第14回:目標設定(SMART)のレガシーの壁をぶっ壊す!

令和になった今でも「人事のレガシー」という亡霊に取りつかれたまま、思考停止している日本企業の人事によくお会いします。第14回目は「目標設定(SMART)」に焦点を当てます。

◆人事のレガシー14:「目標設定はSMARTに行う」

◆レガシーを破る視点:「目標達成することが『どれだけ凄いことか』を部下に考えさせる」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

SMARTな目標は評価結果が悪かった時の納得材料

確かに、目標をSMART<S:Specific特定、具体化)M:Measurable(測定可能であること)A:Achievable(達成可能であること)R:Related(最終目標に関連した目標であること)T:Time-bound(期限が設定されているか)>にすると、明確にはなります。

「夏までに痩せる」よりも「夏までにウエストをマイナス5cm」の方が目標はハッキリしますが、だからと言ってモチベーションが上がって継続するとは限りません。目標設定の導入ははるか昔であり、今ではルーティンの一つです。毎朝のモーニングルーティンでモチベーションがあがり、継続することはないのと一緒です。目標設定はそれくらい日常化しています。

期中も同様です。「食べたいけど痩せたい」のように、現実のビジネスでも目標は達成したいけど「うっかり食べちゃった・・」のような事態が起きて挫折し、モチベーションも低くなることも日常です。目標が明確になったところで、多少マシになった程度。これだけでは、オフィス勤務、在宅勤務者のモチベーションを上げ続けるには足りないものがあるのです。

目標をSMARTにする一番のメリットは、部下の自己評価より上司や人事の最終評価が低かった時の保険です。SMARTで具体的な達成基準になるので、評価結果が後出しじゃんけんにならないからです。リモート環境で部下の働きぶりが見えない環境こそ、目標設定を通してたモチベーションの維持・向上と評価の納得性の両方が求められるので一工夫必要になるのです。

ある一言で、目標達成の意義を部下が勝手に見つけてくれる

目標をSMARTで立てると同時、部下に「その目標の達成はどれだけ凄いことなの?」と聞き、部下自身に考えさせて自分の言葉で語らせましょう。「どれだけ凄いことなのか?」を部下に考えさせることで、部下は目標達成に取り組む意義や意味を自ら発見していくのです。

ドラッカーの3人の石工の話はご存じでしょうか。旅人がある町に訪れた時、石工が3名いて何かを建設していた。旅人が石工に何をしているか聞いたところ、一人目は「暮らしを立てている」(労働に見合う金を稼いでいる)。二人目は「石切の最高の仕事をしている」(職人として技術を磨いて提供している)。三人目は「教会を立てている」(村人に憩いと集いの場所をつくっている)」。この三人目のように仕事や目標を捉えることができたらモチベーションが持続します。そして、これは実は簡単にできるのなのです。

 

◆目標達成できたら、それがどんなんに凄いことなのかを考える

3番目の石工のように、自分の仕事に取り込む意味を見つけるには「目標と達成することがどれだけ凄いことなのか?を問えば、見つかるのです。

・世の中やマーケットにどう影響を与えるものなのか?

・事業や部門にどんなインパクトを与えるものなのか?

・周りの認知がどれだけ変わるくらい凄いことなのか?

などを聞いてみるといいでしょう。

部下の視野が狭く浅く、中々ピンとくる意味を見つけられない時は、上司が「教会をつくっている」ようにわかりやすいビジョンやミッションを教えてあげるといいでしょう。コツは、SMARTにこだわりすぎないことです。「巨人の星になれ!」のように聞いたら部下が「パッとイメージが沸く」レベルの粗さの方が心に刺さります。「巨人の星という定義・・具体的な要件は・・」等、最初に具体的に伝えすぎるとしらけてしまいます。「巨人の星になれ!」「父ちゃんやるよ!」で意味や意義を見出し、達成された姿や具体的な計画は、握った後でSMARTに具体的な計画と行動に落とし込めばいいのです。

「目標を達成する意義は?意味は?」など、硬い言葉で問いかけると、部下は「あるべき理想像」を頭の中でこねくり回して、上司が考える答えを想像します。結果、自分事でなくなるので魂がこもらない作文になるのです。もしくは、部下は意味や意義がよくわからなくて思考停止します。問いが大きいので部下がイメージできないからです。「凄いこと」という言葉は部下自信の基準から発想する言葉なので、自分事としてイメージしやすいのです。

 

◆キャッチコピーをつくる

目標達成に向けた取り組みにキャッチコピーをつけるのも効果的です。「1年後に1億円を達成する男」など、周りも本人も一発で覚えられ、部下本人がやる気がでるものがいいでしょう。基本は「キリのいい数字+単語ひとこと」ぐらいをベースに考えればいいでしょう。

「983万円」より「1000万円」の方がスッと頭に入るし、区切りがいい方がわかりやすいからです。最近は「メルカリ」「ラクスル」等、カタカナ4文字の会社名やサービス名も多いです。リズムがよくて、口馴染み、耳馴染みもいいので、これくらいの長さを参考にするといいでしょう。実は外資系コンサルでは、クライアント名は守秘義務の関係で口外できないこともあり、「プロジェクト RINGS」等、ネーミングして呼び合います。アルファベット一文字や取り組み内容をもじったり、キーマンのイニシャルを並び替える等、ちょっと言葉遊びでもありますが、わかりやすく、モチベがあがるネーミングにします。

目標も単年度では達成できない、大きな取り組みだったら、もっと大きな切り口でもいいです。「国民的美少女」とか、元気印の新人なら「神様デビューをありがとう!」のようなラベルのようなミッションのようなキャッチコピーでも構いません。SMARTに目標設定するのは入口に過ぎません。オフィス勤務でも在宅勤務でも「どうすごいか?」「キャッチコピー」をセットにすることで、目標や仕事にやる意義や意味を見出し、自らモチベーション高く仕事を取り組めるようにしてみましょう。

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