第6回:報連相のレガシーを壊す

令和になった今でも「人事のレガシー」という亡霊に取りつかれたまま、思考停止してしまっている日本企業の人事によくお会いします。第6回は「マネジメント」に焦点を当て、人事のレガシーを破る方法をご紹介していきます。

◆人事のレガシー6  「報連相を徹底してマネジメントとPDCAを強化する」

◆レガシーを破る視点 「報連相ではなくソラアメカサを活用する」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

報連相は、思考停止の指示待ち人材を育てる

報連相が「上司と部下のコミュニケーションの基本ルール」であることは間違いありません。しかし、ここに罠があります。そもそも報連相の目的は「部下は現場の状況をタイムリーかつ的確に上司に伝え、上司がその情報をもとに判断を行い、部下に指示・指導をする」ことです。つまり、現場の状況さえわかれば上司が正しい打ち手を出せることが前提になります。

しかし、現在は上司も経験したことがないほど変化とスピードが速く激しい時代です。必ずしも上司が正解を持ち合わせているとは限りません。こうした時代では、現場で仮説検証と実行を繰り返しながら、正解を探し当てていくという仕事の進め方が重要になります。つまり、いちいち上司に報連相をして指示を待っていたら対応が間に合わないのです。

また、報連相は「指示待ち族」を作ることにも繋がります。「現場の状況をタイムリーに正しく伝え、上司の指示を待つ」という仕事の進め方は、新人や若手ならいいかもしれません。しかし、中堅社員以上が指示待ち族では困りますよね。中堅社員以上は自ら仮説を考え、上司にぶつけた後、相手の反応を見て、次にどうするかを考えたり、先々を洞察したり、本質的な課題を見つけ、設定する等、自分の頭でPDCAを考えられなくては物足りません。

ただ、残念ながら報連相は「部下から受けた報連相を上司がどのような視点で分析し、スジのよいPlanや打ち手を考えているか」がブラックボックスになりがちです。上司が部下にかける言葉は、「一つ上の視点で考えろ」などの自己啓発的な弱い育成アプローチに終始しているのが現状です。部下は上司からスジのよいPlanを描く力を学ぶことができていないのです。

そして、このマネジメント上の傷はリモートワークでさらに広がっています。リモートワークでは、職場に集まって仕事をしていた時のように、上司が部下の顔色等で仕事の進捗や心理状態を察することが難しいためです。結果、上司が部下から報連相そのものを引き出す動きすら取りづらくなり、一方的な指示が増えているのです。

特に、仕事に自信がない部下は上司から指摘されるのを恐れ、自らは中々報告や相談をしてきません。そのため、上司は心配して細かく指示や確認を行おうとしてしまいがちです。するとますます部下は指示待ち人材となり、自律的に考えて行動できなくなるという悪循環に陥っているのです。

「ソラアメカサ」で考える

では、部下は上司に報連相をする際、どのような枠組みで考えればPDCA力が強化出来るのでしょうか。それは「ソラアメカサ」という枠組みで物事を考え、上司とコミュニケーションをとればいいのです。ソラアメカサとは、問題解決に必要な抑えどころの枠組みです。

ソラ(空)―「空が曇ってきた」(事実認識)
アメ(雨)―「ひと雨きそうだ」(洞察・解釈)
カサ(傘)―「傘を持っていこう」(判断・打ち手)

この3段階の思考パターンをセットにして身に着けることがスジのよいPlan策定に繋がり、現場のPDCA力を高めることになります。まず、ソラを確かめるように正しく事実を把握しましょう。事実を正しく認識できないと、全ての打ち手が間違いに繋がってしまいます。思い込みなく事実を把握することこそがPDCAの一番の基礎になります。

次に事実を解釈して「こうなりそうだ」という洞察を行います。ポイントは「事実からの解釈は幾通りにも分かれる」ということです。空が曇ってきて「ひと雨きそうだ」と捉えるのか、「いや、雨が降るには至らない」と捉えるのか、人によって解釈には違いが生じます。この解釈の仕方一つで、その後の対策が変わってくるのです。

したがって、常に偏らずに全体を踏まえ、あらゆる可能性の中から最も納得のいく解釈を行うことが求められます。解釈の方向性を1つに限定せず、常に事実から3つ程度の解釈を導き、その中から最も理にかなっている解釈を選ぶ習慣を身につけることで、想定外の出来事にも対処できるようになるのです。

同じソラを見てもアメが降るか否かの解釈がずれるように、上司と部下では同じ現象を見て同じ事実を把握しても、意外とソラがズレることがあります。同じソラをみて「綺麗ですね」と言っても、青空が綺麗、雲の形が綺麗など、「対象」がズレる時もあります。アメが異なればその後の打ち手も意味合いを変わりますし、打ち手自体も変わることがあります。アメの解釈の違いをなくせば、上司と部下の間のコミュニケーションもズレなく進むようになるでしょう。また、アメは事実の解釈であるとともに、「こうなりそうだ」という洞察でもあります。先読みの洞察スキルを磨くことで、物事を見る視点の高さと広さを手に入れることが出来ます。

最後にカサ。事実から導かれた解釈・洞察に基づいてどんな打ち手を実行するか、ということです。アメ同様にカサも「ひと雨きそうだ」という解釈から、「傘を持っていく」だけではなく、「雨合羽(かっぱ)を着る」、「そもそも外出をやめて自宅にいる」という複数の打ち手が考えられます。

カサを選ぶ時には、アメと合わせ、どの打ち手が一番有効かという意思決定が必要になります。上司に「なぜこの打ち手なの?」と聞かれた時にその理由を述べる必要があるからです。「えいや」の思いつきでは、その打ち手を外した時、次にどんな手を打てばいいか検証ができないのです。手段を選択する論点をもとに検討しないとカサは決まりませんし、100%の正解があるわけではありません。なので、物事を決めるための論点といった判断基準を導き、決断するという意思決定力が鍛えられるようになります。

当然、カサも目的を踏まえ、解釈から導かれる対策を柔軟に複数挙げたうえで、最も合理的な選択に絞ることが求められます。報連相では指示待ちでも何とかなったかもしれませんが、ソラアメカサでは事実の解釈と洞察、打ち手を決める論単や判断基準の整理と意思決定の胆力が必要不可欠なのです。

報連相ではなく報連+提案ということを述べる人もいますが、これではソラの事実から、いきなり打ち手の話に飛躍してしまいます。事実の解釈のアメが異なれば、違うソラに向かって打ち手を考えることになりますし、提案である打ち手がうまくいかなかった場合、検証が十分にできません。ソラアメカサであれば、事実が間違っていたか、事実の解釈と洞察がズレていたか、打ち手がミスマッチだったのか、その検証が出来るのでPDCAのCAが効くようになります。

ソラアメカサの活用・浸透方法

実は、ソラアメカサを職場に浸透するのはとても簡単なのです。上司と部下で仕事の進捗や案件の相談をする時に「ソラアメカサの構造になっているか?」を確認しあえばいいだけ。そして「アメが抜けて打ち手を考えている、それでは思いつき」とか「カサの判断基準は?」など、ソラアメカサの構造の抜け漏れや内容をチェックしていけばいいのです。

鍵になるのはアメを導く洞察力ですが、「ソラを踏まえてどうなりそうか?」を上司と部下がそれぞれ言い合えば一瞬で違いが浮き彫りになります。その場でソラを見る視点やどう洞察するのかについて具体的な指導ができるので、部下は上司の思考回路をすぐ吸収できます。さらに、カサという打ち手の指示についても解釈のズレがなくなります。解釈のズレが格段に減ることで、確認と手戻りの負荷が激減し、チーム全体の仕事が速くなるのです。

ソラアメカサは簡単な構造なので、自分で物事を考える時に、ソラアメカサの構造になっているかを自問自答するだけでもPDCA力は変わってきます。また、経営陣への答申資料を一言でいう時にも、ソラアメカサの構造は効果を発揮します。実際、あの大前研一さんも「ソラアメカサが揃っていないと経営は判断できない」と言っています。経営陣への答申や会議で提案する時はこの構造でいうように書式を徹底すれば浸透のスピードは速くなるのでお勧めです。

今回は、「報連相を徹底してマネジメントとPDCAを強化する」という人事のレガシーを破る方法をご紹介しました。ソラアメカサは、非常に簡単で理解しやすい構造かつ、職場でもすぐ活用・浸透可能な手法にも関わらず、その効果は絶大です。ぜひ、報連相ではなくソラアメカサを活用したマネジメントを実践してみてください。

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