第58回:管理職強化の壁をぶっ壊す①―管理職とその候補が育ってこない・・・―

人事のレガシー58「管理職等、上を鍛え、部下に広めてもらう」
レガシーを破る視点「管理職で学ぶことを、みんなで学び、みんなできるようにする」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

管理職とその候補が足りなくなるのは能力ではなく構造が課題

「管理職・管理職候補者の数が全然足りない」との人事課題はどの組織でも共通していますが、特に今の管理職にはDEIや心理的安全性等、会社組織から求められる事が増え、かつ内容も複雑化してきており、その役割が難しくなってきています。それに対応するのに、管理職個人の自己啓発では追いつかないことはわかっています。

ゆえに、管理職の研修を充実させ、若くして抜擢して一皮むける経験を積ませたり、キャリアパスを明確にしたり等、管理職のアップデートにはぬかりなく手を打っています。しかし残念なことに、彼らはかえって疲弊するばかりで職場の活気は落ちる一方。その姿をみて逆に管理職になりたくない若手が増え、組織力や求心力が低くなり、かえっておかしくなっている現状があります。

なぜ、管理職への教育投資が機能しないのか。今の現場は忙し過ぎて、学んだことを消化し、現場で実践してみる余裕がないからです。組織の目標達成が求められるため、不慣れな新しいスキルを試すより、慣れていて先がよめる既存のやり方を選択せざるをえないのです。なので、研修等で管理職が新たに学んだことも、部下に指導できるほどレベルアップさせる余裕がないため、組織に新たな知見が広まることが難しくなります。

結果、現場からみると、研修参加等の工数が既存業務に上詰みされ、かえって激務になり、大変さが増す。その姿を部下がみて、「管理職は大変なのでなりたくない」という思いが余計強くなるという悪循環に陥り、人事の愛が不時着するのです。

管理職から鍛えるのではなく、「みんな」を同時に同じ内容で鍛える

管理職に学びを集中させるのではなく、部下を含め、みんな同じスキルを学ぶようにすればいいのです。管理職も部下も同じようにできるようになれば、管理職とその候補が不足することはなくなるのです。例えば、評価者研修の内容を被評価者が全員知ることで、管理職がどんな目線で行っているか、部下からみる景色とは違う景色がわかるようになります。また、ハロー効果等の評価エラーを知ることで、被評価者自らも学んでそのエラーがでないように心がける等により、上司の指導負荷が減り、部下の成長速度が加速します。このように、部下も本来管理職が学ぶことを知ることで、今の段階から自ら学び、実践できることが沢山あります。加えて、上司と部下の共通言語やノウハウになるので、学習スピードが増し、管理職の指導負荷が減ります。管理職を目指すのではなく、なる前にできるようにすることが要諦なのです。できるようになれば当然、管理職に準ずる役割も安心して任せることができるようになるし、本人も管理職として組織をまとめ、動かす醍醐味も“やれる感”も掴めるため、管理職になるためらいにピリオドが打たれます。自然に一つ上の視点で考え、動けるようになります。

マネジメントは仕事と人の両側面からアプローチする

管理職の担うマネジメントは大きくわけて2つあります。仕事のマネジメントと人のマネジメントです。

<仕事のマネジメント>
仕事のマネジメントは、仕事の進捗を適切に管理し成果を最大化することです。この分野は、KPIやPDCA等、管理手法やノウハウが体系化されています。ここに現場の実践知を加えることで、再現性が高く、身に着けやすく、成果に直結するノウハウが可視化されます。自己流や属人的に流れがちな仕事のマネジメントのコツを共有できるようになるため、管理職はすぐ実践でき、共通言語になるためムダなやり取りが激減します。部下からみると全てを管理職のようにできなくても、どうすればいいか道筋がわかるため、自分の役割やできる範囲の中で実践しながら身に着け、安心して成長できるようになります。

<人のマネジメント>
人のマネジメントは部下一人ひとりのモチベーションや成長を促し、チームワークを高め、組織として成果を生み出すことです。人のマネジメントは、子育てにおいて誰もが一家言あるように、自分の経験を通して個別・我流に流れるか、愛・誠実・利他・笑顔のような抽象的な観念論に陥りがちです。しかしこの分野も実は長年研究され、MBAで教えるくらい再現性高く体系化されています。ただし、アカデミックなものはそのまま現場で応用が難しいく、アカデミックを実践知に紐づけていくことで、しみじみ感が出てきて現場で使えるイメージがハッキリしてくるので、覚えることから使うことに変わります。加えて、コーチングや1on1、心理的安全性、サーバントリーダーシップ等、多くのメニューが存在するのも悩みを深くさせる要因です。残念ながら「コーチングさえすれば全て解決する」といったように一つの手段で全てを解決することはできません。ノウハウは体系されていても、人は十人十色。人をみて法をとく必要があるため、沢山の引き出し持つことが要諦です。ただし大事なことは、人のマネジメントの手法に詳しくなるのではなく、実際に使えるようになることです。なので、人のマネジメントを行う上で、きちんと課題を分析して整理・構造化し、効果がでるところから手を打つことが重要です。一つの問題が解決した結果、ステップアップしても新たな課題が表出してくる領域なので、課題が表出してくる順番に沿って学んでいくことで、学習→実践→成長のサイクルがうまく回り出します。

管理職と同じ内容のまま部下が学ぶと成長が速まり、上司へのディスリが減る

大量の時間やコストを用いる必要はありません。

①今管理職に実施している研修やマネジメントしている内容そのまま一般職にも行う
②ただし、理論的な背景で①検証して再現性を充実させる
③職場の実践知(コツ・事例等)と理論を紐づけて実践しやすくする

こうした工程で充分で、必要に応じて追加のコンテンツをつくればいいでしょう。

また、講師も全て外注するのではなく、

①管理職研修の録画を活用する
②管理職が社内講師になる

ことを前提におくといいでしょう。

まとめ

管理職と同じ内容を学ぶことで、部下は管理職の視点に立てるため、反感はなくなり、管理職に対する尊敬や感謝が生まれます。あとは管理職になる後押しをすれば喜んで受けて貰えるし、本人達からの「できるのでやりたい」という立候補も増えます。下が育ては管理職も刺激を受け、自身をより高みにあげる意志も余裕も生まれ、管理職自身のレベルアップも果たせるという好循環になるのでお勧めします。

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