第59回:管理職強化の壁をぶっ壊す②―部下がついてこない/素直にアドバイスを聞いてくれない・・・―

人事のレガシー59「管理職に『凄い人』を人選する。凄い人になれるようサポートする」
レガシーを破る視点「戦略的に『いい人』を管理職にする(凄い人に鍛えるより、戦略的『いい人』の方がラクに速くなれる)」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

若手を抜擢して管理職にしても機能しないのは当たり前

昭和の負の遺産ともいえる年功序列処遇に別れを告げ、これからは年功に関係ない適材適所の人選・配置する……。年功だけで管理職になった人を外し、凄い人だけを人選して管理職に添える……。これで組織は強くなると思ったのも束の間、若手の離脱が増えてしまうことは実はよくあることです。

確かに年功で昇格した頼りない人より、仕事ができる凄い人が管理職である方が経営層も安心して任せられるし、部下から尊敬の念を集められると考えることはごもっともです。しかし、ここに罠があります。罠は2つ。一つは、優秀なプレイヤーが優秀な監督=管理職になるとは限らないものの、実際の管理職への昇格判断は管理職の適正度ではなく、プレイヤーとしての評価しかないということです。昇格アセスメントを行ってもあくまで参考材料の位置づけなので、優秀なプレイヤーを推す上長や経営幹部の判断通りに決められてしまいます。管理職への昇格後は、簡単な新任管理研修があるだけで、あとは自分で頑張れという放置プレイになるため、管理職への切り替えができずに不幸が起きるのです。

二つ目は、そもそも管理職に求められる人材要件が昭和・平成のレガシーなままで、時代にあっていないことです。凄い人=プレイヤーとして優秀であるのに加え、「怖い人・厳しい人」であるという側面がセットになっていることが大半です。また、この手の凄い人は自分のやり方に自信があるので、その方法でぐいぐい組織を引っ張る傾向があります。昭和や平成の時代であれば頼もしい存在だったかも知れませんが、絶対的な君主は今の時代、嫌われますし、やもするとハラスメントやコンプライアンス的にも厳しいことになりかねなません。現在の経営幹部や管理職は、新入社員時は昭和か平成初期なので、その当時のマネジメント感で育てられ、成長体験を積み重ねてきています。ゆえに、今の時代の管理職の人材要件と合わなくなってきているのにもかかわらず、それに気づいていないことも多いので、凄い人を管理職にそえればそえるほど、現場の悲劇が繰り返される悪循環になるのです。部下が凄い人=管理職のマネジメントスタイルに異を唱えても、会社は凄い人のほうを大事にします。業績の達成責任は凄い人の影響が大きいと考えているからです。そこには、凄い人は全てが凄いはずというハロー効果も発生します。ゆえに、課題は上司と部下の相性と考え、部下がどんどん辞めても「コンプラがうるさいので注意してね」と注意することくらいしかできないため、現場はどんどんバラバラになっていくのです。

管理職の人材は、『戦略的な「いい人」』に切り替えることで機能する

管理職の人材要件をイマドキなものにアップデートしましょう。令和のご時世は、凄い人より、「この人と仕事をしたい」、「この人についていきたい」と周りが認める人が管理職として求められ、機能するようになりました。誤解があってはいけないのですが、いい人といっても弱くて仕事ができない人ではありません。メンバーの持ち味を活かし、組織として成果を生み出し、キャラ違いの部下でも成長させることができる人です。なんでもできるスーパーサイヤ人のような絶対的な強さで相手をひれ伏させるのではなく、漫画『ワンピース』のルフィのように、全てにおいて完璧ではないけど、メンバーがついてくるし、それぞれ成長する、そんなイメージです。

逆に言うと、独自路線の強い卓越したプレイヤーの場合はマネや再現が難しいので、育てるのが大変ですが、「いい人」であれば「マネジメント」等、戦略的に学習できる面も多いです。なので、いい人は戦略的に教え、後天的につくることも可能なので、機能する管理職とその候補の数を増やしていくには、戦略的にいい人を管理職の人材判断基準におくことが一番効率いいのです。

戦略的な「いい人」は残念な人ではなく今の時代のハイパフォーマー

「いい人」と「凄い人」を比較しつつ、人材の特徴を解説します。

<できるようにしてくれる:部下育成の精度と確度>
部下が管理職に相談する時は、現状を打破し、できるようになりたいのです。しかし、凄い人は自身のプレイヤー時代の経験をもとに俺流で指導し、自分のコピーをつくることしかできません。なので部下のキャラが上司と違えば、部下はその俺流を頭で理解してもできるようになるとは限りません。

如意棒は、使いこなせる孫悟空にとっては凄い武器ですが、猪八戒では使いこなせないのと一緒です。なので戦略的ないい人は、自分とキャラが違う相手でもそのキャラを活かしながらできるように指示や指導をし、部下の成長と成果向上を促すことができます。

ゆえに、どんなキャラでも育てられるように、

①ノウハウを誰でも再現できるよう解像度をあげる
②細かい指示ではなく、指示・コツ・理由をセットで伝える。空・雨・傘のシンプルで使う。というように、どんな相手でも一発で伝わるシンプルなフレームワークを使いこなせる
③管理職や誰かと比較してダメだしされたり、指示を通して承認欲求を満たしたり、余計な一言やイヤミ、褒め殺し等、余計な一言を一切言わない

というマネジメントの基本をちゃんと身に着けています。なので、この人材要件を判断軸にすると、プレイヤーとして断トツの成果を出しているだけではなく、指導した後輩たちの成果や成長度をみればいいでしょう。加えて、「仕事で悩んだ時に誰に相談するといいか」をアンケートで聞けば、おのずと誰に相談したいか、ついていきたいかが可視化され、昇格判断を間違えるリスクが激減します。

<未来や可能性を感じさせてくれる:コミュニケーション、リーダーシップ>
どんなに現状が大変でも人は希望があれば生きていける、といったように、未来や可能性を感じさせてくれる人に部下はついていきます。部下とのコミュニケーションの正解はたくさん広まっていますが、時代にあわないものが9割です。叱咤激励、愛あるダメ出し、「苦労は買ってでもしろ」、「あなたの実力はこんなもんではないでしょう」等の鼓舞する一言は、素直になればわかりますが、言われてなかなか嬉しいと思わないし、希望を持つことはできません。

傾聴だけされても聞いてもらえたことでスッキリするかもしれませんが、問題が前に進む感触は掴めません。「なぜ?」や「あなたはどうしたいの?」などと引き出す問いは、詰められている感覚を覚えます。「褒める」も、その裏に上から目線やマウンティングの匂いを感じます。

ではどうすれば、未来や可能性を感じさてくれるコミュニケーションできるかというと、「どうすればできるようになるか?」という視点で部下に伝え、問うことです。

現状からブレイクスルー方向に脳みそが切り替わり、解決しそうな方法やその先の未来に意識が向かいます。結果、ゴールや課題達成に向けて心がついていくようになります。これは解決志向という組織開発・心理学・カウンセリングの方法で、グローバルでは広くひろまっているものです。スジのいい解決策を選び、その線上にある壁を課題と捉え、クリアする分析を行えば、ムダな検討作業もなくなり、どんどん確度があがってモチベーションも高まり続けます。要は「できない言い訳」を考えるより、「どうすればできるか」を考える。遅刻の言い訳は沢山思いつくけど、どうすれば間に合うかを考えれば意外と間に合うことも多いのと一緒です。この手法は、学べば誰でもできるようになるので、管理職やその候補に学ばせればいいでしょう。

加えて、共感を得るには主語を「IからWe」に変えることを教えるといいでしょう。共感を得られるかは上司と部下の心の距離や信頼残高にもよりますが、主語がWeであれば組織全体&自分事として共感を覚えやすくなるので、ぜひ教えてあげてください。

<いつでもご機嫌でいる人:マインド>
誰だって、怒っている人や忙しいオーラを放つ人に近寄りたくないのは当然です。逆に「受け入れ体制バッチリです」とアピールする管理職も、ウザいと部下は感じます。

なので、管理職の一番大事なことは「いつでもご機嫌でいる」ことです。管理職の機嫌がいいと職場の雰囲気がよくなります。相談しやすくなるし、前向きにもなります。チームワークワークも生産性もよくなり、調査するとエンゲージメントも好傾向がでます。

簡単そうで難しいのが機嫌のコントロールです。なぜなら、人は感情の動物なので、頭で理解しても感情が受け入れないことが当たり前だからです。機嫌をコントロールすることは後天的に学ぶこともできますが、資質の影響もあるので修行期間が必要です。なので、アンガーマネジメントや戦略的ミュートを身に着けることを、管理職になる前の一般社員の段階から学ばせていくといいでしょう。

一見、いい人を戦略的に育てることは難しい印象を受けます。しかし、プレイヤーとして凄い人を育て、失敗の経験やリスキリング、マインドの切り替えをして管理職に変身させるよりも、評価基準や教育プログラムに取り入れる等、人材マネジメントに組み込めば、ラクに速く戦略的ないい人を増産できます。その上で、成果向上や生産性向上によって明るい職場が実現できるので、ぜひトライしてください。

まとめ

今回で、「レガシーの壁を超える人事の取り組み」の連載は終了になります。
ちょうどコロナ禍となった2020年から連載がスタートし、世の中の変化が加速する中、人事に求められる課題も複雑化し、今までのセオリーが通用しなくなったタイミングでの連載でした。本連載で示した通り、人事の課題や打ち手は論点を切り替えることで本質に近づき、より効果がでる打ち手を描けるようになります。逆に言うと、まだまだ人事でやれること、効果や価値を生み出せることは沢山あります。本連載が志高い人事の読者の皆様の一助になったのなら著者冥利につきます。約5年間、ありがとうございました。

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