「組織調査2020」にかける想い

服部 泰宏

神戸大学大学院 経営学研究科 准教授

神奈川県生まれ。国立大学法人滋賀大学専任講師、同准教授、国立大学法人横浜国立大学准教授を経て、2018年4月より現職。日本企業における組織と個人の関わりあいや、ビジネスパーソンの学びと知識の普及に関する研究、人材の採用や評価、育成に関する研究に従事。2010年に第26回組織学会高宮賞、 2014年に人材育成学会論文賞などを受賞。

日本企業をめぐる2つの問題

「組織調査2020」は,日本最大の経営学関連学会である組織学会とHR総研の共同による調査プロジェクトになります。調査に関わっている研究者の規模は32名。これはおそらく,我が国の経営学研究史上,最大規模のプロジェクトであると思います。この大掛かりな調査において私たちが取り組みたいのは,日本企業をめぐる2つの問題になります。

 

1つ目は,現在の日本企業の中で,革新的な製品・サービスを生み出し続けている企業とはどのような企業であるかという問題です。「日本人はみんな真面目なのに,企業の生産性が低い」とか,「従業員一人一人は優秀なのに,会社全体としてイノベーションが起こせない」といった言説を,しばしば耳にします。日本企業の現実を言い表した言葉として,決して間違ってはいないのだと思いますが,だとすれば,このような事態はなぜ起こってしまうのか。そうした中でも,革新的な製品・サービスを生み出している企業があるとすれば,その企業は他と何が違うのか。

 

2つ目は,目まぐるしく変化する外部環境に対応し,経営のあり方をうまく変更しながら,柔軟に,したたかに経営しているのはどのような企業であるか,という問題です。この調査に先立って行った別件調査の中で,私たちは,「新型コロナウイルス感染拡大にうまく対応している企業は,感染拡大前の段階で,平素から多様な解決策を提示し,問題に対して素早い対応をとり,社員一丸となって,変化する状況に対応してきた企業(レジリエンスの高い企業)である」という発見事実を手にしました。定常的な状態において成果を上げるために必要な要因と,今日のような不確実性の高い状況下で成果を上げるために必要な要因とは異なる,ということであり,この点をより深く探求するというのが,2つ目の点になります。

「組織調査2020」のアプローチ

このような問題に対して,私たちが採用したのは,2つのアプローチです。1つ目は,日本企業のイノベーションやその他の成果を,人事施策や組織文化のようなマクロ要因だけでなく,社員の一人一人の働き方や行動・心理にまでさかのぼって検討するということ。2つ目は,そのために,企業の人事部門レベルと現場のマネジャーレベルという2つの階層に対して,調査を行うということです。調査にご協力いただく皆さんにとっては,若干面倒なアプローチを採用することで,

(1)どのような要因を備えた企業が高い成果を上げているのか

(2)マクロ/ミクロ要因がどのように結合し,企業レベルや個人レベルの成果につながっているか

(3)企業レベルの成果に貢献するような強い個人は,どのような施策をとることで醸成できるのか

など,通常の調査デザインでは絶対に検討できないような,様々な知見を得ることができるはずです。

 

もちろんこれが,私たちの自己満足で終わってしまっては意味がありません。私は,アンケートを通じて手に入る分析結果は,企業の内部者にとって,「合わせ鏡」のような役割を果たすと考えています。「現場のマネジャーのリーダーシップスタイル」や「彼らが保有している能力」「働き方の実態」といった分析結果を手にすることで,私たちは,普段思いもしなかったような自社の問題や他企業との違いに気づいたり,そのことによって自社理解を更新したりすることができるようになる。自身の”後頭部”を見るための合わせ鏡のような役割を,データが果たしてくれるのです。

 

そのデータをテーブルに上に置き,人事部門内外で「あれやこれや」と議論が始まれば,みなさんの会社はすでに,組織開発の世界に入門したことになります。この調査を契機に,みなさんの会社の中で様々な対話が生まれればと思います。

現場と研究者の対話の契機に

もう1つ,この調査は,皆さんと私たち研究者の対話の契機にもなるはずです。本調査から遡ること数年前,私はボストンで開かれたアメリカ経営学会に参加し,私の研究者人生に決定的な影響を与える場面に遭遇しました。私が参加したセッションでは,経営学に関するさまざまな立場の人々(研究者や経営者,人事担当,コンサルタント,学生など)が集い,「なぜ経営学は現場の役に立っていないのか」というテーマで,侃々諤々の議論を行なっていたのです。アメリカの研究者や人事担当者たちが,研究と実践の関係,とりわけ,「お互いがお互いから何を学ぶか」ということを,真剣に,そしてフラットに議論しているということを,まさに五感でもって体験した瞬間でした。

 

この調査に関わる32名の研究者は,多かれ少なかれ,私と同じような問題意識を共有しています。研究の対象や採用しているアプローチこそ異なりますが,全てのメンバーが,日本企業の現実に強い関心を持ち,かつ,現場との対話の重要性を理解しています。抽象的な理論でも,無味乾燥な数理モデルでもない,他ならぬ貴社のデータを介して,皆さんと私たち研究者が,ともに企業の現在と未来について語ることができれば,これほど嬉しいことはありません。

意のあるところをお汲みいただき,「組織調査2020」にご協力いただければ,幸いでございます。

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