第11回:昇格昇進のレガシーの壁をぶっ壊す!

令和になった今でも「人事のレガシー」という亡霊に取りつかれたまま、思考停止している日本企業の人事によくお会いします。第11回目は「昇格昇進」に焦点を当てます。

◆人事のレガシー11 「実績も評価が高い人材を昇進させる」
◆レガシーを破る視点 「周りがついていきたい人を選び、苦手なことを得意な人とセットにする」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

実力だけで選ぶと、優秀なプレイヤーが平凡な管理職になる

管理職の登用を間違えると、成果は出ないうえによほどのことがない限り降格も難しく、職場が腐ってしまいます。

ゆえに、「実力があるか」「成果の再現性があるか」を確認した上で昇格昇進させることがセオリーですが、多くの組織で想定した以上に機能していません。

実力があるけど部下と勝負してしまう。指導もできない。問題が起きたら「代打俺!」で解決しようとしてしまう。人望があったはずなのに暴君になってしまった。逆に実力があったはずなのに管理職になったら周りに気を遣うばかりでマネジメントできない。

多くの企業が、優秀なプレイヤーを平凡な管理職にしてしまった経験があるでしょう。ここに罠があります。プレイヤーとして実力があることと、リーダーとして周りがついてくるかは別なのです。

アセスメント研修を実施し、管理職として通用スキルがあるかどうかを判断材料に入れても結論は一緒です。個人で高いスキルを持っていても、嫌われる人は嫌われ、人はついてこないのです。

求められるリーダー像は「ついていきたい人」に変わった

リーダーの選抜基準は、平成の終わりから大きく変わりました。プレイヤーとして実力に加え、周りがついていきたい人がリーダーとして選ばれるようになったのです。プレイヤーとして実力があっても、マネジメントができたり、人がついていきたいと思える人望がなければ誰もついてこないからです。

もう一つ。周りから選ばれたリーダーも全てが完璧ではありません。得意・不得意、慣れ不慣れがあります。なので、一人にマネジメント全ての責任を負わすのではなく、苦手なことが得意な人材をミックスする配置が正解です。お互い強みが違う人材を組ませることで、補完しあうだけでなく、お互いから学びあえるようになるからです。

選ばれるリーダーを可視化する2つのコツ

成果を出す実力があることは管理職選定の基準の前提ですが、ついていきたい選ばれる人かどうかの判断は意外と主観的なうわさ情報しかないので、可視化する必要があります。多面評価の基準を昇進用の項目を加えましょう。今までの多面評価は人材育成の材料にするケースが大半で、能力や行動の評価に近い内容で実施されているケースが9割です。リーダーとして周りがついていきたいかを測るには別の評価項目が必要なので、設定するコツを解説します。

 

◆リーダーとしてついていきたい側面に絞る

上司はともかく、同僚や部下は評価には慣れていません。概念的思考など、リーダーに必要な能力要件でも、同僚や部下はそれが求められるレベルにあるか判断つきませんし、発揮されている場面に一緒にいないことも多いものです。なので、パッとYes/Noと瞬時に判断できる表現にしましょう。例を出しましょう。

 

◆DoではなくDoした結果の状態を評価する

例)チーム方針を伝えている⇒その姿がチーム全体に伝わっている

本人の頭の中の状態でなく、周りにどうみえている視点で評価

例)気にしている⇒気にしているようにみえる

戦略や目標の設定にあたって、コンセプトや根拠を明確にしている⇒方針や取組みに関する説明は、それを行う理由を誰もが腹落ちするくらい具体的に分かりやすく伝えている

マネジメントやコミュニケーション、リーダーシップのスキルの発揮された姿を聞くことに加え、成長させてくれたか、これからもさせてくれそうかを、育成の場面設定を行うことで測れるようにすることがポイントですが、意外と評価項目と抜けがちなので注意が必要です。

 

いかがでしょうか。会社がリーダーに求める要件も、部下の立場からどう実現しているか、という視点で表現すると率直に評価しやすくなります。コツは、評価する場面の風景が目に浮かぶかどうかで判断すればいいでしょう。

 

◆ずばり本音を聞く評価項目にする

能力や行動面ばかりでなく、ストレートについていきたいかを多面的に聞くといいでしょう。

例)

・〇〇さんがリーダーであれば、ついていきたい

・〇〇さんがリーダーであればついていきたいと思うのは、自分だけでなく、周りもそうである

・〇〇さんと仕事をするとワクワクするし、やりがいを感じる

・〇〇さんと仕事をすると、大変でも成長できる

・〇〇さんは、メンバーの成長を最後まであきらめない

・〇〇さんは、自分の判断が間違った時は素直にゴメンと謝れる など

 

この視点で評価すれば、職場のマネジメントの実態がみえてくるのでリーダー候補だけでなく、帰任のリーダーもこの視点で定期的に多面評価するといいでしょう。

【持ち味が違うキャラでチームを編成する】

ついていきたいリーダーが選定されても、万能ではありません。リーダーを取り巻くチーム編成がキーになります。なぜなら、人は自分と同じキャラや持ち味をもった人とはツボが一緒なので、指導もラクですし親近感を覚えます。

ここに罠があります。上司だけにリーダー選抜を任せると、上司と同じキャラばかりになるリスクがあります。野球で4番打者ばかりを集めても勝てるチームにならないのと一緒ですが、仕事ではリーダーは自分の同じキャラになるよう指導や評価することがまかり通るからです。新規開拓が得意なリーダーは、新規が苦手でメンテナンスが得意な部下より、新規開拓が得意な部下を評価する傾向がでたり、同質の人材を集めたがります。自分がラクだからです。

結果、開拓ばかりで苦手な事務処理が遅れたり、ミスするようになってはチームとしては欠陥です。キャラや持ち味が違う部下をリーダーがどう育成すればいいかについて人事は教育する必要はもちろんありますが、人事しかできない打ち手があります。

それは、リーダーが得意なことと反対の持ち味を持つ人材と組ませる配置を行うことでチームの機能バランスをとるのです。リーダーを抜擢した時は、そのリーダーが苦手な面が得意なメンバーを一緒にアサインするようにしましょう。抜擢されたリーダーも完璧ではない上、不慣れなことが多いのが事実です。

リーダー候補を潰さず、はやく成長させるには、このペアリングが必須です。弱いところを補完しあうとともに、お互い苦手なことを最低限できるレベルまで学び合わせることで抜擢されたリーダーを孤立させたり、潰れることを防ぐ上、キャラが違う人をマネジメントできるようになるのでお勧めします。

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