第53回:採用のセオリーをぶっ壊す④-内定辞退!? 採用プロセスの手応えは十分だったのに・・・-
人事のレガシー53「内定者が不安にならないよう、スピーディーかつ丁寧に寄り添う」
レガシーを破る視点「「この人と働きたい」「ここで働きたい」というイメージを沸かせ、不安にさせない」
内定者フォローを速く厚くすればいいとは限らない理由
最終面接が終わり、「ぜひ、自社に入社して欲しい」と判断した逸材が内定を承諾してくれた時こそ、採用担当者の苦労が報われる瞬間ですが、ここで油断すると危険なことは既に気づいているでしょう。勝負は、実際に入社式を迎えるまで分かりません。全ての努力が無に帰する「内定辞退」はありうるからです。ゆえに、採用担当者は、応募者や内定者が不安になり、心変わりしないように、即内定を通知するなど、スピーディーかつ丁寧に寄り添うアプローチを徹底し、安心して入社できるようフォローを続け、寄り添い続けることがセオリーですが、内定辞退はある日突然、青天の霹靂のように訪れるのです。
実際、株式会社リクルート就職みらい研究所『就職プロセス調査(2023年卒)』(https://shushokumirai.recruit.co.jp/category/research_article/2023-research_article/)によると新卒採用の内定取得者のうち61.2%が「辞退の経験」があるとのことです。いわば、内定を複数得たうえで、吟味して進路を決めているのが実際です。中途採用でもマイナビ『中途採用状況調査2022年版(2021年実績)』(https://career-research.mynavi.jp/reserch/20220407_25952/)によると内定辞退率は11%もあります。
つまり、我が社が欲しい人材は他社も欲しい人材なのです。ゆえに、他社も同様にスピーディーかつ寄り添う丁寧な対応をするので、それだけでは差別化ができないのです。
加えて、会社の対応は、内定辞退されたくない意識が最優先されますから、「全く問題ない」「大丈夫ですよ」と良い側面ばかりを強調してしまい、逆に不安感や疑心暗鬼が生まれてしまうのです。
内定辞退者が本当に欲しいのはフォローではなく「現実」
内定者が本音で求めているのは、寄り添いや耳当たりのいいトークではなく、「入社後に自分が職場で働き、活躍できるリアルなイメージ」という現実です。やりがいを感じ、成長して認められ、世の中の役に立つ確信が得られれば不安を覚えませんし、ライバル企業から内定が出ても、こちらを選んでくれる確度は高くなります。人事は逆に都合が悪い現実こそ内定辞退に繋がると考え、入社するまで都合が悪い真実は知らせなくてもいいと考えますが、内定者はそこを一発で見抜きます。
今のご時世、退職者の口コミ含め、ネットを介して組織の実態は広まってしまい、それを止めることはできないからです。人事のフォローと内定者が取れる様々な情報に一貫性がなければ、内定者は都合が悪い真実を隠しているか、嘘を言っていると解釈するでしょう。
この働くイメージは、先輩社員に登壇してもらったり、座談会を開き、その様子を動画で見られるようにすればいいし、実際に行っている企業も多いでしょう。企業によっては働くイメージをつかんでもらうには、可能ならリアル体験が一番と考え、工場や職場見学、新卒であればインターン等を通して働くイメージの解像度をあげる努力をしている企業も多いですが、それだけでは一番大事なことが抜け落ちるリスクがあります。
働くイメージの中で、「この人と働きたい」「ここで働きたい」というリアルを掴ませる必要があります。それを実現するには、コミュニケーションの取り方のちょっとした工夫で可能になるのです。
【ポイント1】「問い」を通して特別感を描かせる
選考プロセスが最終に近づく段階からは「評価」ではなく「相談」を持ちかける質問を加えていきましょう。「次の若者向けのサービスで、あなたの意見やアイデアが聞きたいので教えてくれませんか?」「こんなこと一緒にやりたいよね、どう進めましょうか?」というように、入社して一緒に働く姿を想像させる問いを投げてみると効果があります。
「私は認められている」「私は頼りにされている」と求職者の自己肯定感が上がり、一緒に仕事に取り組む疑似体験を通し、入社前から自社の一員としての自覚を刷り込むことができます。「内定辞退が昨年多かったのだけど、あなたならどうすれば辞退者を減らせると思う? 本音やアドバイスを聞かせてくれたらうれしいな」と相談を持ちかける問いも同様に効果があります。
【ポイント2】社員に会いながら継続的なコミュニケーションを取る
魅力的な社員や親近感を覚える社員を中心にアサインし、コミュニケーションを取ることで、この人と一緒に働きたいという意識を高めることができます。加えて、空白の期間が長いと気持ちが離れることがあるため、懇親会、研修など、カジュアルな形でいいので、定期的に交流を持つことも重要です。
内定後、時間が経つにつれ、内定者が重要視するポイントの優先度が変わることもあるので、都度、本音をつかみ、解消できるよう、関係性を深めておきましょう。
【ポイント3】 内定者同士の交流を深める
社員との交流だけでなく、内定者同士のつながりも重要です。新卒入社の同期はその後も特別な存在になるからです。不安になっても同期が支えてくれる場面は多々あります。注意点は同期のキーパーソンがネガティブになると他の内定者もネガティブチェンジして集団離脱につながってしまうケースです。内定者一人ひとりの個性や資質を把握し、チームとしてお互いにストレスが生じない距離感でのケアが重要です。
他社がやらないけど、内定者が重視することを行うことで辞退は防げる
この3つのポイントの中で、重要なのは、他社がやらないけど、内定者が重視することを確実に行うことです。ライバル企業も内定者に「あなたのことが大切です」と言っています。また、【ポイント2】と【ポイント3】も当たり前に行っています。ゆえに、そこで差別をはかろうとしても、内定者からするとどんぐりの背比べで、実は対して差別化になっていません。なので、力の入れ所を間違えてはいけません。
キーは【ポイント1】の巻き込む問いです。既に仲間として参画している意識を形成し、入社前から当事者意識を引き出すのです。【ポイント1】は意外とできている企業が少なく、コストもかかりません。次のミーティングまで良い意味で❝後味を引く❞ので心変わりを防げます。「内定後は残りの学生生活を満喫してください。仕事は入社してからみっちり教えますので」というセリフが効いたのは昭和までです。今の新人は、会社が一生面倒をみてくれないと分かっているので、即戦力スキルの習得や成長につながる体験を強く求める傾向があります。その意味でも【ポイント1】の「問い」が要諦となるので、すぐにでも自社の採用に取り入れてみてください。その効果にビックリすることを約束します。
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