コロナ禍に大企業が次世代リーダー育成を託す、ALIVEの「異業種混合型リーダーシップ開発」の強みとは【HR総研セミナーレポート】

コロナ禍によって「これまでの当たり前」が当たり前でなくなった。世の中が大きく変化する中で、変化に対応できる強さとしなやかさを備えた「次世代リーダー」の育成を重視し、課題に挙げる企業は増えている。しかし、具体的にこのような次世代取り組みを行っている企業の話はそれほど伝わってこない。この現状を探るため、一般社団法人ALIVEとHR総研は共同調査「人材育成戦略の実態と課題」を実施した。本セミナーでは元サントリー食品インターナショナル 人事課長でALIVEの代表理事である庄司弥寿彦氏をゲストにお招きし、共同調査の結果をもとに、これからの時代に求められる「次世代リーダー育成」についてお話しいただいた。そこで語られたのは、サントリー時代より数多くの人材育成に携わってきた庄司氏が考える「次世代リーダー像」と育成のポイントや、多くの大企業が期待の人材を送り込むALIVEの実践する「異業種混合型リーダーシップ開発」の秘密など多岐にわたった。

庄司 弥寿彦

一般社団法人ALIVE 代表理事/合同会社CONNECTIVE 代表社員/一般社団法人 組織変革のためのダイバーシティOTD普及協会 代表理事

1995年サントリー株式会社入社。人事課長時に、ALIVEの前身となる次世代リーダー研修「モルツ・プロジェクト」を企画。その際、「社会的団体の想いに、ビジネスのリソースをつなぎ、変化を巻き起こす」ことをライフワークとして強く認識。2017年ALIVEを立ち上げ、無報酬のプロボノながら駐在中のNYから参画。2018年4月サントリーを退社しALIVEの代表理事に就任。社会課題解決等のプロジェクトマネジメントの受け皿として合同会社CONNECTIVE創立。2019年にALIVEから派生した、一般社団法人OTD普及協会を設立し代表理事就任。

寺澤 康介

ProFuture株式会社 代表取締役

1986 年慶應義塾大学 文学部 卒業。就職情報会社役員等を経て、2007 年採用プロドットコム株式会社(2010 年にHR プロ株式会社、2015 年にProFuture 株式会社に社名変更)設立、代表取締役社長に就任。2012 年にHR 総研を設立、所長に就任。日本最大級の人事ポータルサイト「HR プロ」、人事向けフォーラム「HR サミット」、経営者向けサイト「経営プロ」、アンケートメディア「PRO-Q」などを運営。

共同調査で明らかになった次世代リーダー育成の実態と課題

寺澤 コロナ禍にあって、「従来の延長線上にないリーダーの役割」が求められるようになっています。「分化の時代におけるリーダーのあり方」は以前から問われてきましたが、コロナをきっかけにそういった流れが加速しているようです。今回は、その分野で以前より先進的な取り組みをされているALIVEの庄司さんにお話をうかがおうと思います。庄司さんご自身は、もともとサントリーの人事でリーダーシップ開発に関わられた経験をお持ちで、退社後にALIVEを設立。継続してリーダーシップ開発に取り組まれています。

庄司氏 サントリーに23年間勤めまして、最近話題の45歳の時にサントリーをやめました。ALIVEの前身にあたるサントリーの「モルツ・プロジェクト」に関わり、社会の課題とビジネスをつないで世の中に変化を起こしていくことが自分のライフワークだと感じたからです。それが4年前のことになります。

寺澤 それでは私の方から、ALIVE × HR総研の共同調査のエッセンスを説明させていただきます。2021年の6月に実施したこの調査のテーマは「人材育成戦略の実態と課題」で、有効回答数は233件でした。

最初に「2021年度における研修の実施方法」について。企業の研修方法がコロナ禍で変化しておりまして、大企業であるほどeラーニングをはじめとするオンライン研修が増えています。もちろん、オンライン研修が普及したから対面研修がなくなるというわけではなく、コロナ以降は両者の混合型が増えていくのではないかと思われます。

「現状の実施・運営における研修の課題」については「効果測定ができていない」という回答が高く、これもまた大企業であるほど数値が高い傾向が見られました。ただし、これはコロナ以前から言われていることであり、「コロナ禍だから効果測定ができなくなった」というわけではないと思います。

「2021年度に実施する階層別研修と2022年度に注力したい階層別研修」については、2020年度までの実績としては「新入社員研修」が圧倒的に多いのですが、2021年度に注力したい研修としては「次世代リーダー研修」の割合がかなり高くなっている。次世代リーダーのあり方を考える動きは、多くの企業に共通するもののようです。

「人事もリーダーシップを発揮する」という意欲が高まっている

寺澤 では実際に「次世代リーダー育成」に取り組めている企業はどれぐらいあるのでしょうか。「具体的な取り組みを行っている」という企業の割合は、全体で見ると30%に過ぎません。1001名以上の大企業で見ても50%です。まだまだ取り組めていない企業が多いのが現状です。「重要なのは分かっているけれども、どう取り組めばいいか分からない」というのが正直なところではないでしょうか。

そして「次世代リーダー育成における課題」です。「キャリア開発との連動ができていない」「業務が忙しく、受講者の時間に余裕がない」「実務との連動ができていない」といった項目が上位に並びます。特に3つ目の「実務との連動ができていない」は、1001名以上の大企業で顕著となっています。これはまさにリーダー育成や研修の仕組みに関わる部分の課題です。また、フリーコメントで課題を聞いたところ、大きく分けて2つに分けることができました。ひとつは「次世代リーダー育成の仕組み構築」、もうひとつは「次世代リーダー候補の意識開発」です。

庄司氏 コロナ禍において、研修そのもののあり方が大きく変わってきているというのは以前から感じていましたが、この結果から実際に変化が起きていることが実証されたのではないかと思います。

冒頭の寺澤さんのコメントにもあったように、コロナ禍において、様々な局面で新たなリーダーシップが求められるようになったと感じています。もちろん平常時にも少なからず求められていたでしょう。しかし、大企業のような組織にいると、決められた仕組みの中でうまく回すことに追われ、新しいことを実現するのが難しくなる。コロナ禍はそういった組織のあり方を変化させる、つまり新しいことを実現しやすくするためのきっかけになり得ると思うわけです。

こういったウェビナーも、コロナ以前には想像すらできないものでした。そして、目まぐるしい変化が起こる中で、変化に対応できるリーダーシップが求められているのは、人事の分野でも同じではないかと思います。通常業務を回すことに手いっぱいになりがちですが、今こそ「この変化に対応しなければならない」という人事のリーダーシップが必要です。この調査結果には、「人事もリーダーシップを発揮するぞ」という意欲がよく表れているのではないでしょうか。

寺澤 人事は一般的に保守的な分野だと思われてきました。でき上がった仕組みを回す、前例を受け継いでいくものだと。それに対する「いや、そうじゃないよ」という声が、コロナ禍によって炙り出されたという印象があります。こういう時代だからこそ次世代リーダーが重要だと分かってはいるけれども、どう育てていけばいいのかが分からない。明確な答えがない上に、これまでのノウハウも適用できないという意味で、まさに過渡期です。答えがないことを前提とした取り組みをどのように行っていくのか。「リーダーとはこうあるべき」ということが書かれている教科書を渡すだけでは通用しなくなっているわけです。

「効率の良い伝統」と「非効率な新しい何か」を両立することの難しさ

寺澤 リーダーのあり方という議論は、庄司さんがサントリーに在籍された頃からあったと思います。どんな経験を経て、どんな課題意識を持って今に至るのかを教えてください。

庄司氏 前提として、私は今でもサントリーという会社が大好きです。その好きな理由のひとつに「やってみなはれ」という言葉があります。これぞリーダーシップのある言葉ではないかと思うのですが、私にとっては「自分のやりたいと思ったことをやる」という気持ちを尊重してくれる会社でした。こんなに好き勝手なことをやる人間を、よく23年も在籍させてくれたなと思います。サントリー食品インターナショナルの上場のタイミングでグローバル人事の立ち上げを担当しまして、多くの外国人社員が入ってくるという環境変化がありました。それまでサントリーはリーダーシップの強い会社だと思っていたのですが、異文化の外国人との関係の中でのリーダーシップの形は全く違ったことから、「リーダーシップは関係性だ」ということをその時に強く思ったんです。

サントリーが好きな人で構成された、モノカルチャーの中でリーダーシップを発揮することは、もちろん尊いことです。しかし、カルチャーが日本人ほどには共有できていない外国人がいる中でどうリーダーシップを発揮するのか。オーナー家のリーダーシップは、その時も変わらず発揮されていましたが、そうでない私たちがどうするのかをその時に問われた気がしました。外国人の方がやはりコミュニケーションが上手いので、このままいくと外国人のリーダーばかりになってしまうのではないか、という危機感も抱きました。もちろん外国人のリーダーがいてもいいのですが、それに対抗できる日本人のリーダーを育てたいと思ったわけです。そのための1年間のリーダー育成プログラム「Kyobashiリーダー部屋」を作成したのですが、その中の一部が異業種プロジェクト「モルツ・プロジェクト」で現在のALIVEの前身となりました。

寺澤  「みんな分かっているよ」という同質性が担保された中でのリーダーシップと、価値観やバックグラウンドの違う人々で構成された多様性の中で発揮するリーダーシップには確かに違いがある。しかし、後者のような経験がない日本人でも、それを経験さえすれば獲得し得る能力である。そういうことでしょうか。

庄司氏 はい。そんな偉そうなことが言える立場ではありませんでしたが、当時は「そう信じたい」と思って取り組んでいました。

寺澤 もうひとつ、大手企業における問題として、「巨大な組織の中で自律性を持って行動するということの難しさ」というものがあります。人事変革という切り口で様々な企業に話を聞くと、どの企業にも多かれ少なかれ「上司や同僚が同調してくれない」という難しさがあるようです。大きな変化を仕掛けたいと思えば思うほどそういう問題にぶち当たり、無力感を覚えるという。

庄司氏 そこは本当に難しいと思っています。大企業の組織というのは、ある意味ではとても効率的に回る仕組みになっていて、だからこそ上質なモノやサービスを全国に送り届けることができるわけです。そういった仕組みが定着している組織において、非効率に思える新しい何かを持ち込もうというのは、組織の論理に反する。イノベーションを大切に思わない企業なんてないと思いますし、「やってみなはれ」の精神を否定する企業もないと思いますが、「効率の良い伝統」と「非効率な新しい何か」を両立させることはとても難しい。

リフレクションとフィードバックの徹底がメタ認知の強化につながる

寺澤 そういう問題がある中で、庄司さんはサントリー時代から「異業種混合型のリーダーシップ開発」に取り組まれていたわけですが、ここでALIVEの取り組みについて改めて教えてください。

庄司氏 先ほどお話ししたように、ALIVEはサントリー時代の「モルツ・プロジェクト」が前身となっています。このプロジェクトを進めるうち、「社会の課題とビジネスをつないで世の中にインパクトを与えるのが自分のライフワークだ」と感じました。それで2018年、45歳の時にどうしてもこの取り組みに集中したいと思うようになり、サントリーを退社してALIVEを立ち上げました。

私をそこまで夢中にさせたのは何か。私がALIVEを立ち上げた理由は2つあります。ひとつはインパクトです。60人規模の企業人が、錚々たる企業の中で「変革の塊」となって世の中にインパクトを与えるわけです。もうひとつは、社会の課題とビジネスをつなぐこの取り組みが、いろいろな分野に派生しそうだと思ったからです。

それでは「人に眠る可能性を呼び起こし、社会の課題を解決する」をコンセプトとするALIVEの行っている研修の活動についてご紹介させていただきます。我々は「研修」ではなく「プロジェクト」と呼んでいますが、リアルな社会の課題に次世代リーダーが本気で取り組み、本物のリーダーシップを手に入れて帰っていただくことが目的です。目的をひとつの氷山としてイメージして考えると、水面から出ている部分が「異種混合ダイバーシティチームでリアルな課題解決に取り組み、成果を出す」こと、水面下に隠れている部分が「個人がリーダーとして成長する。振り返りを通じて自身の強み/弱みや思考の枠組み等を自覚化する」こととなります。

毎回7~10社、計60名程度にご参加いただくのですが、約3ヵ月の期間に4つのセッションを実施します。セッション1は「顔合わせ&テーマ選択」、セッション2は「情報収集と考察」、セッション3は「企画まとめと検証」、セッション4は「最終答申と振り返り」という流れで、現在はこれを年間3回のペースで実施しています。

セッション2~4ではプレゼンテーションを行うのですが、各団体で次世代リーダーとして選ばれて参加している人たちですから、最初はチーム内外の参加者たちに競争心を持っています。しかし、セッションを重ねる中で少しずつ、「勝ち負けではなく、社会の課題のために頑張りたい」という人としての率直な想いが表面化し、最終的には多くの参加者が夢中になって課題に取り組むようになるのです。これは、先ほどお話しした氷山の水面から出ている部分で起こる流れです。ただ、ここでの経験がすぐに学びになるわけではありません。それを「リフレクション」と「フィードバック」を繰り返すことで学びに変えていけるよう、ALIVEではそのための機会を各プログラムに埋め込んでいます。

これまでにのべ141社、計673名の企業の方にご参加いただき、39団体の答申先に対して提案を行ってきました。2017年のスタート以降、参加者数がコロナの影響を受けてジャンプアップし、お陰様で供給がパンパンという状態になっています。それだけ次世代リーダー育成への関心が高まっているということでしょう。

ALIVEにできる価値提供は大きく(1)リーダーシップ開発、(2)人事部同士のつながりの2つです。特に(1)は、「徹底的なリフレクションによる、メタ認知の強化」「他流試合による多様性マネジメントの強化」「課題設定力・解決力の強化」の3点に役立つと考えています。実際、ALIVE参加者の方のリーダーシップ向上に関する自己認識を聞いたところ、「自己の特性理解(メタ認知)」をはじめ「多様性の受容」「社会的意義の意識」といったものを実感し、しっかり持ち帰っていただけているようです。

他社を知ることで自社を知り「個人」ではなく「群れ」で変えていく

寺澤 ありがとうございます。コロナ禍で研修が下火になった時期がありましたが、ALIVEはかえって増えたわけですよね。それだけ送り出している人事の方々が効果を実感しているということだと思いますが、人事の反応にはどんなものがありますか?

庄司氏 人によって学びが異なるので、一概に「こういう声が多い」ということは言いにくいのですが、来ていただいた方が明らかに夢中になって取り組んでいるのを理解していただいているのが大きいのではないかと思います。ALIVEでは、いわゆるティーチングは行いません。ティーチングをやると、いきなり普通の研修になってしまいます。「すぐに役に立つメソッドを教えてほしい」という枠にはまってしまうわけです。現代は「変化」があって「答え」がない時代ですから、自分の置かれている環境から納得のいく解を導き出すメタな思考が重要になります。そういう意味でも、ティーチングという形で人に教えられることはそれほど多くないのです。

寺澤 リーダーシップが高まったどうかを測定することは難しいですよね。分かりやすく測定するなら、ティーチングしてテストをして採点するということになる。しかし結局のところ、その答えは自分の中にあり、自分で自分を再点検する、自分の中で組み立て直すものであると。ALIVEは、そういった思考を促すためのプロジェクトなのだと改めて実感しました。

庄司氏 ALIVEが異業種でやっている理由は、異業種の他社を見ることで自分や自社と比較できるからです。そこが見えた時に「変えたい」「変わりたい」といった気持ちが出てくる。コロナ禍によって、今回のようなオンラインでのコミュニケーションを我々は否応なしにすることになりました。そして結果的に「オンラインでも全然問題ないよね」ということも多くあることがわかりました。コロナ禍以前に「絶対できない」と思っていたことが、コロナ禍によって「できないわけではない」と分かったのですから、コロナ以降もそれらは部分的に存続していくでしょう。「みんなが変われば変えられる」ということは、けっこうあると思います。だからこそALIVEに参加される場合は、ひとつの企業からできるだけ多くの方を参加させてほしいとお願いしています。ひとりで来て、ひとりで会社に戻っても、個の力では学びを会社で発揮できる気がしない。しかし、仲間がいれば変えられる気がします。「個人」ではなく「群れ」で変えていくことが重要です。

寺澤 参加者だけでなく、人事の人たちも「自社の当たり前」と「他社の当たり前」が違うということを認識し、意識変革を起こす。人事の世界の多様性の中に飛び込み、どんな結果が出せるのか。そういう学びの場でもあるわけですね。次回に向けて「参加してみたい」「試してみたい」という方のために、何かお伝えできることはありますか?

庄司氏 ALIVEについては現在2期が進行中です。すべてのセッションをオープンにしておりますので、オブザーブは可能な範囲で受け付けます。もうひとつ、我々がおすすめしているのは、チームサポーターに来ていただくことです。研修費もいっさいかかりません。チームサポーターは参加者の学びをバックアップするだけでなく、サポーターご自身も学びのあるポジションですし、ALIVEのことを知っていただくにも良い機会になります。7日間は確保していただくことになりますが、よろしければ参加をご検討いただければと思います。

寺澤 よく分かりました。それでは最後に、庄司さんより視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。

庄司氏 人事にもリーダーシップが求められる時代です。我々も「群れ」となれば、世の中に良い影響が与えられると思います。興味を持っていただいた皆さんと、一緒に第一歩を踏み出せることを楽しみにしています。本日はありがとうございました。

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