日本企業組織へのコロナ影響調査報告&議論 〜レジリエンスが鍵となる〜

【ゲスト】
服部 泰宏 氏(神戸大学大学院 経営学研究科 准教授)
中川 功一 氏(大阪大学大学院 経済学研究科 准教授)
佐々木 将人 氏(一橋大学大学院 経営管理研究科 准教授)
原 泰史 氏(一橋大学大学院 経済学研究科 帝国データバンク企業・経済高度実証研究センター 特任講師)

【ファシリテーター】
寺澤 康介(ProFuture株式会社 代表取締役社長/HR総研 所長)


HR総研では、2020年4月、組織学会に属する18名の経営・経済学者と共同で「新型コロナウイルス感染症への組織対応に関する緊急調査」を実施。その結果報告を行うべく、6月26日(金)、ライブ配信セミナーを開催した。当面続くと考えられる「Withコロナ」の時代に、企業は環境変化への柔軟な対応力を求められており、調査で浮かび上がったのが「レジリエンス」というキーワードである。調査の分析を行った若手経営学者4名をゲストに迎え、コロナ禍が日本企業に与えた影響を検証するとともに、「レジリエンスの重要性とは」「人事は今、何をすべきか」を議論した本セミナーの模様を紹介する。

服部 泰宏

神戸大学大学院 経営学研究科 准教授

神奈川県生まれ。国立大学法人滋賀大学専任講師、同准教授、国立大学法人横浜国立大学准教授を経て、2018年4月より現職。日本企業における組織と個人の関わりあいや、ビジネスパーソンの学びと知識の普及に関する研究、人材の採用や評価、育成に関する研究に従事。2010年に第26回組織学会高宮賞、 2014年に人材育成学会論文賞などを受賞。

中川 功一

大阪大学大学院 経済学研究科 准教授

大阪大学を拠点にしつつ、HRサミット、BOND-BBT MBA、生産性本部、起業塾チャレンジャーズなどで広く志ある皆さんにイノベーションの必要性と技法を伝えて回っています! 2008年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。主な業績:Innovation in VUCA world (2017 Academy of Business and Emerging Markets, Best Paper Award). 変革に挑戦する人に贈る研究書『戦略硬直化のスパイラル』(有斐閣)、現代向けにアップデートされた新しい経営学の入門書『ど素人でもわかる経営学』(翔泳社)発売中!

佐々木 将人

一橋大学大学院 経営管理研究科 准教授

2008年に一橋大学大学院商学研究科博士後期課程を単位修得退学し、武蔵野大学政治経済学部講師を経て、2012年より現職にある。研究上の主たる関心は、組織内の組織メンバー間の意識の分化とその統合のメカニズムにある。具体的には、日本企業を対象とした組織行動やマーケティング活動についての質問票調査データを用いた定量的研究を中心に研究をおこなっている。

原 泰史

一橋大学大学院 経済学研究科 帝国データバンク企業・経済高度実証研究センター 特任講師

2019年4月より現職。イノベーションプロセスの多変量データを用いた分析が主な研究テーマ。日米企業の長期間データに基づくパフォーマンス比較分析や、ライフサイエンス分野について特許・論文データベースおよび公的資金情報を用いた定量的な分析を行っている。

対応が進んでいる企業、そうでない企業の二極化が見られた

寺澤 私たち、HR総研では、もともと、組織学会の有志の学者の方々と一緒に、日本企業の組織調査を網羅的に行う計画を進めていましたが、その中で今回のコロナ禍の状況となりました。そこで、急きょプロジェクトを立ち上げ、まさにコロナ禍がどのように組織に影響を与え、どのような組織がそれに対応できているのかを調査しました(2020年4月実施、回答数314社)。その結果は3回にわたってレポートとして発表しています。今日は、代表として4人の先生方にご参加いただいていますので、まず、今回の調査でわかったコロナ禍の産業と働き方への影響について、調査プロジェクトのリーダーである一橋大学の原泰史先生と、副リーダーである大阪大学の中川功一先生にご説明いただきたいと思います。

中川 今回の調査結果からわかったことで、最初に私たちが強調したいのは、コロナ禍の影響は特定産業にだけ出ているわけではないということです。調査の結果、3分の2の企業で事業に負の影響が出ていました。また、多くの企業が影響は中長期化すると予測しています。そして、全般的に影響がある中でも、事業停止、事業縮小というような大きなダメージを受けているのは、宿泊、飲食、娯楽、製造などの産業です。報道されている通りの結果ですが、改めてその実態が調査から見えてきています。

これに対する日本企業の対応ですが、「従業員の一部または全員に対して、雇用契約の中断を行った」と回答した企業は314社のうち3社、わずか1%という状況でした。6月ごろになってレイオフや雇い止めの話が少し出てきましたが、調査を行った2020年4月の時点では、日本企業の多くが雇用を守ろうとしていたわけです。「従業員の一部または全員に対して、雇用条件の変更を行った」と回答した企業もきわめて少なく、可能な限り雇用条件を維持しながら、在宅勤務やテレワークを導入し、働き方の変更で対応しようとしていたのが実態です。「従業員の一部または全員に対して、在宅勤務/テレワークを開始した」との回答は84%に上りました。一方、現場では、従業員のコミュニケーションが難しくなり、メンタルケアの問題が起きている状況が明らかになっています。

 調査結果から皆さんにメッセージとしてお伝えしたいことは2つあります。まず、政策面では、テレワークの推進、ヘルス・メンタルケアの支援、業態変更の支援といった「改革の後押し」が大切であるということです。次に、企業経営の面では、業務活動への影響緩和に対して、平素からの組織の対応能力「レジリエンス」があったかどうかということが効いていました。コロナ禍の影響は長期化することを見越して、変革への試行錯誤を開始すべきだと考えます。トップの判断能力、ミドルの改革能力、現場の適応能力といった各層での状況への適応力を高め、変革を可能にする権限委譲、チャレンジの奨励を行うなど、現状を的確に認識して組織を変えていくあり方が重要になると思います。

寺澤 ありがとうございます。調査を行って感じたこと、予想外だったことなどがあれば、両先生にお聞かせいただきたいのですが。

 「Slack」や「Teams」などのコミュニケーションツールやテレワークの導入度合いについては、それらの導入が完全にできていて、業務の意思決定なども全てオンラインでできるようになった企業と、そういうことはやはり膝をつき合わせてやりたいというような企業との二極化が明確に進んでいました。予想はしていましたが、それ以上の結果でした。そこは興味深かったですね。

中川 私は、思ったよりも日本企業がしなやかだったことが予想外でした。4月の時点でこれほどスムーズにこの状況に対応できたのだなと。ただ、一方では、なかなか会社の中で変わらないものは変わらなかったりもしますので、しなやかさと硬直性が同居していることが印象的でした。

レジリエンスが高い組織はテレワークなどの各種対応も早かった

寺澤 では、続いて、今も言葉が出たテレワークとレジリエンスに関して、調査からわかった企業の実態を、神戸大学の服部泰宏先生と一橋大学の佐々木将人先生にご説明いただきたいと思います。

服部 今、中川先生がおっしゃったように、日本企業が全体としてコロナ禍の状況にうまく対応しようとしているという大きな図がある一方で、個別に見れば、いろいろできている企業と、あまりできていない企業の両方があるのが実態です。私たちが調べたところ、テレワーク導入には明らかに企業間の差が見られました。テレワーク導入が進んでいるのは、規模別に見れば従業員規模の大きな企業、業種別に見れば情報通信業などの企業です。在宅勤務導入にあたっての金銭的補助についても、情報通信業は3割以上と、製造業などと比べて実施している割合が高くなっていました。また、私たちは、テレワークを含めたさまざまな企業対応には何らかの相関関係があるのではないかと考え、調べてみました。その結果、テレワークを早く導入している企業は、導入時期が早ければ早いほど、リーダーが明確な情報の発信をしており、コロナ対策の専門組織を早い時期に設置しており、レジリエンスの能力も高いという相関関係が明らかになったのです。一つのコロナ対策を取っている企業は、そのほかの対応もいろいろやっているということです。この結果から、コロナ禍の状況への対応力の根幹にはレジリエンスという能力がありそうだとわかってきました。

佐々木 レジリエンスとは、不測の事態や危機に直面した際に、組織がそこから迅速に復旧できる能力のことです。今回の調査では、企業に対して「平時から多様な解決策が生み出されているか」、「平時から非常に素早い対応策が取れているか」、「平時から社員一丸となって変化する状況に対応することができているか」を質問し、この3項目を合わせてレジリエンスと呼んでいますが、レジリエンスの高い組織では、リモートワークへの対応、リスク管理室やテレワーク支援室、子育て支援室の設置といった各種施策をコロナ禍の状況になる前から実施していた割合が高い傾向がありました。問題が起きる前から組織対策が取られていたということです。また、レジリエンスの高い組織は、テレワークの導入に伴うコミュニケーション・トラブルの増加が緩和されており、早期に導入した企業ほど、その傾向は顕著でした。レジリエンスが高い組織では、新しい制度を導入してもうまく活用できる一方、そうでない組織ではうまく活用できず、コミュニケーション障害が起きているということです。同様の傾向は、ほかの組織施策の導入についても見られました。さらに、レジリエンスが高い企業の傾向として、ヒト・モノ・カネ・情報という経営資源が充足しているとともに、トップがコロナ対応の自社方針を社員に対して直接発信しており、ICTツールを利用したコミュニケーションも頻繁に行っていることがわかっています。従って、レジリエンスを高めるためには、経営資源の充足度と社内のコミュニケーション構造がポイントになると考えられます。

有事への対応力の差を分けるレジリエンスの能力

寺澤 ありがとうございます。コロナ禍に直面して同じような対応をしても、うまくいく企業とそうでない企業が出てくる。その差を分けるのがレジリエンスだということですね。このようにレジリエンスというキーワードが浮かび上がってきたことについて、両先生はどのようにお考えですか。

服部 私はもともと心理学に近い分野で研究を行っていますが、心理学の世界では、例えば、東日本大震災の際にレジリエンスというキーワードが重要になっていました。レジリエンスが従前から高かった人が困難な状況をサバイブし、新しいことにチャレンジしていっているということです。このことが念頭にあったので理論的には予測していましたが、これだけレジリエンスの高さがいろいろなことに効いているというのは想像以上の結果でした。

佐々木 私も、新規事業の組織の研究などを行っていますから、組織が変化に対してどう対応するかということに非常に興味がありました。今回はイノベーションのようなものとは違う文脈ですので、レジリエンスという概念を入れて測ってみましたが、思っていた以上にうまく説明できたなという感想を持っています。

企業はいかにしてレジリエンスを高めればよいのか

寺澤 今回の調査で得られた知見について、人事はどのように考え、何を行うべきでしょうか。先生方のお考えをお聞かせください。

中川 今日、レジリエンスというキーワードが出てきましたが、簡単に「レジリエンスが大切なんだ。そうだ、レジリエンスだ」と受け入れて思考停止になってしまうことなく、皆さん自身で深く考えていただくことが重要だと思っています。データを見て実態を知ると同時に、レジリエンスがなぜ大切なのかを理屈を通じて腹落ちし、では、自分の会社ではどうすればよいのかを自ら考えるということです。自分の会社においてレジリエンスとは要するにどのようなことであって、それを全社に展開する上では、どのような人事施策が必要になるのか。その答えは皆さん自身の中にしかありません。皆さんが自分たちの状況を自分事として考え、行動するときのヒントとして、私たちの調査結果を役立てていただきたいと願っています。

佐々木 レジリエンスを高める方法はおそらく二つあります。資源をある程度冗長性をもって準備することと、もう一つは、それをうまく活用するためにコミュニケーションを取り、今の現実に従業員の目を向けさせて意識を揃えることです。トップが発信したことをきちんと伝えることが大事であって、それを組織全体に知らしめ、意識を揃えることが、人事のできることでしょう。また、変われる組織とは危機感を感じた組織です。今回のコロナ禍は、大きな危機感を与えていることで良い効果をもたらしているかもしれない反面、危機感が強すぎると目先の自分の生活や事業の存続が心配になり、新しい活動に目を向けることが難しくなります。ですから、そこは少し安心感があった方がよく、人事としては、従業員の心理的な安全性を高める施策をこの段階でうまく打てると、コロナを脅威ではなく良い機会として捉える視点が得られるのではないでしょうか。

効率一辺倒ではない投資配分が有事の対応力につながる

服部 レジリエンスにつながる要因にはさまざまなものがあり、社員の会社に対する愛着もその一つです。普段はあまり機能しないかもしれませんが、コロナ禍の状況になると、やはり愛着があれば、少し無理しても会社のために頑張ろうという余剰なエネルギーを生むわけです。あるいは、自分の部下の家族の状況についての知識は、普段ならあまり必要なくても、コロナ禍の状況ではそういう情報が非常に大事になります。平時にはリダンダントで無駄になるものが、レジリエンスにおいては重要だということです。現場のマネージャーは効率性に向かいますから難しいでしょうが、投資の配分のようなことを効率一辺倒にせず、冗長な方に少し揺り戻してバランスを取ることは、人事と経営者のきわめて大事な役割です。それを私たちのデータが明確に示してくれたと思います。

 昨今は人材の流動化や多様化が進んできています。さまざまなキャリアパスがある時代になってきて、私たちの調査結果を見ても、そうした多様な人材をうまく社内に入れ込むようなことが、今回、キーワードとして出てきたレジリエンスにつながっている気がします。例えば、ダイバーシティというと「女性役員の数を増やしましょう」というように、単純な指標に落とし込まれてしまうことが多々あります。「新しい働き方」や、「レジリエンスを高める」という言葉を聞いたとき、自分たちの組織でどう腹落ち感を持って具現化するかが重要かなと思います。多様な人材を会社に入れるとはどういうことか、新卒一括採用の仕組みはどうなのかなど、いろいろなことを考え直さなければならない時代なんでしょうね。経済学のフレームワークで「ナショナルイノベーションシステム」という考え方がありますが、2020年というのは、そうしたものの変化が急激に進んだ時として記憶されるのではないかと思います。

寺澤 先生方のお話をお聞きして、コロナ禍の状況は、ある意味、リトマス試験紙のように組織の実態をあぶり出したように感じます。今回の調査データは膨大なもので、研究成果はワーキングペーパーとして公開され、一橋大学イノベーション研究センターのリサーチライブラリーからダウンロードすることができます。ぜひ、多くの方々にご覧いただき、人事として自分たちの組織にフィットしたやり方を考える素材として、ご活用いただきたいと思います。先生方、本日はありがとうございました。

 

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