第16回:目標管理「行動計画」のレガシーの壁をぶっ壊す!

令和になった今でも「人事のレガシー」という亡霊に取りつかれたまま、思考停止している日本企業の人事によくお会いします。第16回目は「目標管理の行動計画」に焦点を当てます。

◆人事のレガシー16:「逆算して行動計画を策定する」

◆レガシーを破る視点:「コツをおさえた作戦を練り上げ、ルーティンに落とし込む」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

目標から逆算した行動計画はただの予定

目標達成が行動計画の良し悪しによって成否が決まることは間違いありませんが、ここに罠があります。普通、目標から逆算して行動計画に落とし込むでしょう。実は、これではただの予定でしかなく子供の夏休みの宿題の予定と同じです。

いくら予定を立てたところで、強靭な精神力で自分をコントロールして計画通りに進めることができる人はごく少数です。逆算した予定レベルの行動計画では、進捗管理しかできません。しかも、ビジネスの現場は予定通りに全て進むほど甘いものではありません。

進捗管理しかできない行動計画には、致命的にあるものが不足しているのです。

上手くいくコツをおさえ、作戦を練り上げる

たとえば、オセロで目の前の駒をひっくり返すことだけに集中していては、勝てる可能性は高くないことはわかるでしょう。

勝つためには「四隅を取る」ように「コツ」をおさえることが重要です。「四隅を取るにはこの升においてはいけない」等、数々あるコツを多数おさえ、攻略するための「作戦」を立てることが必要なのです。

作戦通りに攻略できていれば、前半戦で相手の駒色の方がよくても冷静にゲームを進めていくことが出来ます。想定の範囲内だからです。

想定通り進まない場合、軌道修正が必要になりますが、ビジネスの場合、駒をどこに打つか=日々のルーティンです。ルーティンの積み重ねで、コツをおさえた作戦の進捗の把握と軌道修正ができます。予定であれば調整しかできませんが、ルーティンであれば修正できます。よって、軌道修正がやりやすくなるのです。

行動計画を「コツをおさえた作戦に練り上げ、ルーティン」に落とし込むことが正解です。

 

■ポイント

コツ、作戦、ルーティンまでがきちんと繋がれば、リモート環境でも部下もモチベを高く保てます。スライムをあと何匹倒せば、もっと強い敵を倒せる。武器がレベルアップする等、ゲームの達成度と自分の成長がわかり、どう攻略すればいいかわかるからです。

ゲームを始めるのに「攻略本」を読まずに始める人は今はいません。

任天堂のベストセラーゲーム「集まれ森の動物」は育成系ですが、全アイテムが掲載された攻略本もベストセラーになっています。仕事も同じです。目標達成するには「攻略本」を手に入れることが先ですが、あるのはマニュアル位です。マニュアルは平均の進め方と手順なので攻略のコツまでは書いていません。なければ作ってしまいましょう。

 

仕事の攻略本をつくためには、次の3つの方法でネタを仕入れるといいでしょう。

 

①優秀な人に「普通の人との仕事の押さえどころの違い」を聞く

学生時代は「カンニングはいけません」と教わりましたが、社会人になったら別です。優秀な人から仕事のコツを教えてもらうのが、一番手っ取り早い方法です。

ただ、ポイントの押さえ方にはコツがあります。優秀な人のやり方を聞くだけでは落とし穴に引っかかってしまいます。達人の領域にいる人というのは、「俺にはボールが止まって見える」など、常人では到底理解できない表現やレベル感で話すことが多いからです。

では、優秀な人にはどう聞けばいいのか。仕事の流れに沿いながら、「普通の人と違うポイントはどこでしょうか? 一番違うポイントから教えてください」と聞くのが正解です。優秀な人と普通の人の違いが、この質問でハッキリします。

普通の人は、優秀な人との仕事の進め方やコツの違いが分からないのですが、優秀な人はそこを知っています。その違いを聞き出した上で、普通の人と優秀な人との仕事の進め方を「段取り」、「P」「D」「C」「A」等、仕事のコアプロセスの流れに沿って分析し、アクションを併記します。

その際に、キーになるアクションに「◎」など「力を入れる順番やウエイト」が分かる印を付けるとより効果的になります。一日の時間割・時間配分も合わせて作成するといいでしょう。PDCAでなく、業務プロセスが決まっていれば、そのプロセスに沿って整理するのもありです。要は、自分が使いやすいと感じる方でいいのです。

「普通の方は意外にマニュアル通りにきっちり。優秀な方は準備に時間をかけ、目の付け所はここ」というように、より立体的にその違いがハッキリし、組織内に普及させやすくなるのでお勧めです。

②上手くいっていることの裏側を探る

上手くいっている打ち手から逆算して考えていく「逆の視点」を持つと効果をあげるコツが見えやすくなります。教えてくれる人がいないけど、このノウハウ、使えるかも、と、他業界や会社のノウハウをベンチマークして仕入れる時に役立ちます。

たとえば、日本コカ・コーラは自動販売機を日本で一番多く設置している企業ですが、まだ増やし続けているのはなぜでしょうか? 「喉が渇いた消費者の一番身近にある」ということは誰でも思いつくでしょう。CMなどを通しブランド力をあげても喉が渇いた消費者の目の前になければ手に取っていただける可能性が落ちます。ここまで誰でも思いつくでしょう。ただそれだけでしょうか?

日本コカ・コーラは製造から物流なまで全ての工程を自社で行っています。ですから、コンビニなどに卸すより、自販機で直売の方が利益率は高そう、ということが仮説として見えてきます。

このように、うまくいっている打ち手を逆から2段階以上深めてみると隠れていたコツがくっきり浮き出てきます。このコツを仕入れられないかなと考え、取り込むことをアナロジーといいます。置き野菜のビジネスモデルをもとに、オフィスの置き菓子の「オフィスグリコ」を生み出した事例もアナロジーと言えます。

③成功パターンを集めて共通項を見つける

まずたくさんの成功パターンの事例を集めてみましょう。偶然を排除し、誰にも通用するコツ見つけることが目的です。

次にその事例の要所を抜き出し、共通項を探っていきましょう。例えば、野球のピッチャーの成功のコツは何でしょうか? 160kmを超えるスピードボール?キレの良い変化球でしょうか? これらは要素のバリエーションの一つに過ぎません。

成功したピッチャーに共通するコツは、「バッターのタイミングを外す」ことです。どんな強打者でも、タイミングが外され、自分のバッティングをさせてもらえなければ、凡打に終わる可能性は高くなります。

この共通したコツをもとに、自分の持ち味に沿って活かす方法に落とし込むのです。ピッチャーであれば「バッターのタイミングを外す」というコツをもとに、後はそれぞれのピッチャーが自分の特徴を活かして打ち手を考えればいいのと同じことです。

攻略本ができたら、自分の持ち味に沿ったコツを集めます。猪八戒が如意棒を使いこなせないように、どんなにいい武器=コツがわかっても自分の持ち味とフィットしなければ使いこなせないか、使いこなせるようになるまで時間とストレスがかかるからです。

最後に、集めたコツを練り上げ、作戦、ルーティンにまで落とし込めばOKです。

部下はゲームをするよう、コツをおさえながら目標達成にのめり込きます。進捗管理では「ここまでにどれだけできかた」しかわかりませんが、作戦とコツなら、部下が躓いたところを「こうやればいいよ」とコツまで具体的に指導できるので部下も成長し、上司は尊敬の念を集めることになる上、全体の目標達成の確度があがるのでお勧めします。

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