第1回:調査手法のバリエーション ~調査手法を知ることは、人事が持っている武器を知ること~

「人事が社員向け調査を実施する際に知っておくべきこと」「成功のポイント」はどのようなものだろうか。全6回の本連載コラムでは、組織行動論を専門とし、企業との共同調査なども数多く手がける神戸大学大学院 経営学研究科 准教授の服部泰宏氏に、学術的な内容をわかりやすくレクチャーしていただく。第1回のテーマは「調査手法のバリエーション」。現場を調べるための手法の多様性と、それぞれのメリット・デメリットをご説明いただいた。

服部 泰宏

神戸大学大学院 経営学研究科 准教授

神奈川県生まれ。国立大学法人滋賀大学専任講師、同准教授、国立大学法人横浜国立大学准教授を経て、2018年4月より現職。日本企業における組織と個人の関わりあいや、ビジネスパーソンの学びと知識の普及に関する研究、人材の採用や評価、育成に関する研究に従事。2010年に第26回組織学会高宮賞、 2014年に人材育成学会論文賞などを受賞。

調査で行われている5つのデータ収集方法

「今、社内がどういう状況なのか」を知るために人事の方々が現場を調査するとき、その手法には多様なバリエーションがあります。まずはそれらを知り、調査を行うにあたり、人事にはどういう武器があるのかを把握していただきたいと思います。

調査の際に行われるデータ収集方法は、大きく分けて「参加観察」「インタビュー」「アーカイバル」「質問票」「実験室実験」という5つのタイプがあり、どのようなデータの収集が得意か不得意かという点で違いがあります。

最初に知っておいていただきたいのは、データには「数値データ」と「質的データ」の2種類があることです。調査対象の特徴・事象を「数値」として捉えるのが前者であるのに対し、「言葉」として捉えるのが後者です。例えば、「最近、私の職場は雰囲気が悪いと思う」という意見は後者です。図1は、データ収集方法の5つのタイプについて、「数値データ」と「質的データ」の収集が得意か不得意かを、一般的にアカデミックな世界で言われている評価に基づいて「◎」「○」「△」で示したものです。

データ収集方法のメリット・デメリット

言語データの収集に強い「参加観察」と「インタビュー」

では、5つのタイプについて具体的にご説明しましょう。

まず、最も基本的なものが「参加観察」です。要は、現場に自分で足を運んでどうなっているかを見てくるということですね。人事の方々が「現場でどういうことが行われているか」「どういう環境で社員さんが働いているか」を実際に見てくるなどが一例です。

「参加観察」には、少し面白い使い方があります。自己申告式のアンケートでは、ややもすると、回答者が本当の考えとは違うけれど格好をつけて答えたがる傾向があります。例えば、美術館の来館者アンケートでどの絵が一番印象に残ったかを質問すると、ピカソやゴッホといった有名な画家の絵を「やっぱりすごいと思いました」と選んでしまいがちです。しかし、現場で人々が本当はどこに立ち止まっているのかを見れば、実はピカソやゴッホの絵より、有名ではない絵の前に立ち止まっている人が一番多いことがわかるわけです。格好をつけたがるバイアスを防ぐためには、このように現場を観察する方法もあります。

次の「インタビュー」も社会調査でしばしば用いられるオーソドックスな方法ですが、「参加観察」と密接に関わっています。現場の様子を見に行けば、そこで会った人に「これはどうなっているの?」とか「最近どうですか?」といった言葉を掛けることになり、必然的にインタビューが始まることになります。あるいは、事前に面談の約束をして現場でインタビューだけ行う場合もあるでしょう。

「インタビュー」と「参加観察」は、言語データや、何か楽しそうにやっているなといった定性情報を取るのに強いわけです。アンケートや人事データではキャッチできない生の様子が、表情も含めて見えてきます。「朝9時に行ったら意外に人が少ないな」というような定量データも取れないわけではないのですが、明らかに定性データ寄りだということです。

「インタビュー」にはさまざまな方法があります。例えば、人事制度の良し悪しを検討してもらう際などに時々行われる方法が、フォーカスグループインタビューです。若手社員を10人ほど集めて、今の人事制度について、人事は介入せずに自由に話してもらい、その人たちの会話の中から気付きを得ていくというのが一例です。人事と一対一だと遠慮して言いにくいことも、この方法だと本音が出やすくなります。そのほかに、目的に沿って質問項目を決めた上で行う構造化インタビュー、事前に決めておいた質問に加えてアドリブの質問も行う半構造化インタビューといった方法もあります。

いずれにせよ、「インタビュー」でデータを取る際は、少数意見の過大評価、調査者の誘導の疑いといった問題をクリアする必要があり、この点に注意が必要です。

各方法の強みと弱みを知り、調査目的に応じて組み合わせる

3つ目の「アーカイバル」は耳慣れない言葉だと思いますが、要は、ありもののデータです。社内にすでにある欠勤率や入社時のSPIの結果のような人事データや、官公庁などの統計的データなどがこれに当たります。調査目的によっては、解決するためのデータがすでに世の中に存在している場合があるので、それを使うのが合理的だということになります。

これらは数値データになっていることが多く、少なくとも数量的に加工できるものが多いのがメリットです。データを取得して加工すれば、Excelを使って分析することもできるわけです。ただ、慣れていない方にとっては、加工や分析の仕方が難しいとか面倒だということでハードルがやや高いかもしれません。

 

続いて、4つ目の「質問票」はアンケートなどでサーベイを行い、現場の様子を知っていこうとするものです。調査の実施・分析・報告の仕方といった手法が、最も確立されている方法だとされています。ほかの方法に比べて、比較的多くの対象に対してデータを集めることができますが、媒体が紙だった時代は実施費用が相当かかりました。しかし、今はWEBフォーム化することでペーパーレスになるなど、IT化によってコストが大幅に下がりつつあります。

「質問票」は、何でも数量化できるわけではありません。ただ、質問の仕方を工夫すればリーダーシップやモチベーションといったものについても数量的にデータを取ることができます。また、自由記述欄を設けるなど、上手に聞けば言語データも拾っていけることが強みです。比較的いろいろなものをうまく取っていく「インタビュー」の良さと、「アーカイバル」のデータのように数値で捉えていける部分を折衷した方法だと言え、両方をカバーできるので、従業員満足度調査などでかなり多く使われています。

 

最後は「実験室実験」ですが、これも耳慣れない方が多いでしょう。統制された環境下で、特定の条件を変化させたときの行動の違いを調べることに適した方法です。例えば、ある人事制度をある部署だけに導入してみて、導入しない部署との比較を行うなど、実際に現実に介入して調べるイメージです。ある施策を行った部門だけでモチベーションなり生産性なりが非常に上がったとすれば、その施策の有効性をきちんと数値データで示せるというのが「実験室実験」の強みです。しかし、コスト面を含めて負担が大きく、現実にはなかなか使われていない方法です。

 

このようにデータ収集方法にはさまざまなものがあり、人事はいろいろな武器を持っているとも言えます。人事の方々が現場で何が起こっているかを知るためには、それぞれの方法の強みと弱みを知り、目的に応じてこれらを組み合わせて使っていくことが有効です。

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