第23回:「働き方改革」の壁をぶっ壊す②

人事のレガシー23:「成功例をつくり、他部署にそのやり方を展開する」
レガシーを破る視点「成功例を宣伝し、“乗った者勝ち”という空気をつくる」

■成功例を展開することは、骨が折れる割に結果が出ない

働き方改革は、最初の第一歩が大事。経営や人事からの押し付けではなく、その成功した方法を広める目的で各部署からメンバーを募り、プロジェクト化して組織横断的に広められる体制を組む「巻き込み」がセオリーと言われてきました。合わせて、小さくても成功例をつくり、展開する。例えば、手始めに管理部門で残業時間を改善して結果を出し、それを展開しようと考える気持ちはよく理解できます。

実際にはどうでしょう。現場からは、「管理部門の残業が減ったかわりに、こちらの残業が増えた。融通が利かなくなっただけじゃないか」「現場と管理部門はそもそも仕事が違うので、そのやり方は全く参考にならない」など、反対意見が山のように出る。巻き込むことで各部署から指摘を貰えることはいいのですが、あちらを立てると、こちらが立たず。結果、最大公約数な緩いプランにしかならず、成果には繋がらなかった。そもそも、現場は成果を出すことに精一杯で、新しい取り組みに費やす時間と心の余裕はありません。第一、合意形成を得るには、労力だけではなく時間もかかります。

■そもそも現場は忙しく余裕がない上、どの部署にも通ずる魔法はない

このアプローチには2つの誤りがあります。1つ目は、全社を巻き込んで合意形成を得てから進めようとすることです。

これが成り立つのは、以下の場合です。

①変革を成功させるまで時間的余裕がかなりある

②右肩上がりでビジネスが成長し、改善策を現場で考える余裕がある

昭和の高度成長期には通用したでしょうが、時代は変わりました。現在ではそんなにのんびりできる職場はもうありません。複雑化し、仕事量も増え、競争が激しくなるなかで、業績を落とさないように必死に忙しく働いているのが今の現場です。ゆえに人事が「現場でキーになる人材をアサインしてほしい」と依頼しても、現場はNoです。優秀な人材は、その部署のキーとなる仕事に集中してもらわざるを得ないからです。そこで、推進役を任じられるのはメインから外れた人になりがちです。「〜代理」「副~」という役職があれば人事も文句は言えません。しかし、各現場は組織の長やキーの仕事を担う人たちが動かしているので、「〜代理」が他部門の成功例を伝えようとしても相手にされないのです。

誤りの2つ目は、部署による仕事内容の違いを軽視していることです。その部署独特の仕事はあっても、書類作成など、どの部署にも共通する仕事は存在する、と人事は考えるでしょう。残念ながら、営業、人事、製造など部署が違えば専門性・仕事内容も全く違う、と各部署の皆さんはそれぞれで判断します。共通部分があるといっても、使い慣れた書式や業務プロセスの変更は受け付けません。誇りを持ち真面目に仕事をしている組織ほど、この傾向が強く出ます。「うちは特殊だから」という回答は象徴的です。

 この2つの誤りに加え、「理屈屋の田中管理部長と、現場たたき上げの鈴木製造部長は仲が悪く、田中管理部長の成功事例を鈴木製造部長が素直に取り入れるはずがない」といった社内政治が絡んでくるとねじれは更に激しくなります。

 

■巻き込むより、乗った者勝ちでリードするのが今日的

では、どうすればいいのか。昭和時代のアプローチは忘れましょう。社会的使命を終えたゾンビです。結果が出る前に、全社を巻き込んで合意形成を得ようとしても、総論賛成・各論反対にしかなりません。抵抗する現場はいったん、ほったらかしで構いません。説得に時間と労力をかけるのではなく、小さな成功例でも構わないので、まず1つ、人事がバックアップして成功させましょう。そしてこの成功例を人事が社内外に宣伝し、 3つ以上の成功例が出てくるとガラリと社内の空気感は変わります。

「この取り組みの流れに我々の部署も乗らないとマズイ!」となれば、当初は抵抗していた部署も何事もなかったかのように手のひらを返してきます。

今からの時代は、この「乗った者勝ちアプローチ」が効くのです。

■ポイント

「乗った者勝ちアプローチ」のポイントは2つあります。

1つ目は、人事の労力の配分です。協力してくれる部署や人に、全社均等に使っていた労力をピンポイントで注ぐのです。

2つ目は、人事からの押し付けではなく、「すごい!」と成功例をただ褒めまくることです。成功の芽が出ると、人事は他の部署にも同様に展開するようにと「通達」や「命令」を出したがりますが、それはご法度と思ったほうがいいでしょう。「今、勉強しようと思っていたのに『勉強しろ』と言われて、もうやる気がなくなった」という心理と一緒です。成功例を褒めまくり、他部署から「それ面白そう、教えて」と飛びついてくるように演出するのです。

育休明けの時短勤務者の配属ニーズを高め、全社の残業時間を減らしたS社の例でコツを解説します。

1)びっくりするくらい人事が協力する

 S社はIT企業。社員は若く、残業も厭わず、会社と人が好きでたまらないという男女の人材が溢れています。ゆえに、時短勤務者は残業できない自分を責め、モチベーションを下げていました。周りも「あの人、時短だからしょうがない、協力するしかないよね」と距離を置いた視線や態度で、よけいに時短勤務者の肩身を狭くしていました。ある頃から、この視線と自責に耐えられず優秀な女性社員の退職が相次ぎました。ここまでは他の会社でもよくある話です。

 そこで、人事は「時短勤務でも残業していた頃と同じパフォーマンスが出せる」ことを証明し、その事例を組織全体に広めようと考えました。そこである1人の時短勤務者に着目し、とにかくできる限りのサポートをしました。時短勤務者のノートPCを常に最新のハイスペックマシンに買い替えるなど、傍からはえこひいきに映ったかもしれませんが、当初掲げた大義名分を押し通し、実際に、残業していた頃と同じかそれ以上のパフォーマンスを時短勤務内で出せるようにしました。

2)人事が歩く広報になる

 次に人事はあらゆる機会を捉えて「○○さんはスゴイ!」と褒めまくりました。社員食堂で他部署の方々とランチをしているときも褒めまくる。社内外で「うちにはこんなスゴイ社員がいる」と褒めまくる。他社の関係者が集まる業界団体の会合でも褒めまくる。社長や役員がやっているブログでも「我が社にはこんなスゴイ社員がいる」と褒めまくる。メディアが取材に来ると、本来のテーマで話をした後「実はうちには……」と褒めまくる。その本人もメディア取材に積極的に露出する。そうすると、社内に賛同者が出てきます。そこで、賛同者の中から1人ずつピンポイントで、人事が全面的にバックアップし、新たな成功事例を生み出します。そして、人事が褒めまくるのです。こうしてS社では成功者が3名出た時点で「時短勤務者は残業する社員と同じパフォーマンスを出せるので、ぜひ、うちの部署に来てほしい」という声が続出し、空気が変わりました。

コツは、人事が通達や命令で徹底を図ったのではなく、成功事例を褒めまくったこと。トムソーヤーが楽しそうなふりをして壁にペンキを塗っていると、友達が「楽しそうだからオレにもやらせて」と言ってきた、あのアプローチと同様です。S社も時短勤務者へのバックアップを人事と一緒にすれば、生産性が上がると信じているので、実際に次々に成功者が続出したそうです。一方的に通達や命令を渡され疑心暗鬼の状態だったら、「ほら見たことか、やっぱり駄目だ」という空気に傾きがちですが、できると信じているので「どうバックアップすればいいだろう?」と現場も時短勤務者もともに考えるようになるので、成功するのです。「手が空くのでどんどん仕事を振ってください」と積極的に働きかける時短勤務者も続出し、お互い腫れ物に触わるようだった関係・距離感はみるみるポジティブな関係に変わったのです。

 

3)仕組み化し、追い打ちをかける

成功者が出てきたら、その仕事ぶりを完全コピーできるように人事はノウハウを仕組み化します。

S社では、朝から定時までの時間割を日・週・月単位で作成。重視するポイントや短縮のコツ、周りと関わるときの一声など、誰でも今からすぐにできるレベルまで可視化したそうです。

子どもが熱を出したなど、緊急事態にも仕事を止めずに済む方法など、事例をもとにパターン分けし、先人の知恵を新たな時短勤務者が引き継げるようにしました。育休明けが近づくと、「私も残業していた頃と同じパフォーマンスを挙げなくては」と復職に対する意気込みも変化したそうです。S社は、希望者が育休中にこの先人のノウハウを学べるようにしていました。

次に人事が行うのは、時短勤務者を取り巻く方々への対策です。「時短勤務者がこれだけパフォーマンスを出せるのに、残業してこの程度だとおかしくないか?」という素朴な疑問が自分たちから出るように問いかけたそうです。人事から「残業を減らせ、パフォーマンスを高めろ」と働きかけると説教や命令になり、自発感はなくなります。従って、あくまでも「問いかけ」に留め、自ら気づくように、辛抱強く繰り返したそうです。結果、1年後には全社の残業が3割削減し、業績は倍増しました。

このステップは一見大変なようですが、実は全社の合意形成をとって調整しながら進めるより、時間は短く速い結果につながります。ぜひ「乗った者勝ちアプローチ」に挑戦してください。

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