第2回:エンゲージメントを高めるために

このコラムでは、HR業界で注目を集める「エンゲージメント」について解説する。第2回となる今回は、エンゲージメントが高いことによって生まれる「効果」と、エンゲージメントを促す「要因」を取り上げる。エンゲージメントを高めたいが何をすればよいのかわからない、といった読者の参考になるだろう。

伊達 洋駆
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。同研究科在籍中、2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、人事領域を中心に、組織の現状を可視化する組織診断を始めとした調査・コンサルティング業務を提供している。学術知と実践知の両方を活用したサービスが特徴。
“仕事”と“組織”のエンゲージメント
(第1回で述べた通り)エンゲージメントは、実に様々な意味で用いられる概念である。エンゲージメントの効果と要因を紹介するのが今回のテーマだが、それに先立って、筆者がエンゲージメントをどのような意味で用いるのかを示しておこう。
今回は、2つの側面を含む概念としてエンゲージメントを定義する。第1の側面は「ワークエンゲージメント」であり、第2の側面は「組織コミットメント」である。
ワークエンゲージメントとは(第1回でも言及したが)、仕事への活力に満ち、仕事に打ち込んでいることを意味する。仕事に誇りややりがいを感じ、熱心にいきいきと働いている状態だ。
対して、組織コミットメントとは、自分の所属する会社に愛着や一体感をもっていることを指す。会社との間に情緒的な結びつきを感じている状態である(実は第1回において、従業員エンゲージメントの多様な要素の一つとして、組織コミットメントは登場している)。
いってみれば、ワークエンゲージメントは”仕事”との関係、組織コミットメントは”会社”との関係が良好であることを表している。
なお、ワークエンゲージメントと組織コミットメントは区別できることが検証されており、両者は別々の概念である。したがって今回、本来は区別されるべき2つの概念を、エンゲージメントという大きなカテゴリーに含めている点に注意されたい。
図1:今回のエンゲージメントの定義
エンゲージメントを高める意義
エンゲージメントを高めると、どんなよいことが起きるのか。エンゲージメントが何らかの効果をもっていなければ、エンゲージメントに着眼する意義はない。まずは、ワークエンゲージメントの効果を見ていこう。
学術研究を参照すれば、ワークエンゲージメントが高いほど、離職したい気持ちは小さくなる。また、ワークエンゲージメントが高い人は仕事のパフォーマンスも高い。自己評価のパフォーマンスのみならず、上司評価も同僚評価もすべて高い。
組織コミットメントはどうか。組織コミットメントが高いと、会社に定着する。職場をよくする役割外の行動を自発的にとる傾向も高まる。だが、仕事のパフォーマンスについては結果が一貫しない。組織コミットメントが高いほどパフォーマンスが高いわけではなさそうだ。
ワークエンゲージメントと組織コミットメントにおいて共通するのは、離職抑制の効果である。”仕事”との関係でも”会社”との関係でも、それがよくなれば定着につながる。従業員の離職に問題意識をもつ企業にとって、エンゲージメントはとりわけ注目に値する。
他方で興味深いのは、ワークエンゲージメントは仕事のパフォーマンスを高めるのに対し、組織コミットメントはそうでもない点だ。従業員のパフォーマンスを高めたい場合は、”仕事”との関係を改善すべきである。
“仕事”のエンゲージメントを高めるには
続いて、エンゲージメントを高める要因に話を進める。ここからは節を分け、ワークエンゲージメントの要因、組織コミットメントの要因と順番に説明したい。
はじめに、「ワークエンゲージメント」を高めるには「周囲からの支援」が有効である。同僚に相談にのってもらったり、仕事に役立つ情報を提供してもらったり、ポジティブな言葉をかけてもらったりすると、ワークエンゲージメントは上がる。
その意味で、声をかけ合う職場づくりが必要になるだろう。前提として、職場において互いを理解し、よい関係を構築しなければならない。ワークエンゲージメント向上には職場開発が求められるということだ。
また、上司の影響も大きい。上司が業務面の助言をすること、情緒的なケアをすること、傾聴の態度を示すこと、成長できる仕事を与えること。これらがエンゲージメントをうながす要因となる。
上司が部下に関心を示し、適切なサポートを行うことで、エンゲージメントは高まりうる。マネジメント力の強化が望まれるところだ。
さらに、仕事そのものの特性も関係している。裁量の大きい仕事、結果が見えやすい仕事、たくさんのスキルが求められる仕事は、エンゲージメント向上をもたらす。
裏を返せば、仕事の与え方次第でエンゲージメントは高低する。たとえば、少し難易度の高い仕事を思いきって任せるなどの措置が効果的だろう。
図2:ワークエンゲージメントの要因
”組織”のエンゲージメントを高めるには
次に、組織コミットメントに目を向けよう。組織コミットメントをうながすには、どうすればよいか。
ワークエンゲージメントと同じく、周囲との良好な関係は、組織コミットメントに対しても有効に機能する。たとえば、職場メンバーに対して愛着を感じていれば、会社にも愛着を感じる。そして、周囲からの支援も組織コミットメントを高める。よい職場をつくることは、ここでも重要事項だ。
上司の行動も組織コミットメントに影響する。上司が業務をしっかり方向づけたり、職場における人間関係の調整をしたりすると、部下の組織コミットメントは高くなる。マネジメント力の強化がやはり求められる。
仕事の内容としても、裁量が大きかったり多くのスキルを必要としたりする仕事は、組織コミットメントをうながす。業務アサインに注意を払う必要がある。
ただし、裁量が大事だからといって、放置するのは危険だ。部下が自分の期待される役割を見失うと、組織コミットメントは低下するからである。任せつつも、期待は伝えるようにしたい。
さらにいえば、仕事の内容だけではなく、仕事に対する満足感も重要である。仕事に満足する人は会社に愛着も感じるということだ。
図3:組織コミットメントの要因
以上、このコラムでは、エンゲージメントをワークエンゲージメントと組織コミットメントに分解し、効果と要因を紹介してきた。最後に特に指摘しておきたい点は、ワークエンゲージメントと組織コミットメントは区別できる概念でありながらも、それぞれを高める要因はかなり似ているということだ。
よい職場をつくること。上司がマネジメント力をつけること。業務アサインに工夫をこらすこと。これらが結局のところ、エンゲージメントが高い状態を実現するための王道アプローチである。