第5回:測定尺度 ~リーダーシップなどを評価する際の基準「測定尺度」を知る~

「人事が社員向け調査を実施する際に知っておくべきこと」「成功のポイント」はどのようなものだろうか。全6回の本連載コラムでは、組織行動論を専門とし、企業との共同調査なども数多く手がける神戸大学大学院 経営学研究科 准教授の服部泰宏氏に、学術的な内容をわかりやすくレクチャーしていただく。第5回のテーマは、評価のモノサシとも言える「測定尺度」。過去に研究者によって開発され、アンケート調査に利用されている良質な測定尺度を、使い方も含めてご紹介いただいた。
知りたいことの概念を定義し、パーツに分けて質問していく
アンケート調査において何かを測定しようとすると、それをどのように評価するのかという基準が必要になります。これを「測定尺度」と呼んでいます。わかりやすく言い替えると「メジャー」ですね。この「測定尺度」の考え方と、学術研究の分野で知られている「測定尺度」にはどのようなものがあるかということが今回のテーマです。
例えば、リーダーシップや満足度といったことを測定する場合、1問だけで聞くのでは測定の信頼性を担保することが難しいため、複数の項目を用いて測定することが望ましいとされています。例を挙げてご説明しましょう。
図1は、会社に対する「情緒的コミットメント(愛着)」を測定尺度を使ってどのように測るかという考え方と、具体的な測定尺度項目を示したものです。情緒的コミットメントという概念を「組織に対する個人の愛着や同一化」であると定義し、これについて測定しようとすると、ちょうど図の中に6つの円が重なっているように、この概念にはいろいろな要素が含まれています。そこで、この各要素について複数の質問で細かく聞き、足し合わせて全体として捉えていくわけです。
ちなみに、測定尺度の3つ目から5つ目までは「逆転項目」と呼ばれるもので、質問項目をあえて「〜とは感じない」といったネガティブな文章にすることで、回答者に刺激を与え、きちんと考えてもらうという意図があります。ポジティブな文章でストレートに聞くとイエステンデンシーが起きやすく、多くの人が「まあ、そうだな」となりがちですが、ひっくり返した文章にすることで、「そういうわけではないかな」というように、スコアにバラツキが生まれやすくなることも利点です。
人事の皆さんがオリジナルの測定尺度をつくりたいという場合は、まず調べたいことの定義を定め、概念の全体の幅を決めます。例えば、会社に対する忠誠心であれば、会社に対する忠誠心とは「○○○である」と皆さんが定義して、その具体的な○○○にあたる行動や考えを示す項目をいくつかつくり、何問かで聞いて足し合わせていく。そうすることで、会社に対する忠誠心という全体をキャッチしていくわけです。なお、項目の数は3問以上が適切だとされています。6問というのは多めで、慎重派バージョンと言えますが、回答者の負担も増えてしまいます。
リーダーシップ行動を2つの次元で捉えた測定尺度
アカデミックの世界では、これまでモチベーションや満足度といったものの測定尺度が多くの研究者によって開発されてきました。人事の皆さんがアンケート調査を実施する際は、こうした、すでに妥当性などが確認されている良質な測定尺度をノーコストで利用することもできます。
例えば、次に挙げるのは、非常によく知られたリーダーシップの測定尺度で、これまでアンケート調査で多くの人に使われてきています。リーダーシップ行動には多様なものがありますが、この測定尺度は、リーダーとして行うことを、部下に対して枠組みを与える「構造づくり(P)」、部下と良好な人間関係を保つなどの「人間関係のメンテナンス(M)」という2つであるとシンプルに考え、このPとMにあたる項目として次の24個を設定しています。
1 あなたの上役は規則に決められた事柄にあなたが従うことをやかましく言いますか(P)
2 あなたの上役は職場に気まずい雰囲気があるとき、それをときほぐすようなことがありますか(M)
3 あなたの上役はあなた方の仕事に関して厳しく指示命令を与えますか(P)
4 あなたは仕事のことであなたの上役と気軽に話し合うことができますか(M)
5 あなたの上役は部下に仕事を与えるときに、いつまでに仕上げればよいかを明確に示していますか(P)
6 あなたの上役は仕事に必要な設備の改善などを部下が申し出るとその実現のために努力しますか(M)
7 あなたの上役は仕事量のことをやかましく言いますか(P)
8 全般的にみてあなたの上役はあなたを支持していますか(M)
9 あなたの上役は所定の時間までに仕事を完了するように要求しますか(P)
10 あなたの上役は個人的な問題に気をくばっていますか(M)
11 あなたの上役はあなた方を最大限に働かせようとすることがありますか (P)
12 あなたの上役はあなたを信頼していると思いますか(M)
13 あなたの上役はあなたがまずい仕事をやったとき、あなた自身を責めるのではなく仕事ぶりのまずさを責めますか(P)
14 あなたの上役はあなたがすぐれた仕事をしたとき、それを認めていますか(M)
15 あなたの上役はあなたが担当している機械、設備のことを知っていますか(P)
16 あなたの職場で問題が起こったとき、あなたの上役はあなたの意見を求めますか(M)
17 あなたの上役はその日の仕事の計画や内容を知らせていますか (P)
18 あなたの上役はあなた方の立場を理解しようとしていますか(M)
19 あなたの上役は部下の仕事のすすみ具合について報告を求めていますか(P)
20 あなたの上役は昇進や昇給など、あなたの将来について気を配っていますか(M)
21 あなたの上役の計画、手順がまずいために作業時間が無駄になるようなことがありますか(P)
22 あなたの上役はあなた方を公平に取り扱っていますか(M)
23 あなたの上役は毎月の目標達成のための計画を綿密に立てていますか(P)
24 あなたの上役はあなたに対して好意的ですか(M)
※選択肢は、1.全然していない、2.めったにしない、3.ときどきしている、4.よくしている、5.いつもしている。
※出所=三隅二不二(1978)『リーダーシップ行動の科学』有斐閣96-97頁より。
この測定尺度を使ってアンケート調査を行った場合、総合的なスコアを見るだけでなく、Pの項目だけ、あるいはMの項目だけを集計すれば、その上司が構造づくり、人間関係のメンテナンスをどれだけ行っているか、細かく見ることができるわけです。
ただ、人事の皆さんは24項目は多すぎると感じるでしょう。アカデミックの世界では、高い信頼性、妥当性を確保するためにこれほど多くの項目を使う場合があるのですが、皆さんの会社のリーダーシップ行動として大事だと思われるものをMとPから(または「MとPを合わせて」でしょうか?ご確認をお願いいたします)3問か4問ほどずつピックアップしていただけばよいと思います。
「活力」「熱意」「没頭」の3次元からワークエンゲージメントを測定
ワークエンゲージメントについても、よく知られた測定尺度をご紹介します。この測定尺度では、ワークエンゲージメントを「活力」「熱意」「没頭」という3つのサブの次元に分解し、各次元に対応する項目を次のように設定しています。
1 仕事をしていると活力がみなぎるように感じる(活力)
2 職場では元気が出て精力的になるように感じる(活力)
3 朝に目がさめると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる(活力)
4 長時間休まずに、働き続けることができる(活力)
5 職場では、気持ちがはつらつとしている(活力)
6 自分の仕事に、意義や価値を大いに感じる(熱意)
7 仕事に熱心である(熱意)
8 仕事は、私に活力を与えてくれる(熱意)
9 自分の仕事に誇りを感じる(熱意)
10 私にとって仕事は、意欲をかきたてるものである(熱意)
11 仕事をしていると、時間がたつのが速い(没頭)
12 仕事をしていると、他のことはすべて忘れてしまう(没頭)
13 仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる(没頭)
14 私は仕事にのめり込んでいる(没頭)
15 仕事をしていると、つい夢中になってしまう(没頭)
16 仕事から頭を切り離すのが難しい(没頭)
※選択肢は、0.まったくない〜6.いつも(毎日)感じる。
※出所=Shimazu,A. et al.(2008)“Work engagement in Japan:Validation of the Japanese version of the Utrecht Work Engagement Scale.”Applied Psychology,vol.57,no.3,pp.510-523.より。
なお、ご紹介した測定尺度には選択肢が5段階のものも7段階のものもありますが、人事の皆さんがこれらを使う場合、選択肢の数は自由に設定してかまいません。ただ、選択肢については等間隔性と対称性という2つの大事なポイントがあることを覚えておいていただきたいと思います。
まず、等間隔性とは、例えば5段階なら「1.全然していない、2.めったにしない、3.ときどきしている、4.よくしている、5.いつもしている」というように、1と2と3と4と5の間隔をあまり離さず等間隔にするということです。もしもこれが「1.全然していない、2. ときどきしている」だとすると、1と2の間が離れすぎています。スコアの平均値が3.5点というように数値化しますから、言葉のニュアンスを等間隔にしておかないと、その数値の意味がなくなってしまいます。
また、対称性とは、5段階で3が真ん中だとすると、3から1までのニュアンスの距離、3から5までのニュアンスの距離がだいたい同じで対称になっているということです。対称性が必要な理由は等間隔性が必要な理由と同じです。等間隔性が担保されていれば、自然に対称性も担保されていることになります。
人事の皆さんがアンケート調査を設計する際、今回お話しした測定尺度の考え方や具体例を参考にしていただければと思います。