第45回:女性活躍支援のセオリーをぶっ壊す②-人材育成で定評がある管理職に女性社員育成を任せると失敗する-

人事のレガシー45「人材育成で定評がある管理職に女性社員育成を任せる」

レガシーを破る視点「女性が育つアプローチに統一すると全ての社員が成長する」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

尊重という名の差別にご用心

そもそも、男性と女性では「脳」の構造が違うため、マクロでとらえると、同じ指導方法でも男性脳と女性脳では響き方が違います。男性脳は「縦社会」、女性脳は「横社会」で共感がキーになるのです。

しかし、これにも盲点があります。確かにマクロではその違いが言えるのですが、女性でも体育会系出身であれば縦社会に充分適合しています。つまり「男性だから・女性だから」とレッテルを貼られること自体が嫌がられるのです。脳科学の視点は、男性管理職が男性社員と女性社員を育成するときの違いを知るという点では役に立ちます。ただ男女の違い以上に、育ってきた環境などで個々の考え方は違うのです。従って、個々それぞれを尊重した接し方が必要なのです。そうはいっても、人は絶対値で物事を考えるのは難しく、相対的にあるものと比較して違いを知ろうとします。あるあるなのが、部下育成が得意と言われたベテランが、過去に成果を出した男性の指導パターンをもとに、女性社員への指導の仕方を考えてしまうことです。結果、「『女性は・・・』と差別された、下に見られた、私たちは認められていない」と敏感に感じ取られ、パワハラ認定されてしまうのです。なぜなら、無意識のうちにも「女性は」とことさら性差を強調した指導内容や話し方になってしまうからです。

ダイバーシティ&インクルージョンの世界では個々の違いを尊重するのは基本中の基本ですが、男社会に染まってしまうと意外とできないものなのです。

「性別ごとに違うアプローチ」ではなく、「全ての人に共通に通ずるアプローチ」が正解

「女性は人として尊敬できて、会話などでも相性がいい上司の下でないと、モチベーションも生産性も上がらない」などとよく言われます。女性脳は「共感性」が高いため、共感できない人が上司だと八方塞がりになります。男性脳と女性脳からくるマクロのマネジメント感の違いを理解しても、「女性は」とレッテルを貼るような言い方はせず、「自分らしく、しなやかに」やってもらえるよう、一人ひとりに向き合うことが要諦です。これは、今のご時世、女性だけでなくZ世代にも共通ですし、もっと言うと本当は全ての人に共通しているものです。誰でも、「自分らしく、しなやかに」やってもらえるよう、一人ひとりに向き合い、大事な存在として認めてもらえる人にしかついていきたいと思わないですし、性差も年齢も関係なく、同じように通ずるノウハウでないと人は育ちません。

まさに、「ダイバーシティに通ずるインクルージョンなアプローチ」がもっとも効率よく人材育成に繋がります。では、どのようにすれば良いか、コツを解説します。

役職を身近に感じさせる

男性女性に関わらず、「管理職になってみたい」「自分もできそうだ」と感じてもらい、「やれる感」を掴んでいただくのが一番です。それには、社内の委員会、プロジェクト、勉強会などでの「役職のプチ体験」が有効です。ミーティングを開くにも、アジェンダや内容を事前に吟味してしっかり準備しなくてはいけないですし、他部署との根回し調整も事前に行う大事さを身に沁みてもらえるでしょう。自分一人が一生懸命頑張っても期限内に返事が来ない、シーンとした会議で最初に何を発言すべきなのかなど、管理職の視点と苦労をしみじみ経験することです。「このメールの返信はすぐにもらったほうが上司は助かるな」「今は上司の仕事が込み合っているので、会議の資料の重要なところは事前に作成しておいてあげよう」「上司が出張中に他部署に事前根回しをしておこう」など、組織運営を促すための動き方が分かるようになります。「1つ上の視点で組織運営を考えろ」と言われても、その立場でないと見えない世界があります。積極的に小さくてもリーダーの役割を担ってもらい、フォローしてあげると良いでしょう。「あなたをちゃんと見ている」という視点が共感を呼ぶのです。

女性の部下に「●●さんだったらどうする?」と相談してみる

「管理職の視点でどう考えるか」を丁寧にきっちり話して教えることは、実は得策ではありません。上から目線の話に聞こえますし、管理職の視点で考えるよりも、指示として受け止められて、「暗記すること」にウエイトを置いてしまうからです。

管理職の視点で考える癖をつけるにはどうすれば良いか? 「●●さんだったらどうする?」と相談する形で聞いてあげれば良いのです。人は他者の話を聞くときは同時に複数のことを考えられますが、話すときは1つのことしか考えられません。自分の頭で考えて話すことで、上司の立場から見ると普段どんなことを考えているのか、その違いを身近に感じてもらえるようになるのです。上司から相談されると「頼られている。嬉しい。」という気持ちにもなります。「上司ならこのときどうする?」と1つ上の視点で物事を考える癖が自然についていくので、お勧めです。本人に話をしてもらったほうが、組織全体を見る視点を養いやすくなります。

最後に1点だけ注意すると、「質問」ではなく「相談」するスタンスを心がけましょう。同じ問い掛けでも「質問」の場合は上司に正答があり、その解を探ることに意識が集中してしまうからです。女性のメンバーを1人の重要な存在として尊重し、フラットに相談するような接し方が重要になります。

関連キーワード

[レガシーの壁を超える人事の取り組み]のバックナンバー

関連する記事一覧

メディア掲載実績

共同調査 受付中。お気軽にご相談ください。

共同調査の詳細はこちら 共同調査のお問合わせ その他のお問合わせ