第47回:健康経営のセオリーをぶっ壊す①-有給休暇を優先的に押さえ、しっかり休ませる-

人事のレガシー47「有給休暇を優先的に押さえ、しっかり休ませる」

レガシーを破る視点「精神的余裕と充足を先に取り戻す」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

健康経営は「きれいごと」が現場の本音

「健康経営」と聞くと、多くのおじさんは、「健康管理は自己責任」と考え、「なに甘っちょろいこと言っているのだ!」と感慨するかもしれませんが、その価値観は過去のものです。深刻化する人手不足に加え、転職するのは当たり前。ハラスメントは絶対NG。昔の価値観のマネジメントは求心力の真逆の遠心力となり、人がどんどん遠ざかる。仕事は減らないのに残った人で回すしかなく、ブラック化が加速し、人がさらに採れなくなるという悪循環になります。企業こそ、働き手に「選ばれる」時代の今、健康経営はある意味重要な戦略になりました。社員が元気で活躍し、成果向上や生産性もあがる上、人材確保もできるようになるからです。ただし、「健康チェック」に重きを置いた施策の展開だけでは失敗します。健康診断で血圧や肝臓や体脂肪の値が引っかかっても、すぐ生活習慣を改められる人は極少数です。実際は、病気で倒れでもしない限り生活習慣を改めない。病気が治ったら元の生活に戻ってしまうケースも多いものです。

また、残業を減らし、健康にケアした結果、「目標が未達成」は許されません。結果、現実として忙しい現場は、健康経営よりも目先の目標達成を優先してしまう悪循環に陥るのです。理由は、今までの働き方以外のやり方は実践したことも教わったこともないので、「今のやり方でもっと頑張る、工夫する」という少ない選択肢しか持っていないからです。そう、健康経営こそセオリーを徹底するのではなく、「戦略」が必要になるのです。

スキルだけでなく「休み方」もリスキリングが求められる

今回は、健康経営の中の代表的なテーマのひとつ、「休み方」を取り上げます。

代休・有休を無理なくとれ、かつ、仕事に支障が出ないようにすることが王道ですが、その前の段階でつまずいているケースも多いものです。

<理由1>物理的&精神的に休みを考える余裕がない

そもそも、忙しい現場はまさに中国雑技団の「集団皿回し」状態です。沢山かかえた皿を全部同時に大量に回し続けるがごとく、目の前の仕事に集中せざるを得ない状態が続き、先々に向けたこと等、着手する余裕すら生まれなくなります。自身の長期的なキャリアやスキルアップについて考える余裕もなく「とりあえず今をやり過ごす」程度しか余裕がない状態が続くと、大局的な見方も先のことも考えなくなるのです。この状態になると、仕事同様、プライベートも近視眼的にしか考えられなくなります。「睡眠時間を増やす」「ヨガやジムに行く」程度しか考えられない思考習慣が身についているので、休みが中途半端に増えても、どう使っていいか分からないのです。

<理由2>「休み」の使い方がわからない

そもそもですが、中高年を中心に「休み」を有効的に活用する術を知らないのです。休み=疲れを取るか家族サービス。たまに大学時代や会社の同僚とゴルフや飲み、程度しか休みの使い方を知らずに会社人生を過ごしてきているからです。家にいると必要以上に家事をさせられて疲弊する。奥さん中心の家庭のルールやルーチンができていて、自分の居場所がない。休みの度に飲みに行くにもお小遣いには限界がある。たまの飲み会のメンバーは会社の人ばかりで結局仕事の話など、結局職場にしか居場所を見出せないことが浮き彫りになります。結果、仕事が沢山あり、部下達を休ませるので仕方ないという言い訳を旨に、管理職はこっそり休日出勤してしまう。「君たちは休みなさい」と上司に言われても上司が休日出勤して仕事をしているので、若手も休暇申請がしづらくなる。という悪循環のメビウスの輪から出てこられなくなるのです。

視点を少し変えるだけで現状が生まれ変わる

今回は、一番根が深い、「<理由1>物理的&精神的に休みを考える余裕がない」を解決するコツを解説します。どんなに効果的な休み方の知識を得ても、心に余裕がないと、その知識を活用する気も起きないですし、その前に「バーンアウト(燃え尽き症候群)」やメンタル不調に陥るリスクが高くなるからです。

ご安心ください。パンツのゴムは伸び切ったら、取り替えるしか手はありませんが、心のゴムは伸び切っても復活は可能です。瞑想・マインドフルネスも効果ありますが、今回ご紹介する方法は、日常の思考パターンの角度を少し変えるだけで、同じ現実でも見方・考え方が代わり、精神的なゆとりに加え、効果的な打ち手も浮き出てくるものを紹介します。そのコツは2つあります。

① PDCAではなく、解決志向のアプローチを取る

PDCAは仕事を前に進める基本であるということに異論はないでしょう。しかし、PDCAをきっちり回すことは意外としんどいものです。実際、世の中にこれだけPDCAの本が出ているということは、それだけうまく回せず、問題意識を持っている人が多いという証拠です。多くの本は工場などの生産現場のモノに対するアプローチで、トヨタが企画部門で実施しているPDCAとは要諦が違います。スマホの調子が悪いのはケーブルの断線が原因だったのでケーブルを買い替えるなど、モノの場合は原因を突き止めれば解決が簡単です。しかし、チームで価値を提供する企業活動の場合、PDCAを突き詰めていくと、最後は誰か特定の「犯人」に突き当たります。営業であれば「今月、目標達成していないのは田中さんだけだ」という具合です。しかし、100対0 (ゼロ)で誰かが悪いということはありません。「取引先の関係先が倒産したため、先方の仕事が止まった。そこまでは私では手に負えない」など、その人なりの理由があるからです。この例のように自分たちで問題解決できないことも多々発生します。人は責められると防衛機制が発動して、さらに問題が複雑化します。PDCAのせいでマネジメントが難しく大変にならないようコツを解説します。

「なぜ」ではなく「どうすれば解決するか?」に問いを変える

一番のコツは「なぜ?」といきなり原因追及しないことです。「なぜ」と言われると、外資系コンサルタントのように慣れていない場合、「責められた」と感じ、プレッシャーがかかり、思考が狭くなります。

その場を逃れようと一番簡単にクリアできそうな原因を挙げてしまう心理が働きますが、それが本質とは限りません。今は1人で完結する仕事などなく、仕入先、取引先、関係部署など、多数の方たちと連携しながら物事を前に進めていくのが基本です。従って、課題や原因は無数に挙げられるし、おそらく1つの原因を解消しても、違う課題が出てくるでしょう。

大事なのはゴールにたどり着くこと。「どうすれば解決するか?」「どうすればいいか?」という問いは前向きです。外資系や企画系でうまくPDCAを回している組織はこの問いから入ります。人を責めても、無数の原因から何かを特定しても、ゴールにたどり着く本筋と関係ないものは意味がないと見なすのです。これは、カウンセリングや心理学系の問題解決では「解決志向」と呼ばれており、全世界で普及しています。

「なぜ失敗したのか?」ではなく「どうすれば成功するか?」に問いを変えます。そうすると、会議の暗く沈んだ時間はなくなり、心が前向きになり、ゴールにつながる施策が短時間で出るようになり、時間のムダだけでなく精神疲労も激減します。

もう1つの効用は物事を考えるとき、暗く追い詰められる「なぜなぜ思考」から解き放たれるので、すべてを前向きに考える癖がつきます。仕事もプライベートも使う脳は一緒です。仕事で前向きに考える癖がつけば、プライベートも前向きに考えられる余裕と思考回路が手に入ります。

② 内省する際に、反省して落ち込まないよう「論点」に沿って振り返る

PDCAの「C」は振り返りや内省に相当します。日本人はもともと内省する癖が強いので、「反省」して必要以上に落ち込み、自分を責めてしまうので注意が必要です。内省は自分の行動の修正箇所を見つけ、修正方法を探ることで、以前よりパフォーマンスが高い行動につなげることです。自分を責め、落ち込むことではありません。

「論点」をもとに振り返ると落ち込まず、修正箇所と行動が分かります。いきなり内省するのは止めましょう。漠然と大きな問いで内省すると、たいていは“あれもこれも自分の責任だ”という反省になってしまいます。“しっかりしなければ”という思考パターンにとらわれてしまい、メビウスの輪から抜け出せなくなります。

内省する前に具体的に論点を書き出し、その論点に沿って、事実ベースで振り返るのが正解です。

例えば、

1)どんな時にプランとズレが生じるか?

2)どんな時に時間がとられやすいか?

3)どんな時にストレスがたまるか?

4)どんな時に想定外が起こるか?

5)誰と仕事をするとトラブルが発生しやすいか?

 

という視点から振り返れば、「いつもB部長が最後の最後でひっくり返してやり直しになる」など、共通したパターンが見えてきます。共通パターンが見えれば対処方法も導けます。対処方法は具体的な打ち手や行動になるので、いたずらに自分を責めて自尊心を傷つけたり、セルフイメージを低くしてしまうことはなくなります。内省の時間も短くなるのでお勧めします。

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