第8回:産休、育休・時短勤務のレガシーの壁をぶっ壊す!

令和になった今でも「人事のレガシー」という亡霊に取りつかれたまま、思考停止している日本企業の人事によくお会いします。第8回目は「キャリア開発」に焦点を当てます。

◆人事のレガシー8「産休・育休・時短など福利厚生を充実させる」

◆レガシーを破る視点「性別問わず、時間辺りの生産性を評価指標にした上で、女性の働き方に男性も合わせる」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

福利厚生を充実させても誰も満足しない

産休・育休、時短勤務はもちろん、働く女性のための福利厚生を充実させることで女性活躍を推進しようとしている企業は多いでしょう。

実はここに罠があります。男性視点から「こうに違いない」と福利厚生を充実させても実は意味がないのです。性別に関わらず十人十色。ひとりずつ価値観は違うものですが、ある程度共通したものもあります。時短勤務中の女性の生の視点をみてみましょう。

職場のメンバーより速く帰ったり、時には子供が体調を崩して朝一で病院にいかざるをえなくなったりすることで「申し訳ない」と思い、自分を責めてしまう人は圧倒的に多いものです。在宅勤務でも同様です。リモート会議の時に、子供がママを求めて画面に映るくらいなら愛嬌ですが、泣き出したり、壊したり、会議の場から離れなくていけなくなるなど、在宅ゆえに余計に気苦労してしまいます。結果、時短勤務は労働者の権利でもあるのに、「申し訳ない」といたたまれなくなり退職してしまう女性も実際は多いものです。

一方、時短勤務でテキパキ仕事をこなしていても、仕事ができない男性社員の評価が高まる。評価運用だけではありません。実際、産休・育休・時短勤務中の評価は低い。昇進も遅れるという人事の仕組みになっている企業もあります。

勤務時間に関わらず「ちゃんと働いた結果」として評価して欲しいという、人としてごく当たり前な要求を阻止する制度や運用があれば、福利厚生を充実させても彼女たちには偽善にしか映りません。古き日本的マネジメントであり長時間労働、滅私奉公を前提にした人事制度や現場のマネジメントはある意味差別ともいえます。

逆に福利厚生を充実させ過ぎた結果、産休・育休・時短を繰り返す女性社員が増えすぎ、現場が回らない。産休・育休はとったもの勝ちで、残った社員が疲弊するという逆差別的な現象が起きている企業も実はたくさんあります。

「人事の問題より、現場のマネジメントが変わらないと・・・」という人事も多いでしょう。よくわかります。ですが、人事ゆえにできること、人事ゆえにできることがあるので解説します。

昔ながらの長時間労働好きおじさんを一瞬で変える方法

人事の皆さんも感じている通り、女性活躍の一番の壁は現場の管理職です。昭和の時代に生まれ、高度成長期を支えた役員クラスもまだいる企業もあるでしょう。THE昭和的な夜討ち朝駆けは当たり前。会社に忠誠を尽くす代わりに社員とその家族を守る。社員皆家族的な発想をしていた時代のマネジメント感です。

管理職クラスはさすがにその世代は入れ替わりましたが上はバブル世代前後が多いのではないでしょうか。このクラスも上世代同様、朝から夜まで働き、夜中にみんなで飲んで、長時間会社の人と一緒に過ごす。「俺徹夜なんだよね」と寝てない自慢をする長時間労働が若い頃からたたき込まれた習慣になっています。

現場の意見は強いもの。自分達が慣れ親しんだやり方を女性活躍のために変える気持ちはなく、逆に自分達の仕事の仕方にどう女性の働き方を当て嵌めようとします。ゆえに、長時間労働が有利になる人事制度や運用に流れてしまうのです。

ここは簡単。評価基準を「売上」「利益」といったものだけでなく「1時間辺りの生産性」の項目を入れ、ウエイトを高くしてあげればいいのです。1時間辺りの生産性であれば勤務時間に関係なくフェアな勝負ができます。パフォーマンスが低いから長時間労働で取り戻す。仕事が遅いだけなのに「遅くまで頑張っている」と行動評価を抑止する効果もでます。

ただし、この運用がうまくいくかは社長のコミットメントが必要です。結局長時間労働をよしとする現場の圧力に屈したらなし崩しになってしまいます。人事はしっかり社長や経営陣とスクラムを組みましょう。会社が速くラクに成果を出せるように変わるのでやってみると思った以上に効果がでます。

どうしても現場の抵抗が強ければ特定部署から開始し、結果を出してから広めていくやり方も現実的です。コロナ禍で在宅勤務が求められる今こそ、抵抗勢力のおじさんをおさえ、新しい評価指標は入れやすいタイミングです。

時短ママの仕事のやり方を男性社員に逆輸入させる

男性のマネジメントや育成は得意だけど、女性のマネジメントや育成が苦手という管理職はいるでしょう。それは致しかたないのです。これは男性脳と女性脳の違いにより、得意なこと、苦手なこと、響く言葉などが異なるからです。(女性=100%女性脳ではなく男性脳的な発想が強い方もいますが、大きな傾向として本項では解説します)

女性脳は左脳と右脳をつなぐ脳梁が太く、感覚的な右脳と 言葉を操る左脳の連携が男性脳よりも優れているとされています。「感情」 と「言葉」が目まぐるしく交信するので、直観的だったり、話が飛んだり、話をしている最中に感情 がこみ上げてきて涙が出たりするのが女性脳の特徴です。

女性は脳は右脳と左脳の間を交信するパイプが太いので、物事の細かい部分やまわりの空気や感情にもよく気づきます。一般的に女性のほうが「気がつく」とか「察しがいい」といわれる理由がここにあります。半面、その情報量の多さゆえに迷いが生じ決断が遅くなることもあります。

女性脳は家事、育児、仕事、趣味など、同時にたくさんの役割をこなせる特徴があります。対して男性脳は右脳と左脳の連携が細い分、1つの仕事に集中して長時間やることが得意です。また、男性脳は女性脳ほど同時に大量の情報を処理できない代わりに,空間認識 力を使い、パッと物事の本質を掴み、大局からものごとを見定めることに向いています。

『察しない男、説明しない女』という書籍のタイトルは,まさにその通りなのです。男性脳は一つの事に没頭しやすいので長時間労働も気になりにくい構造なのです。

逆に女性脳はマルチタスクで複数の仕事もサクサクと同時に効率的に進めることが得意です。なので、時短勤務の労働時間を前提に効率的な仕事の仕方を彼女たちのマネをする形で標準化し、その方法に集中させれば男性脳でも驚くほど生産性があがりますのでお勧めします。

実際に仕事をする時、どういう意図で、どんな順番で進めて、何に注意しているかを朝から帰る時まで時間軸で聞いて整理するといいでしょう。思わぬ生産性があがる仕事のコツがあったものだと男性諸君はびっくりすること請け合いです。

時短勤務の労働時間が前提になるので男女に関係なく平等な評価になるし、性別に関わらず会社全体として生産性があがれば誰もがハッピーになります。

時短勤務者のお手本を人事がつくり広報する

評価指標と現場の仕事の仕方に加え、一番の壁となるのが時短勤務者に対する過去からの思い込み・文化と、時短勤務者の「申し訳ない病」です。これを治療するのは人事しかできません。時短勤務なのに通常労働時間と同じがそれ以上にパフォーマンスをあげるモデルを人事の多大なるフォローもとに実現し、社内外に広報しまくるのです。

サイバーエージェントはこの方法を活用し、今では時短勤務予定者に対し、育休明けの3か月前から復職先のオファーが絶えないようになっています。時短勤務で通常労働時間と同じかそれ以上にパフォーマンスを出してくれるなら、当然どの部署でも喉から手がでるくらい、その人材を欲しがります。当の本人も通常労働と同じかそれ以上のパフォーマンスを出すプレッシャーはありますが、時短勤務で評価された女性の先輩もたくさんいて相談できるし、人事が支援してくれることがわかっているので安心して仕事に集中できます。時短勤務者に対するネガティブな現場の印象を払拭し、申し訳ない病など当人達の不安を払拭することに成功されています。

人事がやったことは実は地味で泥臭いことです。ノートPCをとにかく最新で速いマシンにするなど、人事が一人目のモデルとなる時短勤務者と一緒に時短勤務中に生産性をあげさせる努力を行ったそうです。そして、結果がでてくると社員食堂、メールマガジン、ブログ、いたるところで「〇〇さんは、凄い。時短勤務でも通常労働時よりパフォーマンスをあげている」と発信し続けたそうです。そのモデルとなる人材が3人を超え、5人になる頃には、現場が時短社員者を見る目が変わってきたそうです。

そして、現場から時短勤務者にきてほしいという声が出始め、それを人事がまた社内外に広報することで、俺も俺もとダチョウ倶楽部の上島竜兵のギャグではないですが、次々と手があがるようになったとのことです。

この取り組みは人事しかできません。経営、現場、時短勤務者を一番いい形でくっつけていく努力は必ず報われるので、ぜひ、御社の時短勤務者が生き甲斐を持ってイキイキと働ける幸せな環境を整備していきましょう。

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