第5回:研修のレガシーの壁をぶっ壊す!

こんにちは、人事と戦略のコンサルタントをしている松本利明です。PwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパルを経て独立して9年になります。担当したコンサルティングはピュアな人事制度の取り組みもありましたが、9割以上が経営やビジネスの文脈に沿ったものです。300社以上の現場で一緒に汗を書きながら改革を進めてきましたが、令和になった今でも人事のレガシーという亡霊に取りつかれたまま、思考停止している日本企業の人事によくお会いします。例を出すと、『人材の「材」は「財」。社員は財産なので大事にしている』と言うのですが、実態は、財産運用ができておらず、その運用は普通預金程度。下手すると目減りしているという組織は結構あるものです。「財」という字を用いることで安心して思考停止。この壁を破りましょう。「財」と言うなら普通預金という放置プレーではなく、アセットマネジメントのように人財を考えることで、人材育成の確度とスピードが上がるタレントマネジメントの視点が見つかる。そんなヒントを300社以上の取り組みの中からご紹介していきます。5回目は「研修」に焦点を当てます。

人事のレガシー5 「現場の社員のニーズを聞いて研修を実施する」

レガシーを破る視点 「あつ森方式で、上司・先輩もまとめて鍛え上げ、ビジネスとマネジメントのプロセスに育成のメカニズムを組み込む」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

研修を受けても現場で活用されない本質

現場のニーズを聞いて研修を企画して実践することは理にかなっています。

しかし、現場では管理職が自分の今まで通りのやり方を変えてまで研修で学んだことを実践することは稀です。これは、現場は売上など、現場の目標達成を一番に考えるためです。確実に売上をあげるのであれば、研修などで得た新しい方法を試すよりも、自分が慣れた方法のほうが感覚的にわかりやすく、楽であるため、今まで通りのやり方を変えるようなドライブが働きにくいのです。部下が会議のファシリテーションの仕方を研修で学んできて、会議の場で実践しようとすると「俺のやり方に文句があるのか」と上司の一言で活用されなくなってしまうことはよくおきる現象です。

事実、現場は忙しいのです。働き方改革など、今まで以上に生産性をあげて働くことが求められています。しかし、研修で習ったノウハウは実際に現場で活用しないと血肉になりません。新しいスキルを身に着けるためには負荷がかかるものですが、限られた時間で成果をあげるとなると、本人だけでなく上司・先輩も今までの成功パターン=慣れたやり方で頑張るという道を選んでしまうのもいたしかたないでしょう。

また、上司は売上や見込など、普段マネジメントをしている指標をもとに指導しています。そのため、その指標に直結しない研修の事後フォローは、「余計な仕事」になってしまい、報告する意味を見いだせなくなります。こうなると、適切な事後フォローが現場でなされず、せっかく研修で新しいやり方を学んでも、もとのもくあみになってしまうのが実情です。

つまり、研修が現場で活かされないという問題は、上司がさらにその上司に報告するマネジメント指標と、研修の事後フォローが直結しておらず、上司が自分のやり方を変えてまで事後フォローをする意味や価値を見いだせていないことが原因なのです。

成果につなげながら「みんな」で強くなる

実際にできるようになるまで指導を行う技術研修など、今まで通りの上司、先輩の仕事の仕方やマネジメントのやり方に沿っていて、かつ、すぐに結果につながるような内容の研修であれば、現場でもその成果が出やすいでしょう。ただ多くの場合、人事にリクエストされる研修は、部下指導、コミュニケーション、リーダーシップといった「人や組織を動かす」テーマが多いものです。実はこの研修テーマは上司や先輩も苦手としているテーマなのです。部下は上司や先輩の合わせ鏡です。「なぜ指導した通りに部下や後輩が動かないのだ」という上司や先輩の悩みの裏返しとして、「自立的にPDCAを回せるようにして欲しい」というニーズが出てくるのです。

逆にいうと上司、先輩の仕事の仕方やマネジメントがうまくいっていれば、部下も同じようにできるように育ちます。

上司、先輩が部下を指導する際に、「上から教育すればいい」という定説には罠があります

上司、先輩から教育してもらった数時間や、1~2日程度の研修ではヒントしか掴めません。苦手なものは簡単に身につかないのです。上記に示したとおり、ヒントを得ても、現場は忙しく、結果を出さなくてはいけないとなると、結局今まで通りのやり方に流れてしまうのです。

ではどうすればいいか。「上から下へ」ではなく、上司、先輩、部下を同時に鍛えて強くしていくメカニズムを、現場のマネジメントの中に組み込めばいいのです。小さくても成果を出しながら進めていくことで、「このノウハウを活用したほうが、今までのやり方より良いのかも」という空気が生まれ、自然な流れでスキルアップにつながってくようになります。

現場のビジネスやマネジメントのプロセスに人材育成を組み込んでしまうこと。上司がそのプロセス通りに指導する意味や価値を見出すようになれば、研修などの人材育成施策は機能します。人材育成施策に現場が価値を見出すには、個別に任せるのではなく、やらざるを得ないような仕組みを作ってしまえばいいのです

社内SNSを活用するだけで研修効果が倍増する

上司、先輩、部下を同時に鍛えながら現場で成果を出していくといった、夢のようなことができるのでしょうか?できます。具体的な例を出すと社内だけに閉じたSNS(ソーシャルネットワーク)等のツールを活用し、現場のマネジメントに楽しく活用してもらう方法があります。

SNSを活用した指導改革のアプローチは以下の通りです。

 研修参加者と、先輩・上司・経営陣・人事で社内SNS内にグループをつくります。グループ内では誰でも発言&閲覧できるようにします。ただし社外やグループ以外のメンバーからは一切見えないようにします。

 研修実施後、研修参加者が、2週間に1回、行動計画の振り返りと行動計画の見直しを行い、その内容をSNSにアップします。アップした研修参加者の上司は必須、先輩は任意で、その振り返りと行動計画の見直しの内容に対し、アドバイスをします。また、経営陣や人事など、研修参加者の先輩や上司でなくてもコメントできるようにします。

 

このように、現場でのフォロー状況を社内SNSでシェアし、関係者全員がオープンに見られるようにするのです。この取り組みを実施すると、指導がうまい先輩や上司が可視化されるので、

●指導力が低い先輩、上司にプレッシャーがかかり、指導力を上げる動機が生まれます。

●うまい指導方法や行動計画、成功・失敗例が可視化され関係者全員が学べます。

●組織が世界や日本各地に散らばっていても、社内SNSのグループに集まるので一体感が生まれます。サボれなくなります。

●自分以外の先輩、上司の振り返りや指導からも学ぶチャンスができます。

●研修参加者間だけでなく、先輩、上司の指導力も引き上げられます。

●綺麗ごとではなく、現場での泥臭い悩みや失敗、成功事例といったナレッジが自然とデーターベース化していきます。

●本当に指導力も人望もある人は誰かがわかるようになります。

自身の部下をどれだけ成長させられたか、具体的で役に立つアドバイスはができているか、心を打つコメントを書けたか、成功事例をどれだけ出せるか等、ゲーム的な要素があることで、現場も研修の事後フォローに積極的になります。そして、3か月もすると、部下を成長させながら結果を出そう、という文化に大きく変わっていきます。

取り組みを長続きさせ、定着させるコツは

●参加せざるを得ないようにする

●ただし現場の負荷は最低限にする

●仕事上のメリットとゲームのような楽しさを生み出す

です。

SNSだから全国、どこでも、いつでも繋がれる

研修後の行動計画は、目標管理に記載するようなたくさんの行動計画を立てるのではなく、文字数にして300字程度までとし、課題もアクションも、具体的に一つに絞ることが要諦です。

水泳平泳ぎの北島康介選手の監督は同時にたくさんの修正点を指摘せず、1つだけ提示し、クリアしたらまた一つ指摘・・・ということを繰り返したそうです。人は、同時にたくさんのことを意識できないので、一つずつキーとなる点から修正していく方が、結果的に成長が早いのです。

現場は多忙なので、一つに絞ることで、負担感をなくすことにもつながります。

またSNS等の仕様では、1つの項目に書ける文字数は限られ、150~500字程度となる場合が多いです。最小限の言葉で行動を変えるアドバイスをしなければならず、指導は簡潔で具体的なものにする必要があります。「企画をつくる前に情報収集を心がけよう」では具体的ではありません。「この本のAというやり方が向いているからやってごらん」「この件は社内ではBさんが詳しいから一度話を聞かせてもらったら」等、固有名詞つきで具体的な指導あれば、誰でも再現しやすくなります。

SNSなので「誰かAという方法をやったことある人はいますか?」と聞いて直属の上司、先輩以外からも気軽にアドバイスを受けられます。「その方法Aを実践した時どうだったか」といった生の声を、横、斜めからももらうことができ、成功したらそれこそ「おめでとう!」と数多くの人から「いいね」やコメントをもらうこともできるので、社内の風通しもよくなります。

言わば、任天堂Switchの「あつまれ、どうぶつの森(通称あつ森)」のような感覚です。全国に拠点があっても、あつ森のように、一つのソフトの中の世界にみんなで入り込んで、お互い鍛えあい、刺激しあい、成功や失敗を共有しながら「みんな」で強くなれるのです。

今は、コロナ禍でリモート環境も多いでしょう。上司・部下が対面で直接OJTする機会も激減しています。集合研修のコンテンツをeラーニング化したものを一方的に受講したりするだけでは、お勉強の一環にしか過ぎずません。このような「できるようになるまでの指導」ができないというジレンマも、あつ森方式で行えば解決します。インタラクティブなゲームのように、自分のチーム(ギルド)をまとめ上げたり、情報交換をしあったり、うまくいくノウハウを共有したりする仕組みをリモート環境でも作り上げるということです。

それも遊びではなく、リアルなビジネスやマネジメントを行いながら、そのプロセスの中にラーニングを入れ込むことになるので、ある現場で役立ったことが、すぐ全国共有され、実際の成果も全国各地で再現されて全社の業績があがります。ノウハウもブラッシュアップされ、その内容が瞬時に広がり、高めあえます。リモート環境の疎外感をなくしながら、逆に一体感を生むことになるので一石三鳥も四鳥も狙うことができ、コストもかからない方法なのでお勧めします。

社内SNS以外でも実施は可能

SNSがなくても、実施は可能です。今はUMUやYeLL等のラーニングツールがあるので活用するのもありですが、「全員参加せざるを得なくする」「いい意味で競争しあいゲームのような楽しさを味わう」「現場ですぐ活用できるノウハウを共有し、現場でメリットを感じられるようにする」といったことが出来れば機能します。

あるアパレル企業では年に2回、各店舗の代表者が違う店に行き、棚の一つのレイアウトを変え、変更前後でどれだけ売り上げが変わったかを競いあいます。その結果は全社で発表。一番業績改善に繋がったチームには表彰とちょっとしたインセンティブを出しました。成功要因や失敗要因は全社で共有して、どの店でもすぐ取り入れられるようにしました。インセンティブより、「店を代表して負けたくない」という、いい意味のライバル関係が生まれ、社員それぞれが独自に研究するようになり、業績向上と人材育成の両方が成功しました。ぜひこういった、現場のマネジメントにゲーム性を取り入れる取り組みを試してみてください。

 

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