第28回:「評価運用」の壁をぶっ壊す①-KPIより頑張りを評価してほしい本音に迫る-

人事のレガシー28「成果やプロセスも極力定量化して具体性を持たせることで納得性を上げる」
レガシーを破る視点「頑張り」を可視化し、経営が評価することで正しい行動を後押しする」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

頑張りが認められないと人は耐えられなくなる

成果もプロセスも極力定量化・具体化することに異論をはさむ人はいないでしょう。定量化・具体化した指標は、「結果指標」と「プロセス指標」に区分されます。途中段階で結果指標を振り返り、よりよい結果につなげるためのチェックポイントである「プロセス指標」の達成度をみてPDCAを回す。確かに目標を達成するために理にかなっているようにみえますが、ここに盲点があります。結果指標・プロセス指標とも、あるタイミングでみた「結果」を示すものでしかなく、本人が「努力した」「頑張った」ことは含まれません。ここを評価するのは、「行動評価」の「達成思考」等のごく少数の項目だけです。
評価全体からみると、結果がほぼすべてで頑張りはわずかです。筋論として「結果につながらない努力や頑張りは無意味」と割り切ることは簡単です。ただ、それでは人の気持ちは“やりきれない”のです。
人は機械ではなく、心を持っています。コロナ禍等、想定外の変化への対応はもちろん、チャレンジやチーム・顧客へのサポート等の努力が評価されないとなると、やらなくなります。「頑張りを認めてくれない」評価は、一瞬で社員の忠誠心や信頼感を壊します。結果、優秀な人材が辞めてしまったり、今までどおりのやり方で無難に過ごす人材を増やしてしまったり、マイナスの状態が加速されてしまうのです。

会社として認める頑張りを定義し、表彰してこたえる

個々人によって、評価してほしいポイントは異なります。上司からするとムダな努力等、評価に値しないものもあるでしょうが、本人はいたって大事に思っていることがややこしさを増します。従って、「会社や組織として評価する“頑張り”」を最初に決めてしまえばいいのです。後出しで頑張りを評価しても、「聞いてないよ!」と必ず失敗します。当然、期により、認める頑張りは変わるものです。そのオペレーションを煩雑にせず、納得感を高めるのは人事の腕ですが、コツがあるので具体的に紹介します。

<ポイント>
キーは、評価してほしい「頑張り」とは具体的にどんなことか、その「解像度」を上げていくことです。
ステップで解説します。

ステップ1.どんな頑張りを評価してほしいのか、その中身の種類を具体的に集める
人により、評価してほしい頑張りは異なります。だからといって、すべての頑張りを評価するわけにはいきません。社員がどんな頑張りを評価してほしいのか、具体的に調査してみましょう。そうすると、「お客様の満足度が高まった頑張り」「斬新で実用的なアイデアをひねり出した頑張り」「企画の中身を練り上げた頑張り」「最後まで諦めずにやり遂げた頑張り」等が挙がってきます。そのうち、声が多かったものからランキングをつけて整理し、現場長や経営陣に「今期、会社として評価する頑張り」を決めてもらい、全社で発表します。

ステップ2.評価する頑張りの中身を仕分けする
その頑張りを仕分けして評価・表彰するルールを決めます。

●表彰する
表彰は会社が正式に認め、評価することを示します。今までは会社から評価されない頑張りだと認識されていた「顧客満足度」「企画力」「アイデア力」等につき、正式に会社・組織として「評価する」と経営がメッセージを打ち出すのです。人は制度ではなく、実際に評価される方向に動きます。「お客様を大切に」と経営方針を打ち出しながら、実際には「売上トップ5」を表彰しているのであれば、社員たちは顧客対応よりも、売上数字を優先して行動します。そこで、「売上トップ5」にプラスして「ベスト企画賞」「斬新アイデア賞」「顧客満足度賞」を加え、売上以外にこれらも評価するという強いメッセージを打ち出すのです。表彰はみんなの前で実施し、「企画」「アイデア」「顧客満足」について社員同士の褒め合い、認め合いが生まれるようにします。

●普段の会話に埋め込む
1on1等で上司と部下が「ベスト企画賞」「顧客満足度賞」について話すように組み込みましょう。すると、この賞についての会話が増え、結果、部下の脳は企画や顧客満足等、会社で認められる頑張りに向いていきます。「これが大事だよ!」というポイントを上司が部下に伝え続け、会話に組み込んでいき、頑張りが認められる組織文化にしていきましょう。

●評価制度にその項目を加える・ウェイトを上げる
必要に応じ、認める頑張りを評価項目に入れましょう。「達成志向」等、既に評価項目として存在する場合は、ウェイトを高めるとインパクトが変わります。中小企業であれば、臨機応変に評価項目を追加したり、ウェイトを変化させたりすることは、やりやすいでしょう。実際、売上数値しか評価してこなかったため、管理者が部下を育成せず自ら売上確保に執着していたような企業が、管理職個人の売上達成度のウェイトをゼロにして、部下の目標達成に8割のウェイトを置き、管理職が自分の売上を部下に配分するようなごまかしが出来ないよう、多面評価を導入した結果、3年で体質が変わり、管理職は部下を育てて組織目標を達成するようになりました。当然、変更当初は、経営や人事が管理職を徹底的にサポートしましたが、そのことが経営・人事の本気度と受け止められ、意識改革と組織全体の育成力向上に結びつきました。
当然、会社が評価する頑張りは、定期的にモニタリングを行い、適宜入れ替えましょう。同じ頑張りだけだとマンネリ化したり、その方向に極端に走りすぎたりするリスクが出てくるからです。社員から、「アイデア力が認められるようになったので、次は企画の頑張りを評価してほしい」等、認めてほしい頑張りがレベルアップしていくような運営が望まれます。頑張りも、きちんと解像度を上げていくことで、今回紹介した方法以外でも、会社として認め、評価するアイデアは沢山でてくるものです。みんなが認めてほしい頑張りは、意外とその局面で現場に必要なものばかりで、そこが評価されると現場の士気も向上します。ぜひ、やってみてください。

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