第57回:採用のセオリーをぶっ壊す⑧-中途採用者は即戦力として任せたはずが…-

人事のレガシー57「中途採用者が自律的に動きやいよう任せ、必要に応じフォローする」

レガシーを破る視点「中途採用のダイバーシティ&インクリュージョンの視点でサポートする」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

中途採用こそ、ダイバーシティ&インクリュージョンの視点が必要

第二新卒を除き、企業は中途採用者には即戦力を求めるし、本人も即戦力として活躍する前提で入社してくるものです。すぐに会社や職場に馴染み、実力を思いっきり発揮してもらうため、最近は中途採用者にもオンボーディングを行うことが増えてきました。

社会心理学者のレジェンドであるクルト・レヴィン教授が提唱した「場の理論」が示す通り、「人の行動は、その人の特性と環境が相互に作用して決まる」からです。

どんなに優秀なかたであっても新天地の環境で上手く自分を活かせなければ前職までの実力が発揮できないことを人事は学んでいるからです。

中途採用者は、前職までに培った実力はある。ゆえに、クルト・レヴィン教授の公式でいう人の特性はクリアしているので、もう一つの要因で環境面にウエイトを置いた施策を取れば自社でも十二分活躍できるはず。ゆえに、経営理念をしっかり教え、業務プロセスやルール、規範をしっかり学ばせ、人事や現場でフォロー担当を用意し、自社の環境で何かわからないことがあれば、すぐ教えられる体制を組むことは一見理に適っていますがここに罠があります。

確かに、ルールや規範さえわかれば、すぐに機能する中途採用者もいますが、多くの方は多かれ少なかれ、それだけでは苦戦します。

理由は人間の脳にあります。人の脳は物事を絶対値で理解するよりも、既に知っている何かと相対比較をして違いを認識した方が簡単なのです。そのため何が起きるかというと、中途採用者は前職までの経験と比較してしまい、「前職では〇〇だったけど、この組織では△△なのですね」と口ずさむ傾向が高くなります。結果として、既存の社員から「ここは前職ではないので、この会社のやり方やルールに従って欲しい」と反発を招いてしまうことになりかねません。実績がある会社出身で管理職以上の中途採用者の場合、例えば「リクルートのやり方をぜひ我が社のみんなに教え、指導して欲しい」などと入社時に経営者や部門長クラスから言われることも多く、その言葉を真面目に受け止めてしまい、「前職のやり方では・・・だった」と前職のやり方をゴリ押しした結果、部下から総スカンを喰らってしまい、誰もついてこなくなるということもよく起きる現象です。このように人の脳の特性が、中途入社側と受け入れ側、どちらにもマイナスに働いてしまうため、中途入社は独自の視点でダイバーシティ&インクルージョンを描くことが要諦になります。

中途入社者の経験を邪魔にしないために忘れてはいけないこと

では、どうすればいいのか。中途入社者は即戦力であるため、組織で機能してもらうために一番大事な関所を忘れがちです。その関所は4つのステップになります。

① How to live:その組織の中で生きる/一員として受け入れられるか
② How to learn:その組織のやり方・ルール等を学べるか
③ How to work:その組織のやり方・ルールに沿って働けるか
④ How to influence:その組織に影響を与えられるか

そう、これは新入社員研修でよく話される基本的なステップです。この①から④への流れは中途入社も同じなのですが、社会人として一人前以上で経験・実績があるため、この①のステップをすっ飛ばし、②のこの組織のやり方やルールを教えることが9割以上です。

結果、優秀な実績を持つ中途入社者が、入社後の組織に馴染めず、認めてもらえず、せっかくの経験やノウハウが活かせなくなってしまうのです。

人事からすると、社会人一年目の新卒社員と同じように①のステップを踏まなくても、社会人として経験豊富なので、その壁は簡単に乗りこえられることが前提と考えてしまう気持ちもわかります。

しかし、事実として中途採用者の戦力化が上手い会社こそ、①のプロセスを重視しています。

600社以上の人事の実態を踏まえ、コンサルティングを行ってきましたが、中途の戦力化が上手い企業は例外なく①を重視し、効果がある打ち手を行っていますし、行えるようにコンサルティングを行ってきました。

そのやり方は、当然ですが、新入社員と中途社員で異なります。

新入社員のように手取り足取りではなく、共通したやり方・ノウハウがあるので次項で具体的に解説します。

中途採用のダイバーシティ&インクリュージョンは3つの視点で実現できる

では、どうすればいいか。中途採用のダイバーシティ&インクリュージョンは3つの視点で行うとスムーズです。

<視点1>
×:入社時の挨拶は前職の概要と自社での抱負ではなく、
〇:誤解なく受け入れられるフォーマットに沿って行う

中途入社者に対し、同じ職場になる方々は、「どんな人なんだろう」と興味津々であることは共通です。注意すべきは、実際に入社される前に、配属される組織には、その方のプロフィールや経歴について事前にアナウンスされることが一般的ですが、概略しか伝えないことが大半です。

結果、前職の会社名等をもとに、勝手にどんな人かをイメージされ、そう認知され、その認知の通りだろうと期待されてしまうのです。リクルート出身なら、営業力や新規事業を立ち上げることが得意に違いないと、世間のリクルートに対するイメージと同じことを期待してしまうことは多々ありますが、中途で入社し配属される方が100%その通りの経歴とは限りません。リクルート出身だけど、ずっとシステム畑で営業経験がゼロだとしても、「リクルート出身なので営業が得意に違いない」と「決めつけ刑事」のように勝手に周りがそう思い、そうあるに違いないと入社前から勝手な認知ができあがります。

配属後、少しでも周りが決めつけた認知と違う行動をすると、事実ではなくこちらが勝手に決めつけた認知にも関わらず、裏切られたと周りは感じ、結果、中途社員は嘘を言ったわけでもないのに、勝手に周りから締め出しを喰らってしまうことが多々あります。中途採用の局面でもハロー効果は発生するのです。

それを解決するのは簡単で、中途社員が配属時の最初のスピーチや掲示板の自己紹介に以下のフォーマットに沿って紹介するとバイアスを除去し、正しく認知してもらうことが可能になります。

◆前職での経験

・担当業務、職務経歴(サマリー)
・身に付いた能力
・成功体験
・失敗体験
・最も評価されたこと

◆将来像・目標

・担当する(担当したい)の業務
・磨いていきたい能力
・取りたい資格等
・その他、わからないこと、知りたいこと
・目標を達成するために具体的にどんなことをしようと考えているか

ポイントは、採用面接の自己PRとは異なり(例えば、短所は長所に置き換わる内容にする等)、素直にありのままの内容にしてもらうことです。最初に提示された情報が強く印象に残ることは、心理学で「初頭効果」と認められている通り、最初に与えた印象を脱ぎ去ることは大変です。①How to live:その組織の中で生きる/一員として受け入れられるかどうかは、この第一印象のインパクトが大きいので、嘘偽りなく、かつ、情報の過不足がないようにすることが要諦です。上記のフォーマットに沿って整理し、伝えれば、伝えたいこと/知りたいことを網羅できるのでお勧めします。

<視点2>
×:現場に任せるが、見守り、適宜フォローする
〇:入社3週間後にアシミレーションを行う

配属時の自己紹介でフォーマットに沿ってきちんと伝えても、「人は絶対値ではなく相対比較で判断する傾向がある」などの伝え方の問題や、新しい組織でのルールに不慣れであること、今までの仕事のやり方との差異、などの理由より、人間関係にサイレントノイズが出てしまうことは前提になります。

サイレントノイズは積み重なると不協和音になりかねません。不協和音になったらチームはガタガタで取返しがつかないことになります。なので、ノイズや違和感はまだ小さいうちに解決しましょう。

具体的にはアシミレーションを行うことです。アシミレーションはGEの例が有名ですが、リーダーが異動や中途入社で配属された時に行うことで、チーム内の誤解を解消し、チーム力を高め、機能させる手段になります。

アシミレーションは5つのステップで進めます。

[STEP 1]関係者(上司・メンバー・ファシリテーター)全員が一堂に集まる
[STEP 2]ファシリテーターが趣旨を説明し、上司は離席する
[STEP 3](60分)ファシリテーターがメンバーから本音を引き出し、書き出す

「知っていること」「知らないこと」「こういうことは止めてほしい」「こういうことをしてほしい」ということを具体的な行動で洗い出し、紙に書き出す。

メンバーの誰が何を言ったか分からないように注意を払い、発言を書き出す人はファシリテーター1人に絞る。

[STEP 4](15分)メンバーと上司が入れ替わり、書き出された発言内容や、ファシリテーターからのフィードバックを受ける
[STEP 5](15分)メンバーが入室し、上司がコメントする

所要時間は、テーマの重さやメンバーの数などにもよりますが、基本90分前後が多いです。

アシミレーションの要諦は、人事等の第三者がメンバーそれぞれの意見を手書きでまとめるため、誰が何を言ったのかわからなくなる匿名性があるので、安心して本音が言えるし、受け入れる方も、誰の意見かというバイアスがないためシコリが残らず、素直に受け入れやすくなる効果があります。

詳しくは『第42回:リーダーシップのセオリーをぶっ壊す③-リーダーシップを発揮しやすい環境を整えても魅力的なリーダーは育たない-(https://hr-souken.jp/article/41561/)』で解説していますので、この記事をご参照ください。

 

<視点3>
×:経営理念は暗記させるのではなく、
〇:瞬時のYes/Noの判断基準としてリアクションできるようにする

同業や同職種であっても、企業の数だけ経営理念は異なります。新しい組織に入社するのですから、経営理念についてしっかり学ぶ機会は用意されていることが多いです。しかし、中途採用の場合は、経営理念について詳しく解説し、テストで理解度をチェックして暗記させるだけではNGです。

なぜなら、経営理念は、経営から現場までの瞬時のYes/Noの判断基準になるものなので、どんなに頭で理解しても、瞬時の判断は、今までの経験から出てしまうからです。当然、経営理念に合わない判断や言動、行動は、悪気はなくても職場でノイズを発生させます。なので、経営理念は、判断に迷う場面でも瞬時にYes/Noのリアクションを取れる教育が必要です。判断に迷う場面で、「全てが正解にみえる行動カード」から1枚を選んでもらい、その理由を確認するゲーム形式をとることが要諦です。なぜなら、日本人は多様性に慣れていないことが多く、Yes/Noの判断基準が違うことをフィードバックすると、自身の実績や人間性まで否定されたと受け取ってしまう傾向があるからです。全てが正解にみえる行動カードから1枚選ぶ方式を取るメリットは、「正解はカードの数だけあり、自分が選んだカードも間違いではなかった。ただ、この会社ではこのカードが正解で、経営理念のこれを判断基準とするからこうなるのだな」と否定された感情は覚えず、素直に受け止められるようになるからです。詳しくは、『第4回:価値観浸透のレガシーの壁をぶっ壊す!(https://hr-souken.jp/article/1907/)』を参考にしてください。

 

まとめ

最後に、中途入社者は、どれだけ実力があっても、自社については素人で何も知らないという前提に立つことが重要です。既存の社員は生え抜きのプロパーならもちろん、中途入社者も「朱に交われば赤くなる」状態であり、自身が入社時は、遠い昔の思い出状態になることが常です。ゆえに、「え、そんなことで悩んでいたの」「役員や上司にも直接言えば聞いてくれるのに、なぜ言えないのだろう」と入社したての中途社員の気持ちやできる行動にズレが発生するのは前提です。ゆえに、寄り添うことは重要ですが、寄り添っても、本音を言えない/動けないようなら、人事の愛は不時着してしまいます。中途社員は即戦力ゆえ結果を出すことや、実績をあげた過去のやり方に注力しがちになります。焦る気持ちがチキンハート/ガラスハートに繋がり、暴走するか、ふさぎ込むようになると、余計過去のやり方や価値観にすがるようになる悪循環に陥ります。

上司や人事が介入しすぎると子供扱いされたと、こちらも、同様にチキンハート/ガラスハートに繋がります。

ゆえに、放置でも過保護でもなく、今回紹介した組織開発・行動科学のノウハウを取り込むことで、最小限の工数で、最大限の効果を引き出していきましょう。

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