第18回:チームマネジメント①「人間関係の溝埋め」の壁をぶっ壊す

令和になった今でも「人事のレガシー」という亡霊に取りつかれたまま、思考停止している日本企業の人事によくお会いします。
第18回目はチームマネジメント①「人間関係の溝埋め」に焦点を当てます。
◆人事のレガシー18:「一人ひとりの状況に気を配る」
◆レガシーを破る視点:「関係者一人ひとりに、知っていること/結果と感情を共有したことを書き出し、人間関係の濃淡を可視化し、埋める」

松本 利明
HRストラテジー 代表
外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。
職場の人間関係は「相性」があるのが前提
チームをマネジメントするとなると、綺麗ごと抜きで、上司と部下はもちろん、メンバー間の相性はあるでしょう。しかも、在宅勤務とオフィス勤務が混在することで、余計、まとめあげるのが難しくなってきています。現場をみると、上司は無意識的に関係が近いメンバーに多くの仕事やチャンスを与え、そうでないメンバーとの心理的な距離感は遠くなり、一枚岩になるどころか、どんどんバラバラになってきています。リモート環境も1on1でコミュニケーションの頻度を上げるように指導しても、溝は埋めきれないのが実態ではないでしょうか。
しかし、組織で働く限り、わがままは通りません。自立した大人として、一緒に働く仲間といい関係を築く必要性を感じない人はいませんが、綺麗ごと抜きで、誰でも相性はあります。在宅勤務など、一か所に集まる機会が減ると、その傾向が顕著に出るだけです。理屈では人は接触機会が増えると親近感が沸くと言われますが、相性が悪い同志に関してはそのままコミュニケーションの頻度を高めると逆効果になることも多いので、アプローチの工夫が必要なのです。
相性よりも知っている事の総量が人間関係を決める
接触機会を増やす前に、お互いがどれだけのことを知っているか、可視化することから始めましょう。人は、自分が見たいフィルターを通して判断するので、苦手な人は、苦手と感じることしか知らない可能性が高いのです。陰と陽、太陽と月ではないですが、人は誰もが長所も短所も持っています。苦手な相手の長所を含め、相手の事をたくさん知ることです。知っている情報が増えれば、長所・短所含め、どんなキャラなのかを客観視できるようになります。ワンピースのルフィーさんも主人公だけどダメなところもあることと一緒です。相手に対して全人格的に100%同意や好感がないとダメではなく、キャラなのである程度は仕方ないと割り切れるようになれば歩み寄る道も見えてきます。
人間関係マップに書き出すことで溝が可視化する
人間関係を客観視するには書き出すのが一番です。「人間関係マップ」(図)に沿って書き出してみるといいでしょう。
ステップは次のように進めます。
1)知っていること:上司、先輩、メンバー一人一人に関して知っていることを書き出します。仕事に関することだけでなくて結構です。血液型、出身地、好きな食べ物、なんでもいいでのとにかく知っていることを書き出しましょう。
2)感情を共有したこと:期間を決め、その期間中に書き上げた人、一人一人に最近褒めたこと/褒められたこと、嬉しいと感じた経験、悔しいと感じた経験など、その人と一緒にいて感情が動いたことを書き出します。これも仕事に関することだけでなくて大丈夫です。感情が動いたことはよほどインパクトがあること以外は忘れやすいので、期間は3か月か長くても半年程度を目安にすると、思い出したり書き出したりしやすいです。
ここまで書き上げてみたら、いかがでしょうか。人により、知っていること/知らないこと、感情の共有があった/無かったの差が歴然と出てきているでしょう。苦手な人は苦手と感じたことしか出てこなく、いい意味で感情が動いた経験も少ないものです。苦手な人は心理的に遠ざけてしまう傾向があるので、好きな食べ物を含め、全然出てこなかったりします。
ここに沢山の情報を書き出せた人は仕事やお願い事がしやすい関係であることが多いです。要は、相手に対して情報を沢山持っている方が、こちらの引き出しが増えるからです。
3)率直に伝えたいこと・確認したいこと:一人一人に率直に言いたいこと、確認したいことを書き出す。
次に、上記1)2)を踏まえ、相手に向けて率直に伝えたいことや確認したいことを書き出しましょう。キーは相手との関係を壊すのではなく、相手を理解する視点で書くことです。「なんでいつも・・・というのですか?」等、ネガティブなものでも構いません。相手は無意識かもしれませんし、相手がネガティブに感じていることに気づいてさえいない、悪気がない誤解の可能性もあります。いずれにしても、書き上げることで感情を交換しあう一歩になります。チームでメンバーがそれぞれ全員分書き上げ、交換してみることをお勧めします。メンバー個々の信頼関係の温度差を知り、埋めることは上司の責務ですし、メンバーもお互い相性がいい、よく知り合っていると思っていても捉え方が違うことも結構あります。自分の行動が意外なインパクトを与えていたことに気づくかもしれません。
この方法は組織開発で古くから行われているものですが、短時間でできますし、リモート環境でも実施できるので、お勧めします。
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