第44回:女性活躍支援のセオリーをぶっ壊す-産休・育休明けに負荷が少ない仕事で時短勤務させればいいとは限らない-
人事のレガシー44「産休・育休明けに時短勤務で負荷が少ない仕事に変える」
レガシーを破る視点「それぞれの資質に合わせた働き方ができるようにする」
松本 利明
HRストラテジー 代表
外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。
時短勤務で負荷がない仕事が女性のキャリアを潰す
産休・育休明け、子供が小さく時短勤務の間は、負荷がかからない仕事に変わってもらうというケースは、現実によくあります。実際、保育園のお迎え、子供の急な発熱など、フルタイム勤務が物理的に難しいことは事実です。ですが、「時短勤務だから責任がある仕事を任せられない」「負荷が少なく何かあった際には誰でも代わりがきく仕事に」という安直な結びつけで、十把一絡(じっぱひとからげ)に異動させることが正解とは限りません。ややもすると、優秀で活躍しまくっていた女性リーダーのキャリアやエンゲージメントを潰してしまうことにもなりかねません。なぜなら、人は十人十色、資質は一人ひとり異なるからです。当然、ワークモチベーションも仕事の向き不向きも異なります。故に、本人の資質には十分な配慮が求められるのです。本人の資質の部分は、生まれてから20歳位までの間に形成され、生涯ほぼ変わることのない動機・性格・価値観が確立しています。得意な仕事、不得意な仕事、仕事に対する動機づけなどは、ほぼ決まっているのです。資質はキャリアや仕事の動機づけに影響します。バックオフィスの仕事にも、向いている資質を持つ人とそうでない人がいます。自分が離れたイスには誰かが座ります。そして、育休が一段落したからといって、そのイスが元に戻る保証もありません。将来の管理職や幹部候補の女性社員ほど、この事実を知っており、元に戻れないのであればタイミングをみて転職するか、燃えカスのように淡々と働くかのどちらかに流れがちです。
さらには、次世代の女性管理職候補たちは、この先輩たちの例を知ることで、「うちの会社では子供を産んだらキャリアはない」と見切るようになり、結婚して子供を産むか、キャリアを諦めるかといった昭和の頃に逆戻りしてしまいます。
時短勤務者の処遇こそ人事の愛と力量の支援が必要
こうした負のスパイラルを避けるためには、以下の人事施策が有効です。
①職業選択の自由度をあげる
それぞれの資質に合った仕事を選べるようにすると良いでしょう。キーは女性活躍向けの人材ポートフォリオを作り、資質と働き方に選択肢を持たせることです。
②人事のバックアップで成功事例を量産する
個々人の資質に沿って、時短勤務の仕事でもやりがいを持って、モチベーション高く働けるよう、現場任せではなく、人事部門が強烈にバックアップして、時短勤務者の存在価値を上げてあげると良いでしょう。
具体的に解説します。
①職業選択の自由度をあげるため、個人の資質を可視化し、女性活躍版の人材ポートフォリオを描く
資質に関しては、SPIを始めとする入社時の適性検査や、ギャラップ社の資質テストである「ストレングス・ファインダー」の上位5項目が分かる『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版 ストレングス・ファインダー2.0』(日本経済新聞出版社)などの活用がお勧めです(後者は、書籍を1冊購入することで1回だけ検査可能)。この資質テストの結果をもとに、時短勤務者の仕事を選び、敢えて人事部門から動機づけを図っていくと良いでしょう。現場に任せると、残念ながら「時短勤務者はいらない」と思われるケースがあるからです。ここは人事の力量の見せ所です。タレントマネジメントの女性活躍版です。仕事の機能別に求められる人材タイプを定義し、その人材はタイプ別にどんな働き方をすると機能するかをポートフォリオに整理し、本人の希望と資質にあわせて働き方を選べるようにするのです。
ワークモチベーションに焦点をあて、仕事と働き方に自由度を与える
仮に、同じ編集の仕事をしていた女性が2人いたとします。1人は何か新しいものを考え、リードしていく資質が高く、バックオフィス系の仕事が長続きしません。最初に創意工夫して、時短勤務でも品質高く回せるように取り組んだ後、飽きてしまうのです。この方の資質を活かすなら、「ワーキングママ向けのWebマガジン」の創刊などの仕事が良いでしょう。現在できる仕事と、働き方の制限を組み合わせて、実現可能なものを会社で用意する努力をしたほうが、この方のポテンシャルを発揮できます。
雑誌の編集長はすぐに無理でも、Web版の編集長という道が開けるかもしれません。将来の幹部候補を目指してほしい女性社員の後ろ姿をたくさんの優秀な後輩が見ています。その人の芽をつぶすと、後輩の女性社員も無言でキャリアを諦めることになりかねません。故に、優秀で期待している女性社員がいればいるほど、開花させる方向で、人事と現場が協力して、ビジネスとキャリアを作る努力が必要です。「しばらく我慢してくれないか、いずれ悪いようにはしないから」といった人事は男性社員にしか通じないからです。
仕事のほかに自分らしい「やりがい」を資質から見出す
もう1人は、目の前の相手とコミュニケーションをとることに喜びを感じる資質をお持ちだとします。バックオフィスでも、関わる人々にどう喜んでもらえるかを考えるような動機づけをしてあげると、意外と本人もやりがいを見つけ機能するようになります。実際は2人目のケースのように、時短勤務時の仕事でも、自分の資質に着目すれば、やりがいを見出せるケースが大半です。配属時や、配属して少し経った頃に、資質に着目したフォローをしてあげると、びっくりするくらい目の輝きを取り戻すので、面倒くさがらずにフォローすることが肝要です。
②人事のバックアップで成功事例を量産するため、時短勤務者は価値が高い人材という認知を人事が育てる
サイバーエージェントでは、育休明け、復職して時短勤務になるとき、元の部署やそれ以外からもリクエストがかかり、数ヵ月前から予約待ちになるそうです。
同社では、人事が本気で時短勤務者の存在価値を上げようと手厚いフォローを行っています。ある人を人事が支援して、時短勤務中でも産休前に残業していた頃と同じレベルのパフォーマンスまで引き上げました。上司も本人もびっくりしたそうですが、こうした事例を社内外にPRし、フォローし、3人連続で産休前と同じレベルのパフォーマンスを出せるようになったとき、「時短勤務者はハイパフォーマーなのでうちの部署に来てほしい」と、社内の空気がガラリと変わったそうです。
実際、最初の時短勤務者は、今までの仕事のやり方、考え方を改め、徹底的に合理化し、周りにどんどん声をかけ、自分の仕事が途切れないようにしたそうです。その結果、時短勤務者自身の生産性だけでなく、関係する部署の生産性まで上がりました。
空気が変わってから、時短勤務者は「産休前と同じパフォーマンスを時短勤務時間内で上げる」と、強いマインドセットを行うようになり、周りも時短勤務者の効率的な仕事ぶりに貢献するようになり、関係者全体の生産性が上がるという成功の輪がどんどん水平展開したそうです。ちなみにIT企業らしく、会社はノートPCを最新機種に替えて処理スピードを上げるなどのフォローも行っています。
短時間勤務者のパフォーマンス向上は、人事が本気になればできるのです。
つまり、
①時短勤務者の価値を上げるために、徹底的にフォローする、
②小さな成功事例を作り、全社、社外にPRして認知を上げる
③時短勤務者と配属部署の認知が変わるまで徹底して①②を繰り返していく
という取り組みです。
実は、地味で地道な当たり前のことを進めているだけです。キーは「本気で、現場で、結果が出続けるまでコミットすること」。これを続ければ、効率的な仕事ぶり、充実した私生活を送れる働き方改革は実現するのです。
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