第40回:リーダーシップのセオリーをぶっ壊す① - リーダーシップ研修でリーダーシップの考え方やコツを学び現場で活かす-

人事のレガシー40「リーダーシップ研修でリーダーシップの考え方やコツを学び現場で活かす」

レガシーを破る視点「リーダーシップは3段階にわけて順番に身につける」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

リーダーシップは「学んでも」「できる」ようにはならない

人には資質があります。昔からずっと出来ることや得意なことでない限りは、ちゃんと概念をおさえ、ステップやコツなどを「知識」として習得しなければ、最初の一歩を踏み出すことは大変で、難しいのが現実です。

リーダーシップも同様です。昨今は運が良いことに、リーダーシップを学ぶ機会が多くなりました。リーダーシップを解説した書籍は沢山ありますし、研修、eラーニングなど、知識や学び、実践のヒントをくれるものも多くなりました。しかし、リーダーシップを習得する場合、これらだけで良いかというと、半分正解で半分間違いです。

なぜなら、リーダーシップに関する知識の量は膨大だからです。WebやAmazonでリーダーシップを検索すると膨大な数がヒットし、その記事や本が日々増えていくことが、それを物語っています。それらすべてを学ぶ時間と労力は、現場にはありません。リーダーシップは「これ」だけやればいいという、誰にでも共通する100%の正解がありません。あるのは、研究結果や成功者のノウハウをまとめたものだけです。

ヒントにはなっても、誰もが同じようにできる再現性は保証できません。それだけリーダーシップには多様性があるのです。加えて、企業が提供できる「学ぶ機会」には、物理的に限界があります。当然、膨大なリーダーシップに関するすべての知識を得るだけの時間はありませんし、そのすべてを試す余力も現場にはありません。

故に、リーダーシップを学んでも実践しきれず、さらに悩みが深くなる、という悪循環に陥るのです。

リーダーシップはシンプルに学んだ方ができるようになる

そもそも論ですが、リーダーシップは、「こちらの意図通りに相手を動かすための行動・働きかけ」と考えると分かりやすいです。会社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に沿った行動を部下に促すのも、上司に根回しするのも、部下に指導するのも、目標達成に向けて自走するのも、相手をこちらの意図通りに動かす行動・働きかけになるので、大きく言うと、すべて「リーダーシップ」になります。

そう、リーダーシップの対象や幅が広いのに、それをリーダーシップの名のもとに一括りにするので、莫大なリーダーシップ論が混在し、混乱するのです。

打ち手は簡単です。リーダーシップの種類は数多くありますが、実は3つの「段階(目的・範囲)」に収斂されます。この段階(目的・範囲)に合わせて、求められるリーダーシップを取れるように知識・スキルを学び、経験を通して身につけ、発揮していくと、無駄も混乱もなく、ラクに、速く、職位に合わせたリーダーシップが発揮できるようになります。

 

①自分を動かす

リーダーシップは、チームや相手を動かすことに意識が行きがちですが、最初のステップは「自分を動かす」ことです。この自分を動かすリーダーシップは生まれつき誰もが持っています。目の前の人が線路に落ちたら、とっさに助ける行動をとるように、状況や自分の想いに沿って、自分を動かすことだからです。しかし、これが組織になると簡単にはいきません。周りの空気を読む、忖度するなど、職場の環境や文化が強く影響するからです。個人ではおかしいと思えることでも、おかしいと言えずに従ってしまうブラック企業がその典型です。出る杭を打つことも一緒です。結果、誰もが自分を動かすリーダーシップが発揮できなくなるのです。

「自分を動かす」リーダーシップを発揮できるようになるには、個人のリーダーシップの技術を学ぶ前に、職場に「心理的安全性」を醸成することが重要で、何よりも最初にやるべきことです。どんなにたくさんのリーダーシップの知識やスキルを身につけても、安心してそれを行使できる職場でなければ、リーダーシップは発揮できず、宝の持ち腐れになってしまいます。

最初のステップとしては「急がば回れ」で、心理的安全性を醸成するノウハウを学ばせましょう。そのうえで、各自の持ち味に沿ったリーダーシップの行使の仕方を学べば、研修で学んだことを職場で実践し、組織やチームをリードできるようになります。

②相手を動かす

次に身につけるのは、「相手を動かす」ことです。相手とは、上(上司以上)、横(同僚・他部署・社外の関係先)、下(部下・後輩)の全方位です。平たくいうと、「コミュニケーションを通して相手にこちらが期待した行動をとってもらう」ようにすることですが、ここに罠があります。古典のリーダーシップ論では相手を動かす影響力の行使方法として、たくさんの種類がありすぎるのです。上司を動かす、部下を動かす、叱り方、褒め方など、「コミュニケーション」に関する数多くのノウハウが散乱しているため、すべての手法を身につけることは現実的に困難です。ですから、たくさんの手法を学ぶより、「ソラ・アメ・カサ」や「相手の主観(優先度・判断基準)に沿って伝える」など、誰にでも通じる「基本の対人コミュニケーション力」に絞って身につけさせるのが得策です。100通りの手法を学ぶのではなく、1つの手法で100通り以上の応用が利くようにすると、学ぶ手間もかからず、研修効果も高まります。

加えて、人は論理だけでは動きません。相手の事を信頼している、あの人は味方だ、いつもお世話になっているなど、普段の姿勢・関わり方・キャラクターが影響します。

相手を動かす前提として、「ついていきたいと思われる人になるコツ」も、研修を通して学んでもらいましょう。

今の時代は、「社内で偉いからついていく」「仕事ができるからついていく」のではなく、「あの人についていきたい」という「人望」を集めないと、リーダーシップを発揮できないからです。

③組織を動かす

上記の「①自分を動かすリーダーシップ」「②相手を動かすリーダーシップ」は、現場や管理職までのリーダーシップになります。「③組織を動かす」レベルになると、経営者や幹部、その候補に求められるリーダーシップになり、大きく様変わりします。

先々を見据えて組織を率い、目標を達成させていくため、求められる役割が大きく変わります。判断力も、現場で過去の経験からトラブル対応するレベルではなく、現場から上がってくる情報をもとに会議室で先々を想定して判断するなど、求められるスキルもレベルに違いが出るのが典型です。リーダーシップに関しても、ゴールや方向性を示し、組織やチームを鼓舞し、まとめ、動かすことが求められるようになります。

この「組織を動かすリーダーシップ」の獲得は、個人の思いつきや経験ではなく、会社のパーパス・ビジョン・ミッション・バリューといった「経営理念」を判断基準として物事を決めていくことを、研修を通じて学ばせることが有効です。経営視点を身につけさせることもできますので、大変有意義です。

実際に組織や全社に影響するプロジェクトの責任者として任せ、選抜教育や実践の中で、経営者が直接OJTすることで鍛えあげると良いでしょう。

海外ではビジネスコーチをつけ、過去の成功体験や今の自身の枠内にとどまらずに脱皮できるよう、意識・視点・振る舞いを含めた行動までチェンジさせることもよく用いられます。

このように3つの段階を踏めば、研修効果を最大限に引き出し、リーダーシップを身につけさせることが可能になります。注意すべき点は、「リーダーシップの獲得は、段抜かしができない」ということです。「①自分を動かす」ことができない人が、「②相手を動かす」ことはできませんし、「③組織を動かす」ことはもっとできません。

ゲームでいきなりラスボスを倒せないのと一緒です。人事は、この「リーダーシップの3段階」を階層別教育に取り込み、無理・無駄・飛躍なく、リーダーシップが成長する流れを作りましょう。逆にいうと、これは人事にしかできないことなので、誇りと意義をもって取り組んでいきましょう。

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