第1回:新型コロナ禍の下、新卒採用はこう変わる


曽和 利光
株式会社人材研究所 代表取締役社長
京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート、ライフネット生命、オープンハウスの人事採用責任者を経て現在、企業の採用や人事に関するコンサルティングに従事。主に自社の採用ブランドに頼らない採用を行うためのサポートを行っている。 著書に「人事と採用のセオリー 成長企業に共通する理と原則ネットワーク採用とは何か」(ソシム)等
新卒採用にも大きな影響
現在もまだ新型コロナウィルスにより全世界的に混乱が続いています。政治や経済などあらゆる社会の側面に大きな影響を与えており、もちろん企業の新卒採用も免れることはできませんでした。そのため人事採用ご担当者の皆様におかれましては、予定していた採用活動の軌道修正に粉骨砕身されていることと思います。本稿では、コロナ禍がもたらした新卒採用に対する影響とその対策として出てきている動きについて考えてみたいと思います。
「会えなくなること」が根本問題
コロナ禍が新卒採用に与えた根本的な問題はリアルな場で人と会えなくなるということです。もともと新卒採用は、説明会や面接のように、相手を見極めたり、情報提供したりするため、人と人が会うことが基本です。それを止められるというのは、新卒採用活動を止めろということに等しいわけです。そこで当初は活動がストップするのではないかと考えられていました。
急速な「オンライン化」が進行した
しかし、今は採用難時代です。通常であれば停滞したかもしれない新卒採用活動ですが、なんとか対応できないかと各社が模索した結果、出た答えは「オンライン化」でした。平時においても、サイバーエージェントなどの先鋭的な企業は既に進めていて成果を挙げていた「オンライン化」ですが、これを取り入れようという動きが活発になりました。説明会も面接もzoomなどのツールを使い開催されるようになりました。統計的なデータはまだ出ていませんが、大半の企業が何らかの「オンライン化」にチャレンジしており、活動を止めていません。ストップした企業は置いてきぼりを食らっているというのが実情でしょう。
説明会は「生放送」が一歩リードか
個別に見ると、説明会の「オンライン化」は、録画して編集したものをいつでも見られるようにするものと、「生放送」でリアルタイムに実際にやる説明会を流すものとがありますが、閲覧数などをみると「生放送」が人気のようです。「オンライン」にするとなると、どうしても残ることを考えて、きちんと編集したものを流したくなりますが、クオリティが高いものはできる一方で、ライブの方が「編集のない素の姿を見たい」という学生のニーズに合っているのかもしれません。ライブで流したものを、保存してそれを後で見るという学生も大勢おり、出演する側はアドリブが大変ですが、しばらく「生放送」優位が続きそうです。
面接はまだ単純にリモート化しただけ
面接においても、今のところは、これまでリアルの場で実施していたものを、場所だけリモートで「オンライン化」するケースが大半のようです。リアルと同様にふつうにアポを取り、その時間にzoomなどで面接を実施するというだけです。オペレーションの混乱も少なく、実施をするということだけに関して言うと、思ったよりも問題なく導入されています。ちなみに、最終面接だけは十分なコロナ対策を取った上で、リアル面接というところがほとんどです。
また、時間を束縛することもなくす方法として、事前に定めた質問内容をプレゼン形式で語った動画を送る「録画面接」や、質問もAI化されて面接官不要で進める「AI面接」なども導入が進んでおり、この場合、リアルタイムに評価をする必要もないために、コロナ禍対応でマンパワーが逼迫している会社にとってはありがたいサービスとなっています。
「オンライン化」でできないこと
このように、これまで食わず嫌いでやっていなかっただけのことが一気に進んで「なんだ、ものすごく便利じゃん」となっているのが今です。ただし、リアルでのことがオンラインで100%できるわけでもないこともわかってきました。
●トークだけで魅力を伝えなくてはならない
まずは説明会などをオンラインや動画にすることで、これまで人対人でやってきたような熱い口説き、動機形成ができるかどうかということです。人は単純に情報を集めて、計算をするだけで就職先を決めたりはしません。目の前の人と、真剣勝負でコミュニケーションを取りながら一世一代の決断をするわけです。これがオンラインでできるのか。まだ時期的に事例はあまりありませんし、辞退率がどうなるかもデータはありませんが、みなさんが心配しているところです。私の想定は、えも言えぬ「人の魅力」による惹きつけは弱くなり、その分オンラインでも伝えられる、入社動機や事業・仕事、組織風土、不安要因への回答などのトークのレベルを今まで以上に上げていかなければならないであろうと思います。
●丁々発止のテンポ良いキャッチボールがしにくい
面接はどうか。今発生している問題は、オンライン面接ではキャッチボールがしにくいということです。リアルと同じように面接をすると、声がかぶったりして、リズムよく突っ込んだりしにくい。このために、オンラインで面接を実施するためには、キャッチボール型ではなく、プレゼンテーション形式にすることがお勧めです。簡素な質問を最初にして後から突っ込んでいくという従来のやり方ではなく、最初から、質問の意図、どういうことを詳しく話して欲しいかなどを丁寧に伝えた上で、一定時間を示して、まずは語れるだけ相手に語らせる。そして、後から不足部分を聞いていくという流れです。
「オンライン化」の副産物
さて、このように少し苦労するところはあっても、そこに手当てをすれば、「オンライン化」はあまり問題なく導入できるという結論は変わりません。しかも、さらに「オンライン化」には副産物があることもわかってきました。
まずすぐにわかったのは、地方や留学をしている学生が、首都圏や関西圏などの大都市圏で就職活動ができるようになって、新しいマーケットとして浮かび上がってきたことです。もともと優秀な学生がいるのに、距離の関係でアプローチする企業が少なかっただけのこのゾーンが、「オンライン化」によって一気に市場化しました。また、逆に地方企業が都市からのUターン・Iターン学生にアプローチすることも容易になりました。ただ、採用上での力関係を考えると、大都市圏の大企業・有名企業が、地方学生や留学生を採用することができるようになっていくという傾向の方が結果として強いのではないかと思います。地方企業は差し引きで言うとマイナスかもしれません。
また、オンラインは録画できることから、説明会も面接も今までは密室の中でやっていたものが後から容易に振り返ることができるようになりました。このことは、各採用活動のブラッシュアップにつながることでしょう。
「オンライン化」に必要なリテラシーを身につけよう
以上のように考えてみると、企業側も学生側もその効果に味をしめてしまったので、コロナ禍が終息した後も、おそらく新卒採用において、オンラインで採用を行うということは残るのではないかと思います。ということは、新卒採用担当者は、「オンライン化」に必要な新しいリテラシーを身につけなくてはいけません。
一つは先にあげたように、限界あるオンラインでの動機付けで効果を出すために、言葉を磨くことです。先に挙げた、入社動機や事業・仕事、組織風土、不安要因への回答について、これまではアドリブで思ったことをいっていただけというのを、事前に練りに練って、短い期間で相手の心に刺さるレベルまで高めなくてはいけません。コピーライターのような能力を身につけなくてはならないということです。
もう一つは質問力の醸成です。「オンライン面接」は双方向とはいえ、今のところはリズムのよい質疑がやりにくいという点は、多くの人が感じています。そうであれば、面接を、どういう流れで、どんな質問を聞くのか、それによって何を判定するのかなどをきちんと構造化して、相手に「この質問で何を言って欲しいか」を明確に伝えられる必要があります。
以上、コロナ禍によって生じた新卒採用の変化について述べてみました。まだ、今年の活動も途中であり、最終的な結果を待って、理想のアフターコロナの新卒採用は考えたいところですが、現状はこのような状況です。今からでもすぐ「オンライン化」することは意外に簡単ですので、まだやっていない会社は是非できるだけ早く取り組んでみてください。