に適任者がいなければ外部から招いて、身の丈レベルで少し先に経験した先輩クラスの方々との座談会などを開催するといいでしょう。

最初からリーダーとして活躍したいと思っている女性は少数で、“気づいたら周りから認められて管理職になっていた”というケースが大半です。ゆえに「目指す姿」ではなく「どう乗り越えてきたか」が重要なのです。乗り越えた後にキャリアができていた、と知るとリーダー候補者は安心します。結婚や出産に関しても少し先にいる先輩のほうが時代感も合っているうえ、最近の経験から共感する余地も多く、「不安はみんなあるのだ。でも周りから選ばれたらやってみよう」と踏ん切りがつくように動機づけられます。座談会では最低3名以上の先輩に集まっていただくようにします。1人だけの事例だと、「この人と私は違う、合わない」となる可能性もあるからです。3人程度の先輩のそれぞれから、共感できる部分を持ち帰っていただけるようにするといいでしょう。

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