人事データ分析のスペシャリストが語る人事調査の重要性、データ活用の実践例とは

~中村 亮一 氏(株式会社BtoA VP of Business Development)オンラインインタビュー~
今、人事領域でなぜ調査が必要となるのか。そして、得られたデータをどのように活用すればよいのか。人事調査、データ活用の実績を多く持つ中村亮一氏に、人事調査の重要性や、データ活用の実践例について話を伺った。同氏は株式会社日立製作所、ソフトバンク株式会社で、人事として新卒採用をはじめ労務や教育、人事部門の DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進などに携わった経験を持つ。日立製作所在籍中の 2016 年には、ピープルアナリティクスの考え方を取り入れた HR テクノロジーを実践し、第 1 回 HR テクノロジー大賞のイノベーション賞を受賞している。また、2019 年にはソフトバンクでも第 4 回 HR テクノロジー大賞の人事システム部門優秀賞を受賞。現在は人事コンサルタントとして、株式会社 BtoA に活躍の場を移している。

中村 亮一

株式会社BtoA VP of Business Development

2004年4月大学卒業後、日立製作所へ入社し、人事総務担当として従事。2017年4月に人事部門内にPeople analytics専門の部署を立ち上げ、データ分析に携わり、本分野での事業立ち上げ(コンサルティング)を担当する。2018年10月に日立を卒業し、ソフトバンクへ入社。同社人事部門においてHRテック、People Analyticsの社内導入を担当する。2020年3月より現職。

寺澤 康介

ProFuture株式会社 代表取締役

1986 年慶應義塾大学 文学部 卒業。就職情報会社役員等を経て、2007 年採用プロドットコム株式会社(2010 年にHR プロ株式会社、2015 年にProFuture 株式会社に社名変更)設立、代表取締役社長に就任。2012 年にHR 総研を設立、所長に就任。日本最大級の人事ポータルサイト「HR プロ」、人事向けフォーラム「HR サミット」、経営者向けサイト「経営プロ」、アンケートメディア「PRO-Q」などを運営。

なぜ人事領域に調査とデータが必要になるのか

寺澤 中村さんは人事領域に調査やデータ、すなわちファクトやエビデンスを持ち込み、これまでの業務のあり方を大きく変えていらっしゃいました。まず、なぜ人事に調査やデータが必要と考えたのか、その重要性についてお話いただければと思います。

中村 多くの場合、人事の課題は非常に漠然としています。例えば、採用で言えば「イノベーション人材が採用できていない」、ダイバーシティで言えば「女性の活躍が不十分」などです。通常こうした課題に対し、何となく話を進めてしまうのですが、注意しなければならないことがふたつあると考えられます。
ひとつ目は、その課題が本当に正しいのか。イノベーション人材が採用できていないと言えるのか、女性活躍が不十分と言えるのか、その根拠はどこにあるのかということです。何となくの肌感覚で話を進めてしまっているので、そもそも課題の捉え方が間違っている可能性があります。ふたつ目は、仮にその課題感が間違いのないものとして、何をもってイノベーション人材、女性活躍と言えるのかが不透明なことです。課題があまりに漠然としていて、人によって捉え方がまったく異なることも少なくありません。イノベーション人材と言われて思い描く人物像はそれぞれで異なるでしょうし、女性活躍は役員のことなのか、子育て世代のことなのか、新卒の新入社員のことなのか、人によって重きを置く点が異なるでしょう。言ってみれば、会話の目線が合っていない。この状態のまま話を進めても会話はかみ合わず、出てくる施策はまず間違いなくバラバラになります。

寺澤  なるほど。よくある問題に感じます。

中村 こうした漠然とした課題について、曖昧さを消去する役割を果たすのが、調査によって得られるデータです。第 1 に、何となくあるだろうと思われていた課題が、データドリブンやファクトフルネスによって、存否が判明します。第 2 に、課題が明らかになることで、フォーカスすべきポイントが明確になります。例えば、女性活躍で言えば、問題は役員なのか子育て世代なのか新卒の新入社員なのかが見えてくるということです。

データを活用するために、社内を説得する

寺澤 中村さんがおっしゃるように、人事の業務は、これまで経験と勘に頼ることが半ば当たり前のようになっている側面が現実としてありますね。

中村 はい。ですが、データを用いること自体は、それほど新しいことではありません。むしろ、他部門では当たり前のように行っています。例えば、営業の領域では、ターゲットとなる年齢層やエリア、競合他社、過去と現在の比較について、調査データを用いて細かくマーケティング分析をしています。しかし人事の世界では、これまで勘や経験が優先され、ファクトやエビデンスが持ち込まれてこなかったということです。

寺澤 データに馴染みの薄い人事領域で、中村さんはデータの活用を積極的に行いました。周囲からの反対はなかったのでしょうか。

中村 正直なところ、まったくなかったとは言えず、懐疑的な見方をされたのは事実です。人事部の体質として、古い部分はかなり残っていたと思います。ただ、仕事を進めていく上では、これといった抵抗もなく、主体的に取り組むことを認められました。特に採用人材について具体的なデータを見てもらってからは、ほとんど「ノー」と言われることはなくなったと思います。少々逆説的なアプローチになりますが、データを活用するためには、まずはデータを集め、その結果をもって説得に当たるというのが、もっとも効果的とも言えます。やはり数値やエビデンスの力は非常に強く、経営幹部も説得できました。

寺澤 それは日立製作所に在籍されていた時のことでしょうか。

中村 はい。私が人事で採用を担当していた 2015 年の日立はちょうど変革期にあり、それに合わせた人材も必要になると考えられました。一方で、新卒採用は面接官や採用担当者の過去の成功体験をもとに行われており、選考基準も明確ではありませんでした。事業が変わっていく中で、いかに新しい人材を採用していくか、日立にはどのような人材が足りていないのか。経験と勘だけでは必要となる人物像が捉えきれませんし、従来通りの採用を続けていても結果は変わりません。
では、何をどう変えれば、これからの日立に必要とされる人材が獲得できるのか。具体的なデータを得るために調査を開始しました。その結果、自社に足りない人材の層が明らかになり、そのデータを示したところ反対はなくなったのです。

データを活用した新卒採用の実例

寺澤 具体的なデータを出しているから、説得力が増したと考えられます。日立で行った施策について、詳しくお話を伺えるでしょうか。

中村 当時日立の IT 部門では毎年数百名の技術者を新卒で採用していましたが、同質的なタイプが多く、イノベーションを起こせるタイプがいないのではないかという意見がありました。一方で、何をもって同質とするか、イノベーションタイプというのか、この点を明確にしないと会話が成り立たないのは先に述べた通りです。そこで、現在と今後の事業を鑑みて、人材のタイプを縦軸と横軸の 4 象限に分けて設定しました。ピープルアナリティクスを活用した人材要件の設定です。他方、適性検査を使って社員の性格分析を行い、4 象限に当てはめたところ、仮に 4 象限の人材タイプをABCD とすると、D タイプに集中していることが判明しました。このデータを上司に上げて行ったところ、不足している他のタイプの人材を採用していこうという方針を明確にすることができました。

 

 

寺澤 採用手法などは、具体的にどのように変えたのでしょうか。

中村 面接の進行そのものを大きく変えています。当時、日立のエンジニア採用では一対一の面接を複数回するのが基本となっていたのですが、社外の多くの方に相談したところ、これでは人材要件をうまく引き出して、見極めることが難しいことがわかりました。そこで選考の内容を集団形式(グループディスカッション+集団面接)の一次選考と、一対一の面接の二次選考に切り替えました。それぞれの選考で見極める人材要件をはっきりさせることで、面接官の主観を排除するよう努めました。見極めたいポイントがはっきりしている場合に、面接官の主観のみに任せてしまうと、その人の経験や見方が強くなり、全体の統一感がなくなりますし、見るべきポイント以外に目が行きがちになります。そうしたあり方を是正するために、選考毎に見極める要件以外の評価は不要ですということまで伝えました。

寺澤  選考後の結果はいかがだったでしょうか。

中村 狙い通り不足していた人材タイプの人材を多く採用でき、従来と比較して人材のポートフォリオを大きく変えることができました。このように施策に対する結果を検証できたのも、データを用いているからに他なりません。漠然とした課題に対して、フォーカスすべき点を見定めて施策を打ち、結果を検証する。PDCA サイクルでいうと、人事の業務はどうしても P と D に偏りがちです。しかし、データを活用することで、行うべき施策や、目標とする結果が明白になって、C が行えて次の A につなげられます。

 

人事調査を企画するうえでのポイント

寺澤 人事調査を行う場合の企画の立て方について教えてください。フォーカスすべき課題を見つけるためにも、調査の質問設計は非常に重要になると考えられます。設問によっては社員が答えづらく、また、会社側に忖度した回答をしないとも限りません。バイアスがかかると、調査結果そのものが使えなくなってしまいます。

中村 必要な人に必要なことを聞くことが大切です。例えば、配属がうまくいっていないという話が挙がっていたとして、実際にはどうのなのか調査するとします。この場合、配属の変更があった社員(もしくはその周囲の上司やチームメンバ)に対して、例えば配属 3 ヵ月後にアンケートを行えばいいわけです。本人向けの設問例としては、「新しい職場に入って 3 ヵ月経つが、上司との関係はどうか」、「新しい組織の印象は」、「困ったことないか」などが考えられるでしょう。社員はなぜ自分が調査の対象となっているかが理解でき、回答を嫌がるケースは少ないと推測できます。また、フィードバックする仕組みも作っておけば、社員にとってもベネフィットがあり、意味のあることだと感じられるので、確かな回答を得られるはずです。
加えて、得られたデータを調査の対象者に見せることで、調査結果に対する施策も立てやすくなります。人事が一方的に施策を講じるのではなく、あくまで同じ目線に立って一緒に良くしていきましょうというスタンスが取れるのです。これまでよく言われていましたが、人事は学校の職員室みたいな組織で、言うことを守らないと怒られるという雰囲気がありましたが、今は押し付けでは事が運ばなくなったことも認識しなければなりません。

寺澤 調査の結果を確認する際に、注意点はあるでしょうか。

中村 先ほども少し触れましたが、データは与える影響が強いので、結果を突き付けられると、そういうものだと受け止めしまいます。しかし使っているデータそのものが正しいのか、バイアスがかかっていないのかなどを考えた上で、注意して扱わなければなりません。ただ、リスクを恐れ過ぎても、それはそれでバイアスがかかることになるので、一旦はデータを受け止めるバランス感覚が大事になると思います。

寺澤 いま、中村さんがおられる会社では、データドリブンな戦略人事を実現するため、人事データをリアルタイムに自動連携・可視化する支援を行っています。これをお読みになっている人たちに提供できることはどのようなことでしょうか。

中村 当社では、社内に点在する労務や採用などの人事データを統合して横断的に見える化し、統合された人事データに対して独自のアルゴリズムやシミュレーターを活用することで、より精度の高い人事戦略立案をサポートできる仕組みを提供しています。データを使うことを人事の仕事とするという側面もありますが、人事のデータ活用については、その手法ばかりが注目され、何を行うのか目的が不明確なままとりあえずピープルアナリティクスとなってしまいがちな面もあります。
当社ではシステム提供をしていますが、手法の話をする前に何を解決することを目指すのか、その点から整理して、その上で具体的な方法の検討、運用の支援などを行っています。また、自社にデータが蓄積されており、そのデータを何かに活用できないか、という相談についても、お受けすることができます。データドリブン人事になるためのご支援は幅広くできますので、気軽にご相談ください。

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