第46回:女性活躍支援のセオリーをぶっ壊す③-女性に絞って管理職研修を行うと失敗する-

人事のレガシー46「女性に絞って管理職研修を行うと失敗する」

レガシーを破る視点「みんながやくに立つノウハウを自然に共有できるようにする」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

管理職を目指す、男性と女性が抱える課題は大きく異なる

女性活躍の推進を進めていくと、今までの男性中心のマネジメントの脱却が必ず論点になります。突き詰めていくと、今までの男性中心の世界で活躍してきた側と、これから活躍を目指す女性側では、課題や論点が異なることが浮き彫りになります。

課題や論点が異なるなら、保健体育の授業のように、男性と女性をわけ、それぞれ課題や論点にダイレクトにこたえる学習を行うほうが効率的と考えるのは当然です。

男性管理職に焦点を当てると、長時間労働をはじめ、古い男性的な働き方やマネジメントの仕方を変えていただく目的で男性向けの研修を行い、女性の管理職の育成方法や効果的なコミュニケーションの取り方の違いを徹底的に教えるなどがわかりやすいです。

残念ながら、このアプローチは半分正解で半分間違いです。

多くの現場をみると、それぞれの研修の評判はよかったのですが、『男性は』『女性は』と以前にも増して性別による区別につながる言動が社内で定着してしまい、かえって溝が深くなる傾向がありました。

研修は評判が良いのに、なぜ、効果がでないのか。その原因と効果がでるアプローチについて解説します。

マネジメントの効率をあげるのに性差は関係ない

誤解があってはいけないのは、社内の女性同士の横のつながりを作る研修や勉強会は有効です。結婚、出産、子育て、嫁姑、夫の転勤など、女性同士ゆえに共感できる要素も多々あります。気軽に相談できることもプラスに働くでしょう。しかし、管理職研修を女性だけ、男性だけで行うとなると話は別です。実際の職場は管理職・部下いずれも男女混成が普通になってきています。それなのに同性だけを集めて「男女の特性について」を議論してみても、効果はそれほど上がりません。「男性管理職の場合は」「女性管理職の場合は」とかえって性差による違いを強く意識する場になってしまいがちです。

管理職研修の場合、男性・女性一緒に参加して議論し、学び合うことが、実はお互いを理解し、マネジメントレベルを底上げするには効果的なのです。

「違い」を学ぶのではなく「共通」して成果がでるノウハウを学び合う

マネジメントに性差は関係ありません。女性が活躍しやすい職場環境は、男性も働きやすいのですし、性差に関係なく十人十色、人の個性はそれぞれ違います。

なので、全ての「違い」にフォーカスを当て、対処方法を学びあうのは物理的に現実的ではありません。ただ「多様」なだけでは、組織運営はぐちゃぐちゃになります。

まさに、ダイバーシティ&インクルージョン。個性の「違い」を知り合うのではなく、「尊重して認め合う」こと。その上で、もっとも効率的なプロセスやルールを定め、全員がそれに準拠することで、多様性と効率化の両方が実現できることと一緒です。

「定時で帰り、生産性を上げる働き方」などがわかりやすいですが、マネジメントも性別に関係なく、組織運営の共通テーマの観点で、効果・効率があがるノウハウを共有していくことが、女性管理職を育てる早道なのです。

一本化して学び、守るのではなく、教え合う中で自然と拡げていく

現状を分析して課題や論点を可視化し、ベストプラクティスのベンチマークをもとに、最善なノウハウにまとめてから組織にインストールする従来のアプローチは微妙です。

調査し、まとめあげるまで、時間と工数が多大にかかる上、あるべき論で描いた通りに教えただけで現場が動けるほど、現場のスキルや意識は高くないので、滑ってしまいます。

あるべき論を教えただけで出来るケイパビリティが組織にあれば、そんなことをしなくても、女性活躍は既に推進済みになっているはず。

現場は常に忙しく、結果を出す責任があります。いくら良い方法を学んでも、リスクをとって新しい方法を試した結果、「うまくいきませんでした」は通用しません。手間がかかっても慣れた方法のほうが先々を読むことができるため、現実は現状の延長線で「もっと頑張る」に流れてしまうのは、致し方ありません。

キーは、「現場ですぐに出来て役に立つ」視点です。なぜなら、現場はどんなに理屈として正しくても、自分達の実務に直結して役に立つこと以外は、実践しないからです。

そこでお勧めなのが、社内SNSでお互いのOJTの手口を共有することです。

管理職全員とそれぞれの部下数名を入れたグループを形成し、2週間に1回程度、部下に300字くらいのアクションプランを作ってもらい、「振り返り」→「フィードバック・アドバイス」→「ネクストアクションの作成」というサイクルを回してみるのです。やり取りの内容は、管理職全員およびその部下全員がそれぞれ読めるようにします。直属の上司からだけでなく、ナナメの関係者からの質問、フィードバック・アドバイスもOKとします。こうすると、男女にこだわらず、誰がどんな部下指導を行っているか、文言と感情レベルで共有できます。管理職自身も自分の投げかけたフィードバックやアドバイスが他の管理職に見られ、また意見・感想が飛び交うことになるのでサボれなくなります。高圧的な指導や具体性のないアドバイスをすれば、そのまま全員にバレてしまう反面、うまくやっている管理者のやり方を横からカンニングして学ぶことができます。当然個々人の指導の仕方は違いますが、勘所やコツは共通なので、それが可視化され、バーチャルの世界ですが、お互い体験できます。学習のスピードも上がるので、この方法は要注目です。

「不適切にもほどがある!」の小川市郎さんもアップデートできた

中高年はテクノロジーに苦手意識がある、と考えるのは過去の話です。今の50代はファミコン世代です。少しコツを学べば、誰でも社内SNSをはじめとして、ITツールは使いこなせます。ドラマ「不適切にもほどがある!」の主人公・小川市郎さんも、昭和の価値観バリバリのまま現代にタイムスリップしましたが、回を重ねるごとに、スマホのアプリを含め、ITツールも普通に使いこなせるようになっていたことと同じです。

ネットで検索したり、SNSをみたりしたことがない中高年でも、ちょっと教えたり、使わざるを得なくすれば、すぐに使い方をマスターします。キーになるのは、そのツールを使わざるを得なくする環境整備ですが、既にメールをはじめWeb環境は揃っています。

足りない、もしくは不安要素があるとしたら、管理職同士のOJTレベルでしょう。

足りなければ外から補充すればいいのです。社内や外部講師の研修やアドバイスも、この社内SNSによるOJTの取り組みに取り込んでしまうのです。研修をしてもらいながら、この社内SNSのやり取りに直接赤入れしたアドバイスをもらうと、どうすればいいか悩んでいたことも赤ペン先生登場で、「こうすればよかったのか」と正解が一瞬で共有されます。

「いいね」が集まれば、年齢に関係なく嬉しいものです。現場ですぐ使える内容なので、わざわざナレッジマネジメントの場を設けたりする手間がかからず、一瞬でナレッジ共有できるのも魅力です。

社外講師でなく、「社内であの人にコツを教えてもらいたい」という方に動画インタビューを行って、その動画を社内SNSにアップすることで、体温が伝わる形でノウハウを教えてもらうこともできます。

もしくは、インタビューを動画配信で行い、話をナマで聞きつつ、質問やコメントにリアルタイムで答えてもらい、その内容をアーカイブとしてアップすることも効果的です。

生配信の時間に間に合わなくても、臨場感あふれるライブを追体験できますし、気になるところは何回も聞き直して学ぶ復習も簡単です。

またこの取り組みは、組織の壁や場所の距離をネットで取り払うだけでなく、垣根を越えたやり取りは、心の距離まで近くなり、エンゲージメント向上も狙えます。

DXツールや取り組みも進化しており、社員一人ひとりに外部の専属サポーターが毎週、電話でアドバイスし、SNSで共有するクラウドサービス「YeLL」や、AIテクノロジーも活用して学習効果を上げる「UMU」などのクラウドのサービスがあります。最初は、コストをかけず、今すぐ敷居が低い状態で活用できる、社内SNS等からスタートするのも良いですし、クラウドツールを取り組みの全体像の参考にしてみたり、貴社独自のやり方で有効活用するのも良いでしょう。

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