第2回:新型コロナ禍の下、キャリア採用はこう変わる


曽和 利光
株式会社人材研究所 代表取締役社長
京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート、ライフネット生命、オープンハウスの人事採用責任者を経て現在、企業の採用や人事に関するコンサルティングに従事。主に自社の採用ブランドに頼らない採用を行うためのサポートを行っている。 著書に「人事と採用のセオリー 成長企業に共通する理と原則ネットワーク採用とは何か」(ソシム)等
不況になれば企業は採用抑制を行うが
不況期に入ると、多くの企業は採用を抑制するようになります。事業の不振によって必要人員が減ったり、コストダウンを余儀なくされたりするからです。さて、その際、新卒採用とキャリア採用のどちらをより抑制するでしょうか。ある調査によれば、90年代のバブル崩壊後に新卒採用を抑制した企業はそうでなかった企業に比べて、年齢による社員の人口ピラミッドの崩れ(中堅層が抜けるなど)、既存社員のモチベーションの低下、新人が入らないことによるマネジメント力の低下、技術継承への悪影響、社員の上下間のコミュニケーション量の低下等々、様々な問題が起こったとのことでした。
キャリア採用の方がより抑制される可能性
それを受けてか、リーマンショック後は、キャリア採用は抑制しても、新卒採用はできる限り止めない方針を打ち出した企業が多く、今回のコロナショックにおいても同様のことが起こりそうです。つまり、企業の採用抑制があるとすれば、より強くキャリア採用に働く可能性があるということです。直接的に比較する数字はありませんが、例えば、キャリア採用の重要指標である有効求人倍率は、リーマンショックの 約1年後、2009 年8月に 0.42 倍まで悪化しましたが(リーマンショック前は1倍前後なので、要は半分以下)、新卒の求人数はリーマンショックの翌年でも前年の約75%程度でした。
全体としては「買い手市場」になりそう
つまり、キャリア採用は全体として平均的には「買い手市場」になる可能性が非常に高く、募集をかければ応募者が殺到するという状態となるかもしれません。そうなれば、ここ数年続いていた「募集しても来ない」という悩みは一定解消されることでしょう。実際、多くの人材紹介会社では登録者数が激増していたり、同じボリュームの採用広告を出しても、応募者が倍になったりするようなことが既に起こっています。そうなれば、採用における課題は「応募者数を確保する」から、「適した人だけが来るようにセルフスクリーニングできる採用広報を行う」とか「応募者の中から、精度の高い選考を行って、適切な人を選び出す」ことに移行するでしょう。
採用広告はRJP型にシフト
そうなると、まず採用広告のスタイルが変わります。これまで、応募者を増やすために、自社の魅力を訴求することに重点をおいて採用広告のコンテンツを作っていたところから、今後は、RJP型に変えていく必要があります。RJPとは。Realistic Job Preview、つまり、良いことだけではなく、人によってはネガティブに感じることなどもリアルにすべて伝えていくことで自己選択(セルフスクリーニング)を促し、応募者数は抑制しつつ、応募者の質=自社へのフィット度を高めるという考え方のことです。RJPを行うことで、入社後の定着向上も見込めるという副産物もあります。
選考はガッツリ面接型へ
選考も変わっていく可能性があります。近年、リファラル採用などの増加に伴って増えてきたカジュアルな面談、つまりいきなり「ガッツリ」と根堀り葉掘り相手のことを聞いていく面接ではなく、一般的に人と人が初めて会った時にするように、相互に自己紹介するようなところから始めて、アイスブレイクの話題をへて、徐々に本題に入っていくような面談は少なくなるでしょう。応募者への印象は良いでしょうが、選考としては精度が低いからです。精度を高めるためには、構造化面接や適性検査の導入などがキャリア採用であっても増加することが予想されます。「売り手市場」だとこれらの施策は応募のハードルを高めることにもつながるために、なかなか実施しづらかったのですが、応募者・企業の双方にとって選考の精度を高めるのはミスマッチを防ぐためにもよいことだと思います。
採用レベル感の調整が必要
また、特に、ここ数年間、売り手市場が続いたことによって、採用担当者の候補者選定のレベル感覚は変化してきており、急に買い手市場の流れになってもすぐには適応できない可能性があります。応募者が増えれば、これまでの売り手市場の際に合格を出していたレベルの人材が多く出てくることでしょう。そういう人を見つけると、すぐに合格を出してしまうかもしれませんが、少し待ってください。なぜなら、買い手市場になるということは、これまでには来なかったようなさらにレベルの高い人材が応募してくる可能性があるからです。拙速に内定を出して募集を締め切るのはもったいないです。市場の変わり目には、選考基準の修正が必要ですから、しばらくは、やや非効率でも、できるだけ多くの応募者と会って、自社への応募者のレベルがどう変わったのかについての認識を修正していくべきです。
ところが、需要の高い職種・人材は変わらない
しかし、以上述べてきたことは、あくまでも「全体的には」ということです。まだ正確なデータをもとにお話ができずに恐縮ですが、私の接しているクライアントや人事の方々から伺う話から推測すると、これまでも企業から超人気であったような職種や人材、例えば、ITエンジニアや、数字に強い理系的人材、人事担当者、各種専門職などのキャリア採用においては、需要も減っておらず、当然供給も変わらないので、結局、全体の傾向はどうあれ、彼らについてはこれからも依然として「売り手市場」ということです。十把一絡げでキャリア採用を捉えるのではなく、このよう採用対象のセグメントをきちんと分けて、個別に戦略・戦術を構築していかねばなりません。
一律に採用のハードルを上げると優秀層が去る
例えば、採用のオンライン化への適応です。以前書きましたが、新卒採用においてはコロナ後においても、おそらくオンライン採用は定着するであろうと思われます。応募者・企業の双方にとってメリットが大きいからです。しかし、少人数採用も多いキャリア採用においては、コロナ後にリアル回帰してしまう企業も多いことでしょう。上述の通り、キャリア採用の方が「買い手市場化」することで、オンライン化しなくても、つまり応募のハードルが高いままでも、応募者数は減らないと思われるからです。
キャリア採用でもオンライン化はしておくべき
しかし、ターゲットが「売り手市場」のままの職種・人材であった場合、相手のニーズに合わせてオンライン採用ができるように準備しておかなければ、結局、優秀な人材の応募を逃してしまうことになります(しかも、増える応募者達にかき消されて、優秀者が去ったことにはなかなか気づけないでしょう)。ですから、例えば、応募者を惹きつけるための会社説明動画を作成して流しておくことは重要です。これまでキャリア採用では会社説明会はポピュラーではありませんでしたが、オンライン化すれば匿名で参加できることから、今後はキャリア採用用の会社説明「動画」は増えていくことでしょう。また、面接もリアル「だけ」ではなく、相手の希望に応じて適宜オンラインを使うようにしておくべきです。このように、部分的な「売り手市場の継続」にも対応していくことが今後のキャリア採用には重要なポイントではないかと思います。