第55回:採用のセオリーをぶっ壊す⑥-工夫して目標人数を確保したのに、現場から悲鳴が…-
人事のレガシー55「人材難の時代ゆえ要件は最低限にして間口を広げ、採用後に現場のOJTで戦力化する」
レガシーを破る視点「人材要件のレベルをただ下げるのではなく『自社に長く働いて機能する』基準で絞り込む」
松本 利明
HRストラテジー 代表
外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。
採用基準を下げ、入社後に育てることで採用人数を確保しようとすると失敗する理由
採用の現場では超売り手市場が続き、収まるどころか逆に激しさが増しているため、自社で設定した求人の人材要件も、「理想」ではなく「普通」のレベルまで引き下げる現象が起きています。それでも応募数の段階で確保が厳しく、間口を広げるため、求める人材要件をさらに緩和し、とにかく母集団を増やし、内定者数を担保せざるをえない切実な事情はよく分かります。そして、人材の質の課題は入社した後にOJTを中心に現場力で育て上げていこうという考えも、ある面では正しいのですが、この戦略には落し穴があります。
人数の確保を優先し求める人材の要件レベルを落としてしまうと、入社後のOJTに耐えられない人材が紛れ込むリスクが高まるのです。その結果、現場はその新人の扱いに手間とストレスがかかり、パフォーマンも落ち、職場の雰囲気が悪くなっていきます。当の本人たちも上司や周りの苦労をよそに、「こんな研修じゃなくて、希望した仕事を早くさせてほしい」など、要求ばかりが一人前以上、そして、できていないことへの教育・指導には「パワハラだ」と切り返してくるため、八方ふさがりになってしまうのです。
採用基準のメリハリは「これ」だけでいい
求人の人材要件すべてのレベルを下げるのではなく、メリハリをつけましょう。
「我が社の仕事や機能に合っている資質」と、「自社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)などの経営理念と同じ判断軸・価値基準を持っていること」を、求める人材要件の最低基準に設定すればいいのです。学力知識・経験・コミュニケーション能力などの面で多少難があっても、仕事に合った資質があればラクに速く仕事ができるようになります。本人も達成感や成長感を自覚しやすく、周りが教育にかける負荷も減ります。
また、自社のMVVと同じ基準で物事を判断する人なら、OJTの場面でも納得や共感を得やすくなります。結果、自然に自社に馴染んでいきます。価値観のズレは修正が難しく、教育・指導の負荷も大きいので、同じ判断軸・価値基準を持っている人材なら、離職リスクも抑制できます。
要諦は、直球で聞かないことです。なぜなら、面接の場で「我が社の仕事や機能に合っていますか?」と聞いても、応募者は合っていそうな自己PRを用意してきていますし、「MVVへの共感」も同様に「共感しました」と言われてしまえばそれ以上のやりとりは難しくなります。嘘発見器を使うわけにもいきませんし、あの手この手の質問攻めで本人が圧迫を感じたら、逆に嫌われてしまうリスクが高まります。そうならないための工夫やコツを解説します。
【方法1】我が社の仕事や機能に合っている資質を見極める
自社の仕事や機能に合っている資質は、何がコツになるかを書き出すことから始めましょう。キーは、ポジティブな視点だけでなく、一見ネガティブに見える視点からも洗い出すことです。なぜなら、採用を考えると、「いい人材」が欲しいのが本音であるため、ポジティブな理想の視点から要件を並べてしまい、結果的に「そんな高スペックな人の採用は難しい」というオチになってしまうからです。あえてネガティブな視点も、大事なことなら洗い出してみましょう。コツは、要件を洗い出したら、逆から見て、何が自社ではNGなのかを書くことです。このYes/Noの関係が綺麗に成り立つ要件を判断基準に置くのです。
(例)地方の中小企業・せんべいメーカーの現場に求められる要件
Yes:飽きずに同じことを愚直にやり続けること
No:イノベーションや独創性
Yes/Noを対比させて表現することで、ポイントが鮮明になります。この会社では、決められた作業をきっちり、ミスなく、飽きずに集中できる要件を持つ人材が自社の機能にフィットし、継続的な成果を出し、長年勤めてくれる可能性が高いと分かるのです。イノベーションや独創性を起こせそうな人材は、確かに面接の場でも魅力を感じます。他社からも引く手あまたでしょう。採用に成功すれば、自社に新しい風を起こしてくれそうですが、事業のキーとなる製造現場で愚直な作業が伴う機能を任せると、資質が合わず、成果が出せないか離職してしまうリスクが高いことが分かります。
この「飽きずに同じことを愚直にやり続ける」という資質の有無は、適性検査、面接でのインタビュー、実習などで見極めていきます。この方法により就活や転職マーケットで埋もれている層から自社にとってピカピカな人材を惹きつけ、採用することが可能になります。
【方法2 】MVVへの共感を見極める
事前準備する求職者は会社のホームページをはじめ、ネット・雑誌・会社案内等、各種発行物の記事などを頼りにMVVを探り、「たいへん共感しました」とPRしてくるので、それを鵜呑みにしてはいけません。逆に、特に調べずにきた求職者の中に、実は自社のMVVにベストマッチな人材がいることもあります。
MVVは「経営から現場までの共通する判断基準」になります。ゆえに、ある状況で瞬時にMVVに沿った考えやYes/Noの判断ができるかどうかを面接の場で判断するといいのです。コツは「リアクション」で見切ることです。PRは作文できますが、リアクションの場合は瞬時に嘘をつけないからです。どう見切るかというと、判断に迷いそうな場面を提示し、「あなたならどうしますか?」と問うのです。考えさせると綺麗ごとで作文されるリスクがあるなら、選択肢をいくつか出して選んでもらうのもいいでしょう。
「おばあさんが頼りない足つきで来店されました」という場面を設定し、「声をかける」「順番待ちカードを持ってきてあげる」「お茶を出す」など、いずれも正解といえる選択肢を用意し、選んでもらうのです。このようにして求職者本人の本質的な判断基準を見ます。
リッツ・カールトンなど、クレド(MVVをより具体化したもの)で有名な会社も、判断に迷うケースをクレドに照らして判断する訓練を実施し、浸透を行っています。ゆえに、採用だけでなく自社内のMVV浸透にも活用可能なアプローチです。
本連載の「第3回:行動評価のレガシーの壁をぶっ壊す!(https://hr-souken.jp/article/1709/)」を参考にするといいでしょう。
いずれにしても、キーは欲張りになり過ぎないことです。チェック項目を多く盛り込んでしまうと、それらにベストマッチする人の割合は減ってしまいます。最低限入社時に持っていて欲しいこと、入社後に教育で鍛えられることを区分けして設計するといいでしょう。
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